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たとえ人生をやり直せるとしても俺は同じ過ちを繰り返す  作者: 大神 新
第2章:どうしても失いたくなかったもの
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第21話:君のいない世界はやっぱり寂しい

 怒涛の体育祭が終わったと思ったら、次は球技大会だ。


 球技大会は体育祭とは別開催で、年に3回も実施される。

 基本的に期末テスト後に実施され、運営は生徒会執行部に一任されている。

 色分け対抗の体育祭とは違い、クラス別対抗になるため生徒には割と人気だ。

 球技大会中は授業は一切なく、試合が無い時間は全て自習となる。

 自分たちの試合がない時は何もしなくて良い。

 おそらく、こっちも人気が高い理由だと思われる。


 ……今考えると、これ、絶対期末テストの採点のための時間稼ぎだよな。

 教職員の仕事も大変だと思うので、お互いに都合よく時間が使えると思えば悪いことではないか。


 定例会に参加するために生徒会室へ行くと、今日は容子(ようこ)先輩が来ていた。


「やっほー、高木君。元気?」

「容子先輩! 会えて嬉しいです!」

 清楚という言葉をそのまま体現したような容子先輩はとても素敵だ。

 黒髪ロング、生徒会執行部メンバーの髪型はかなり偏っている。


「私もだよー!」

 といって手を振ってくれた。

 社交辞令だとしても胸が熱くなる。

 ああ、可愛いなあ。


「容子先輩、本当に綺麗だよね。」

 隣にきて呟いたのは奈津季(なつき)さん。


「奈津季さんがそれを言っちゃうの?」

「えっ、なんで?」

 どうもこの子は自分が超絶美少女だということを理解していないようだ。


「容子先輩は見た目だけじゃなくて声も仕草も可愛いんだよね」

「それ、わかる!」

 何故か、女子と女子の話で盛り上がってしまった。


「そろそろ定例会を始めるぞー」

 体育祭から引き続き、神木先輩が指揮を執る。

 球技大会も競技内容なんかを詳細に記載した実施要項を作成する。

 こちらはすでに提出、承認済みだ。


 今回の種目はバスケ、バレー、サッカー、ハンドボール。

 サッカーは男子のみ、ハンドボールは女子のみとなっている。

 この内容は生徒会アンケートで支持が多かったものを採用している。

 ドッヂボールやキックベースをやった年もあるらしい。

 コートや参加人数の都合でテニスや卓球などの少人数な競技は出来ない。


 なお、基本的に所属する部活の種目には参加出来ないとしている。

 なのでテニスがあっても俺が活躍出来る場所はない。

 むしろ、審判とかしなきゃいけないから生徒会の仕事と被ってしまう。


「じゃあ、担当を決めるぞ。

 今回、本部の対戦表管理は(りゅう)でいいな?」

「ああ、頑張るよ」

 (りゅう)平澤(ひらさわ)先輩のあだ名である。


 2年生同士は大抵、あだ名か下の名前で呼び合っていて羨ましい。

 俺たちは高木、大場、拓斗(たくと)、奈津季……そして梨香。

 あー、そんなに違わないか、下の名前も多い。


 平澤先輩は部活が忙しいようで、生徒会室に来るのは俺と同じぐらいの頻度だ。

 当時はあまり話したことが無かったが、対戦表管理を引き継ぐことになってからは良く話した。

 頭はとても良いが、意外と天然で可愛いところがある男子だ。


「メインテントは私がチーフ、サブテントは嘉奈(かな)で良いか?」

 球技大会は会場が校庭だけでなく球技コートと体育館まで使用する。

 そのため、運営するためのテントは2つ設置されるのだ。

 メインテントは主にサッカーとバスケのコートを担当。

 サブテントはバレーとハンドボールを担当する。


「えー、私? 沙希(さき)ちゃんのが良くない?」

 ぼやいたのは嘉奈先輩。

「ほら、私ってサポート向きだからさ」

 付け加えたのは沙希先輩だ。


 まあ、なんかわかる……。

 沙希先輩はメインというよりサポートの方が似合う。


「うー、プレッシャーだ……」

 机に突っ伏しながらそう言う嘉奈先輩。

 髪が長いから顔が全く見えなくなる。


「容子先輩には本部のオペレータを手伝ってもらうことになった。

 通常、3年はサポートなので参加しないが今回は特別だ」

 ああ、そうなるのか……。

「当日だけの参加になるけど、よろしくねー」

 容子先輩と話すチャンスが増えるというのは嬉しいことだ。


 だけど……、一ノ瀬の代わりと考えると寂しくなる。

 本来の生徒会執行部には一ノ瀬がいたのだ。


 生徒会室の日常はいつも通りだった。

 彼女が居なくても体育祭は乗り切れたし、きっと球技大会も何とかなるだろう。

 でも、俺が知っている過去とは違う。

 生徒会室にはよく、彼女の笑い声が響いていた。


「どうかした?」

 声をかけてきたのは奈津季さん。

「ん、何でもないよ」

 少し、ぼーっとしてしまったようだ。


「1年は仕事を覚えてほしいからローテーションとする。

 高木、拓斗は初日はサブテントで2日目がメインテント。

 大場、奈津季は初日メインテントで2日目がサブテントだ。

 本部オペレータにも1人ずつ入ってもらう。

 タイミングは指示するから当日は私の指示に従ってほしい」


 球技大会の役割分担が決まったら、続いては広報紙の内容確認。

 更に北部合同会議に向けての確認と続く。


 北部合同会議というのは学区内の他校との交流会のようなもの。

 他校の生徒会執行部と情報交換をする目的で開かれ、代表生徒である生徒会長と副会長が参加する。

 その協議内容はあらかじめ提出しなければならない。


 生徒会執行部は割と忙しい。

 行事の合間は仕事が無いように見えて他校とのイベントや資料整理があるのだ。

 地域のボランティア活動に参加することもある。


「では、今日の定例会は以上となる」

 会議が終わって神木先輩も少しほっとしたようだ。

「お茶でも買って来ましょうか?」

 少しお疲れ気味に見えたので声をかけてみた。

「なんだ、気を使ってくれるのか?」

「はい、大丈夫ですか?」

 ビシッと額を叩かれた。


「まず自分の心配をしろ。お前も運動部と2足の草鞋で大変だろ」

 相変わらず優しい人である。

 ……俺の中身は先輩よりはるかに年上なのだけどな。

 20年以上たってもこの人には敵わないな、と思った。


「よっと。じゃあ、一緒に買いにいくか?」

 そういって先輩は立ち上がった。

「あ、じゃあ私も!」

 奈津季さんも後に続く。


 定例会が早く終わった時は大抵、テニス部に顔を出す。

 だが、今日のように長引いた日は生徒会室に残ることが多い。


「私は大丈夫だよ、皆がいるからな」

 歩きながら神木先輩はそう言った。

 当時の俺にはこんな風に他人を信じることが出来なかったんだよな。

 凄い人だと思う。


「私よりもな、(りゅう)を心配してやってくれ」

「あー、対戦表ですね……」

 実は対戦表を管理するのはとても難しい。


「ん? 知っているのか?」

 しまった、この時点の俺はそんな知識無かったか。

「トーナメント制で対戦カードを決めると聞いた時点で何となく予想ついてます。

 俺、理系なんですよ」

 これで何となくごまかせるかな。

 嘘をつくことと、ごまかすことは随分と上手くなったつもりだ。


「そうか、なら期待できそうだ。

 去年は館林(たてばやし)先輩がやっていたんだがな。

 やはり先輩も2日目は憔悴していたよ」


 対戦表を作るには組み合わせ――対戦カードと試合時間がカギになる。

 種目毎に試合時間が異なるうえ、球技大会は複数種目に出る生徒も多い。

 となると、同じ時間内で同一クラスの対戦カードは組めない。

 さらにトーナメント制なので2回戦以降は当日、試合結果が出るまで分からないのだ。

 都合、その場で対戦カードと試合開始時間を調整する必要がある。

 これが本当に難しいのだ。


「出来るだけ、努力します」

「うむ、1年はそれでよい」

 そういって、神木先輩は機嫌良さそうに笑った。


 ――チリンチリン。

 生徒会室に戻ると大場と嘉奈先輩、沙希先輩が静かに話していた。

 アイツが居た頃は、よく生徒会室の外まで笑い声が響いていたっけ。


 笑っていたのは一ノ瀬だけじゃない。

 奈津季さんや中森、大場ともよく一緒に笑い合っていた。

 もちろん、神木先輩や嘉奈先輩、沙希先輩ともだ。

 アイツは、いつも笑顔の中心にいた。


 そうか、この違和感のような寂しさは……彼女がいないから、じゃない。

 一ノ瀬が居なくても世界が当たり前のように振舞っているからだ。


 一ノ瀬を必要としているのは俺だけじゃない。

 生徒会室にいる皆がアイツを必要としていた。

 勝手に世界を進めるな。

 ここは、アイツの居場所でもあったんだ。


 俺は誰が欠けても嫌だ。

 誰かひとりでも、居なくなってしまったら……。

 それは寂しい世界だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良質な文章で読みやすいと思います。イベント、人物をそこまで掘り下げてないので話の本筋を追いやすい。 [一言] 自分を肯定出来るほどの影響力、生き方を与えた人にもう一度会えるとしたら・・・ …
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