届くはずの無かった手紙:居なくなった人へ
――1枚目。
一ノ瀬 梨香さんへ
まずはこんな手紙を書いてしまったことを許してください。
気がつけば、君と決別してから3年も経ってしまった。
でも年月を重ねたおかげでやっと気持ちの整理がつきました。
時間がかかりすぎ、そう言われても仕方ない。
けれど、必要な時間だったと思うんだ。
あの頃の俺は本当に駄目だった。そのことは許してほしい。
君を責めるつもりは少しもありません。でも本当に辛かった。
あのまま、傍に居たら俺はきっと君を憎んでしまったと思う。
それだけはどうしても嫌だったんだ。君は何も悪くない。
本当は一緒に居たかった。今も、そう思っている。
単刀直入に言います。今更だけどもう一度、君に逢いたいです。
君と決別することを選んだ事を後悔する日もたくさんあった。
出来れば笑顔が見たい。せめて声だけでも聴きたい。
最近は夢の中でも会えないんだ。それが寂しくて仕方ない。
ごめんね、都合が良い事を言っているのは分かっている。
それでも我慢が出来なかった。どうしても願ってしまう。
――2枚目。
元気でいますか? 今でも君の事を心配しているよ。
俺にそんな権利は無いのかもしれないけれど……。
俺の方は元気です。しばらくは辛くて仕方なかった。
でも今は楽しいと思えることを見つけて日々を過ごせています。
それでも、まだあの頃のようには笑えていません。
君と一緒に居て、何気ない会話の中で大笑いした日々。
あの頃に戻りたいなどとは思っていないつもりだったけど……。
もう一度言います。みっともないけど、君に逢いたい。
どんな言葉でも受け入れます。君の返事が欲しい。
けれど、これは身勝手な願いです。このまま放置して構わない。
それで今、君が幸せでいると思えます。
連絡先は君と決別した時から変えていません。
これまで連絡が無かった、それが君の答えだと理解しています。
俺としては君が幸せで居てくれるならそれで良い。
だから、こちらから連絡を取ることはしないつもりでした。
でも、ごめんなさい。我慢できずに手紙を書いてしまいました。
――3枚目。
どうしても伝えたいことが出来たのです。
言いたいことは全部言ったつもりだった。
でも今になって、伝えたい言葉が何だったのか分かりました。
それが君にちゃんと伝わっていなかったら嫌だから。
ここできちんと言葉にさせて下さい。
「ありがとう」
俺は君に出会えて幸せでした。辛いことも悲しいこともあった。
けれど、その全ての時間が俺にとってかけがえのないものです。
心からこう言えるようになるのに、時間がかかってしまった。
身勝手だった自分を謝りたい気持ちもあります。
でも、そんな言葉を君は聞きたくないでしょう。
他にもいっぱい話したいことはある。でもいいんだ。
これだけ伝わればそれでいい。俺は本当に君に感謝しています。
君は俺の世界を救ってくれた。俺自身を変えてくれた。
今、俺が自分を幸せだと思えるのは君のおかげです。
最後、一つだけ。君が俺に聞きたいことなんてないと思うけど。
想像できる問いかけが一つだけあったから、言わせてください。
「君を好きだよ」
――4枚目。
どんなに月日が経って、お互いに変わってしまったとしても。
俺はずっと君のことを好きでいる。昔、手紙に書いた通りだ。
これまでずっと、この気持ちをひたすらに否定していた。
何とかして忘れようと努力したんだよ。
でもどんなに頑張っても駄目でした。俺は君を忘れられません。
今更、君とどうにかなりたいなんて思っていないよ。
本気でそう思えるようになったからこそ。この手紙を書きました。
ただ、珈琲を片手に君と話したい。そして、君の話を聞きたいな。
最近のこと、旦那さんや子供のお話でもいいよ。
昔のこと、楽しかった思い出でも辛かったことの愚痴でもいい。
他愛のない世間話をしたいと思っています。
もしも良かったら、俺にそういう時間をくれませんか。
連絡先はこれからも変えるつもりはありません。
だから期限はないよ。十年先でも二十年先でも良い。
俺は君の連絡を待っています。
高木 貴文より




