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第九話

「その方法ってのは、どんな方法なんだ……?」


 オスヴァルト殿下は私に国の安全を守る方法を尋ねました。

 大量の魔物がなだれ込む事態に上手く対応する方法――それは、私が覚えた術の中でも最も規模の大きい術式です。


「大破邪魔法陣をこの国全体に展開させます。簡単に申しますとパルナコルタ王国全体を魔法陣の中に入れることで、外から国内に入って来る魔物を大幅に弱体化させるのです」


 大破邪魔法陣は魔物の弱体化に特化した結界です。

 外からの侵入を防ぐことは出来ないのですが、中に入ってきた魔物たちはその破邪の力によりパワーを失い、容易に駆除することが可能となります。


 この陣の中でなら兵士たちが魔物の掃討にあたっても危険は限りなくゼロに近付くでしょう。


 ただ、一つだけ問題がありました――。


「この魔法陣をパルナコルタ王国全体に展開するにあたって、私は国の中心から半径10キロ圏内にいなくてはなりません。つまり王都からほとんど離れることが出来なくなります」


 そうです。私がこの術式を使うことを躊躇った理由がこれでした。

 王都から動けなくなるということは、聖女としての仕事にかなりの制限がかかってしまうということです。薬草を摘んだり、農地を適切な環境にしたり、今まで普通にやっていたことが出来なくなります。


 高い金で連れてきた聖女が途端に働かなくなるというのは、この国の人の感情からすると面白くないでしょうし……。



 その上……、ジルトニアに帰ることが叶わない――。



 ミアなら事前に対策さえとれれば、彼女の高い能力とジルトニア王国の兵士たちとの連携で何とか凌げると思いますが、やはり気になります。


 しかし、この国の聖女である以上はパルナコルタ王国の安全が守られる提案をするべきだと思いまして、この提案をしました。


 もっとも王都に釘付けになるデメリットがあるので、この案が受け入れられるかは分かりませんが……。



「……なるほど、それはいい。フィリア殿は働きすぎだからな。これで、ちょっとは休めるのではないか? いや……もしかして、その術式を維持するのに多大な労力がかかるのか?」

 

「いいえ。一度起動さえされれば、ほとんど疲れることはありません。魔法陣のコアとなっている私の行動範囲が限られるだけです」


 オスヴァルト殿下は、私が休めることが良いことだと仰せになりました。

 ほとんどの術式に共通していますが、発動後は魔力を少しずつ供給するだけなので、身体的なデメリットは殆どないのです。


 それにしても、この国の方はよく私に休めと言われますね。休んだところですることがないので、逆にストレスなんですけど……。


 どうしましょうか……魔法陣を起動してしまうと暇になってしまうかもしれません……。




 ――こうして、私は大破邪魔法陣を作る準備に取り掛かることになりました。




 ◆ ◆ ◆





「……さて、準備は整いました」


 光の柱を十六本……、国境沿いの定められた場所に設置して……、私の血を染み込ませた札を貼り付けました。

 

 後はこの王都の教会の台座の上で古代語による呪文を唱えて……それから、神に祈りを捧げます。


「――なるほど。これほど、見事な手際で古代術式を展開させるとは……やはりフィリアさんを我が王国にお呼びしようと提案したのは正解でした!」


 私が祈りを捧げようと台座に向かおうとしたとき、教会の中に長い綺麗な金髪の男が入ってきました。

 背が高く、目元に泣きぼくろがある華奢なその方がこちらに歩いてくると、次々と教会の関係者たちは彼に頭を下げます。


「ライハルト殿下! こちらにおいでになられるなら、仰って頂ければ色々と準備を――」


 ヨルン司教の一言で私は彼がパルナコルタ王国の第一王子――ライハルト殿下だということを知りました。

 オスヴァルト殿下のお兄様ということですね……。


「ヨルン司教、アポ無しですみません。早く挨拶に来ようと思っていたのですが、やっと時間が取れましてね。噂に聞く稀代の聖女様に会えて嬉しいです」


「い、いえ、私などそんな大層な者ではありません。わ、私こそお声をかけてもらい光栄です」


 爽やかに微笑みながら、彼は私に握手を求めます。

 オスヴァルト殿下とご兄弟なのに随分と感じが違うように見えました。


 彼に挨拶を終えた私は予定通り大破邪魔法陣を展開する術式を起動します。


 これで、しばらくは行動範囲がかなり狭まることになりました。


 そろそろミアにも手紙が着いている頃でしょう。手が貸せないのは歯がゆいですが、どうか急いで準備をしてください――。



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