第五十七話
活動報告にて書籍化レーベルなどの情報を解禁しました!
更にフィリアとミアのデザインも――!
「……こんばんわ、大聖女さん。悪いわね、窓ガラスに壁を壊しちゃって」
「いえ、他に部屋もありますし。これくらいなら修繕可能ですから」
アスモデウスと名乗った、半透明のユリウスがいた場所をエルザさんはジッと凝視しながら部屋を壊したことを謝罪します。
まさか、あのユリウスに本当にアスモデウスという悪魔が取り憑いていたなんて……そして私の部屋にそれがいきなり現れるなんて、驚きました。
「相変わらず冷静なのね。普通はこんな経験したら多少は恐れるものよ」
「驚いていますよ。伝わりにくいかもしれませんが」
会話をしながらエルザさんは懐から札を取り出して床に貼り付けました。
魔力がかなり込められているみたいですが、何をするつもりでしょう。
「解――!!」
エルザさんが言葉を発したとき、それに呼応して札が太陽のように明るく光ります。
そして、目の前にそれは姿を現しました。
『ギィィィィギギィィィ』
「――っ!? こ、これは……!?」
「見えたかしら? これは低級の悪魔。そして巷で噂の神隠し事件の犯人よ」
光を放った札に反応して姿を見せ、耳を塞ぎたくなる程の奇声を放ったのは真っ黒な人型のナニカでした。
子犬ほどの大きさのそれは魔物とは明らかに異質で不気味な雰囲気を醸し出していました。
これが神隠し事件の犯人? 先程まで全く見えませんでした。
「こいつは低級だから殺傷能力は無いに等しいし、普通の人間の目には見えないけど、魔界の入口にある主人のアジトに対象を連れていくことができる」
「なるほど、目に見えないのでしたら抵抗することすら不可能ですね。これがアスモデウスの手口ということですか」
「そのとおりよ。あたしがここに来た一番の理由……分かってくれたかしら」
アスモデウスの狙いは大きな魔力と私の魂。
だからこそ、私とマーティラス家に退魔師が派遣されてきました。
この一連の流れで判明した、その一番の理由は――。
「私たちが悪魔に対してあまりにも無抵抗だからですね? 見えない相手に抵抗も何も出来ませんから」
「そういうこと。だから、あなたたちは何もしなくていい。あたしたちに守られていれば良いの」
「……そうですね。それが楽なのかもしれませんし、賢いのかもしれません。ですが――」
『ギギィィィィギィィィィ!』
「――っ!? あ、あなたまさか……!」
私は光の鎖でもう一体隠れていた低級悪魔とやらを捕らえます。
なるほど。位置さえ掴めれば魔物と同じ要領で浄化出来そうです。
「悪魔を視認するには目に圧縮した魔力を集中する必要があるみたいですね。エルザさんの手本からやり方を推測してみました」
「一度見ただけで真似るなんて……。第一、これは理屈が分かっても簡単に出来るものじゃないのよ」
「古代魔術に似たような術がありましたから。尤もそれはトラップなどを見抜く術でしたが。教えればミアや師匠、それにグレイスさんやそのお姉様方はすぐに出来るようになるはずですよ」
古代魔術に似た術式があったおかげで私は低級悪魔の位置を見破る術を真似ることが出来ました。
これは古代魔術を学んでいればコツを掴むのはそんなに難しい技術ではありませんので、明日にでも皆さんに伝えておきましょう。
「歴代最高の聖女と呼ばれ、大聖女の称号を引き継いだというのは伊達じゃないってことね。そりゃ、アスモデウスも器として欲しがるわけだわ」
エルザさんは赤いファルシオンで二体の悪魔を真っ二つにしながら、私に声をかけます。
やはり、あのファルシオンは悪魔に対してかなり有効な武器みたいですね。
あれを受けて平気なマモンが規格外というだけで……。
「あのアスモデウスはまるで実体が別のところにあるように見受けられましたが」
「いい質問ね。あれはユリウスに取り憑いたアスモデウスの思念体にすぎないわ。本体は離れた場所にいる。恐らくあなたのことを品定めに来たのね。そして低級悪魔を使って攫おうとした」
やはりあの半透明のユリウスは本体ではありませんでしたか。
幽霊というものは見たことがありませんが、そう言っても良いほど生気を感じませんでしたから。
「あたしが寝ずに番をしてあげるから、あなたはもう寝なさい。明日の聖女世界会議とやらを仕切るんでしょ」
「では、五分ほどお願いします。マナを集中して本気で休めばそれでスッキリ全快しますから」
「はぁ、リーナやレオナルドがあたしたちを見てもそれ程驚かない理由が分かったわ。あなたも十分に人間離れしているのね」
「…………?」
エルザさんは何故か呆れたような口調になり、私のことをジト目で見て来られました。
私、何か変なこと申しましたでしょうか? 最近、オスヴァルト殿下も私のことを変わったと仰っていましたし、周囲の方々にどう見られているのか不安でなりません。
ともかく、明日からの聖女世界会議。恥をかかないように集中しなくては――。