第五十五話
久しぶりの更新です。
書籍化作業も順調に進んでいます(まだ、情報が出せなくて申し訳ありませんが)。
WEB版よりも確実に面白くなっている自信がありますので、続報をお待ちください!
「って、こんな感じで私も古代魔術を勉強してるんだけど。魔法陣広げるときにどうしても、魔力が安定しないの」
「そろそろミアがそう言うと思っていたから、私なりのやり方を記したメモを作っておいたわ。図解が下手でごめんね。もっと上手に書ければ良かったんだけど」
「ええーっと、そう言うと思ってたからって所からツッコミを入れれば良いのかな?」
ミアはジルトニアで独自に古代魔術の勉強も続けているらしく、私にその成果を見せて来ました。
この前よりも格段に上手く“マナ”を体に取り込む事が出来るようになっている――。
操る力が大きくなると不安定さが出ることは分かっていましたから、国際会議の際に渡そうと思っていたメモを彼女に渡します。
「ねぇ、あの胡散臭い退魔師とか悪魔とか信頼できるの? 何か怪しくない? 首狩りとかしてるし」
ミアは屋敷の屋根の上に立っているエルザとマモンについて尋ねます。
そんなに怪しい……ですかね? 個性的だとは思いますが。
「エルザさんは、教皇様から正式にパルナコルタ王室に打診をした上で来ているから。安心して良いと思うわ」
「ふーん。それにしても、あのバカ王子が悪魔の依代になるなんて。アスモデウスだっけ? もっと人を選べば良いのに」
「王族の血というものはその性質上、色濃いものが多いらしいの。投獄されることで強まった邪気も相まって、悪魔が取り憑くには最適な人間だったとか」
ジルトニア王国の第二王子だったユリウスが悪魔となり、私の中にあるらしいフィアナの魂を狙っているという話は何とも因縁めいていると思ってしまいました。
私をこのパルナコルタに売った彼は、その後……祖国を滅亡寸前まで追いやり、ミアが彼と決着をつけています。
もしかしたら、今度は私が決着をつける番なのかもしれません。
アスモデウスはマモン以上に強力な悪魔で、戦うのはあくまでも退魔師の仕事だとエルザには言われましたが、国の繁栄を乱す要因となっている以上は聖女として見過ごすことが出来ないのです。
「また、フィリア姉さんの悪い癖だ」
「悪い癖……?」
「一人で抱え込もうとしているでしょ? 分かるんだよ。私には、顔を見れば姉さんが何を考えてるのか」
私が悪魔との戦いを意識していることがミアにバレてしまいました。
そうですね。一人で抱え込まずに誰かを頼ることも大事かもしれません。
以前は孤独を感じるというより、一人で何でもすることが当たり前でしたが、今は違います。
私の周りには頼りになる方が沢山いるのですから――。
「ミアの言うとおりね。大破邪魔法陣を広げたときもグレイスさんたちに助けてもらったし。一人じゃないって今は思えるから――」
「そうそう。私だって聖女だし、バカ王子を逃したのはジルトニアの責任が大きいからね。私も戦うよ。今度はフィリア姉さんと肩を並べて」
ミアは古代魔術の破邪魔法陣を安定して展開しながら、私と一緒に戦うと口にしました。
こうやって肩を並べていると、あなたが新米の聖女として初めて私と共にお勤めに出た日を思い出します。
あの日もあなたは私の背中を見て――。
「おーほっほっほっ! 何ですか? その矮小な結界は。フィリア・アデナウアー、大破邪魔法陣を使っているとはいえ、聞いていた話よりも随分と力が落ちているではありませんか」
高笑いと共に見知らぬ女性が敷地の中に入って来られました。
あれは……ボルメルン王国の馬車。そして、このカールした茶髪はグレイスに似ているような……。
「エミリーお姉様! 何をいきなりいつもどおりの行動を起こしていますの!? フィリア様とミアさんがびっくりしているではないですか」
「グレイスさん……」
「あー、グレイスのお姉さんなのね。なんか納得」
グレイスが馬車から出て来て、こちらに声をかけました。
この方がエミリー・マーティラス――大破邪魔法陣の拡大に協力してくれた、マーティラス家の四姉妹の長女。
グレイスの話だと四姉妹の中で一番優秀で才能も豊かと聞きました。
「グレイス、見ましたか? この小さくて弱々しい結界を。あなたの尊敬するフィリア・アデナウアーは腑抜けてしまっているみたいですよ」
「お姉様、こちらはミアさんです。フィリア様の妹さんですよ。フィリア様はもっと比べ物にならないくらい凄いんです。ミアさんなんかと一緒にしないでください」
「まぁ、こちらの無口で覇気がなさそうな方が、大聖女様でしたの? わたくし、てっきりもっと高飛車な方かと」
「ご安心ください。お姉様よりも高飛車な方はこの国にはいらっしゃいませんわ」
どうやら、エミリーは私とミアを間違ったみたいですね。
それにしても、私ってそんなに無口そうで覇気がなさそうでしょうか。
お喋りは好きですし、戦う意志もそれなりに持ち合わせているつもりでしたが、印象はそうでもないようです。
「グレイス、あんたに“なんか”呼ばわりされる程、弱くないんだけど。これだって、安定して力を出す練習だから、全然本気じゃないし」
「あら、ミアさん。これは失礼しました。フィリア様の二番弟子ですから、もっと頑張って欲しいなと思ってしまいましたわ」
「どうやら決着をつける時が来たようね。勝負するわよ。勝負!」
グレイスは何故かミアに対抗意識を燃やしていますし、ミアもミアで彼女には大人気ない態度を取ります。
ライバルというものは素晴らしいと思いますが、喧嘩は止めてもらいたいです。
「これこれ、お前たち。人様の屋敷で大きな声を出すでない。大聖女殿ですな。ワシはオスカー・マーティラス。グレイスがえらく世話になりましたな。歴代最高の聖女に会えて光栄です」
恰幅の良い男性はオスカー・マーティラスと名乗り、私に握手を求めました。
この方がマーティラス家の当主にして、ボルメルン王国で随一の魔道士としても有名なマーティラス伯爵ですか。
魔力量では聖女に匹敵すると言われている高名で実力も確かな方です。
以前から会ってみたいとおもっていましたので、こんな形で会えるとは感激してしまいました。
「初めまして、フィリア・アデナウアーです。マーティラス先生の魔法理論の著書は全て拝見させてもらっています。会えて光栄です」
「ほう! ワシが書いた本を読んでくれたのですかな。それは嬉しいことを仰せになられる」
私はマーティラス伯爵の手を握って挨拶をしました。
あとで彼の著書にサインを頼んでみましょうか? いえ、それはやはりはしたないですかね……。
「フィリア様、お父様のことを知っていましたの? なぜ、今までそれを黙っていたのですか?」
「マーティラス先生は有名人ですから。知っていて当然ですし、わざわざ言わなくてもよろしいと思いまして……。それに、わざわざファンだと伝えるのも少し……いやらしいかもしれないと遠慮しました」
「姉さんの羞恥心の基準がよく分からないわ……」
マーティラス家の面々が挨拶にやって来て下さり、屋敷の中は更に賑やかになります。
最近、この賑やかさも私は幸せというものの一つにカウント出来るような気がしました。
それと同時に何故自分が聖女として国を守ろうとしているのか……動機が明確になった気がして、昨日よりももっと強くなれると確信しました――。