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第五十一話(ミア視点)

第二部初のミア視点です。第一部ではフィリアよりも目立っちゃいましたが……。


「おはようございます。師匠……、今日はいつもよりも早いですね。ふわぁ」


 フィリア姉さんの所で羽を伸ばした私だったけど、ジルトニアに戻ってからはヒルダ伯母様もといヒルダお義母様からの厳しい特訓の日々を送っている。

 姉さんのおかげで聖女の仕事がほとんど無くなり、フェルナンド殿下の指導の元……復興の手伝いするくらいしかやることがないから、修行する時間には不自由しないんだけど――。


「ミア、あなたは才能がありますが、精神が弛んでいます。それでは、フィリアに追いつけませんよ」


 眠たい目をこする私を義母は一喝する。

 本当にヒルダお義母様の特訓がキツい。冗談じゃないくらい。

 フィリア姉さんは子供の時にこんなのを涼しい顔して耐えてたみたいだけど信じられない。


 でも、初めて聖女になって二人で仕事をしたあの日……姉さんは私の遥か先を行っていて――私は姉さんのことを天才だと思った。

 私なんてまだまだだと思った。


 今なら分かる。あれは勘違いだったんだよね……。姉さんは知らないところで尋常ではない努力をしてたのだ。


 だから私も――。


「分かってますよ。お義母様。フィリア姉さんを超えるつもりで特訓するつもりなのですから。もっと厳しくしてもらっても構わないくらいの気合で臨んでます」


 そうだ。気合だよ。何でも気合があれば乗り越えられる。

 今度は私がフィリア姉さんを助けられるように頑張らなきゃ。


「よく言いました。正直言って、義理の娘だからと遠慮して手心を加えていた部分がありました」


「て、手心ですか?」


「親は違えど、姉を見て育っただけはあります。それに気付いていたのなら、もう情け容赦は捨てましょう。今日から真の特訓を開始します」


 あはは、ヒルダお義母様でも冗談を仰せになることがあるのね。嘘でしょ……? あんな地獄が生温く感じる特訓が真の特訓じゃないなんて。 

 手心とか加えてたの……? あれで……。


 情けにも、容赦にも気付かなかった私って鈍感だなぁ……。素直に手足が震えてきた。


「では、すぐに朝食を食べて準備をなさい」


「はい。お義母様って料理上手ですよね。姉さんと違って」


「あの子の唯一の弱点に触れないであげてください」


「その感じ……、お義母様も食べたことあるのですね……」


 どうやらヒルダお義母様はフィリア姉さんの真っ黒の料理を食べたことあるみたい。

 びっくりしたなぁ。姉さんがお弁当を持って仕事に行っていたとき……。

 おかずを交換しようって言ったら、姉さんが珍しく恥ずかしそうな表情を見せたっけ。





 朝食もそこそこに、私たちは特訓を行うために山の中に向かう。

 山に着いたら……滝に打たれたり、目隠しして山の中を走り回ったり、まぁ色々と準備運動をしてから特訓をスタートするのだけど、今日は特訓を開始する前に兵士に話しかけられた。 

 

 この人は第一王子派だった、ケヴィンって名前の人だ……。久しぶりに会ったけど何用だろう。


「ミア様……、そしてヒルデガルト様……、大変です。ユリウス殿下が……、ユリウス殿下が……、牢獄から消えました――」


「「――っ!?」」


 ユリウスが逃亡したってこと? まさか第二王子派が……。

 彼の処刑は決定事項だったけど、国の復興がもう少し落ち着いてから、となっていた。

 

 でも、()()()って言い回しは変よね。逃げたとかなら、わかるけど……。


「と、とにかく、フェルナンド殿下がお呼びです。至急、王宮までお越しください」


 私とヒルダお義母様は無言で頷き、王宮へと向かった。

 嫌な予感がするわ。でも、フィリア姉さんの手は借りない。私がジルトニアの聖女なんだから……。


 

 ◆ ◆ ◆



「ミア! ヒルデガルト殿……、よくぞ来られた。急な呼び出し、すまなかった」


 すっかりと血色の良くなったフェルナンドに迎えられた私たち。

 でも、目元に隈が出来てるわね……。きっと、復興作業のための業務に追われて徹夜続きだったのね。ユリウスに付いていて、美味い汁を吸っていた文官たちもこぞって投獄してしまったから……。


「ユリウスが消えたという話を聞きました。巷で噂になっている神隠し事件……それと繋がりがあるのですか?」


 神隠し事件……? 何、それ? 知らない……。

 ヒルダお義母様の単刀直入の発言に私は首を傾げた。


「流石はヒルデガルト殿だ。もう、その話を掴んでいたとは。弟は厳重に警戒していた牢獄の中で……何の痕跡も残さずに消えてしまった。まるで煙のように、ね。これは今、近隣諸国で頻発している神隠し事件に酷似している」


 フェルナンド殿下も神隠し事件というワードを口にする。

 何でも、最近……魔力を持った若い女性が姿を忽然と消す事件が大陸中で流行っているらしい。

 フィリア姉さんも狙われるかもしれないので、つい先日……護衛を増やしたそうだ。


「パルナコルタに倣う訳ではないが、今日から、二人の護衛の数を増やす。ピエールと彼の直属の部下を何名か回そう」


 フェルナンド殿下は私たちの護衛を増やすとして、ユリウスの話を続ける。


「しかし、ユリウスは若い女性でも無ければ、魔力の素養もない。我々はこの原因を探ろうと思っているのだが、こういう現象に強い者と言えばフィリアしか思い付かないのだ。だから、彼女の知恵を――」


「それはなりません。殿下……。姉は……、フィリアはパルナコルタの聖女です。そして、この国の大恩人です。これ以上、彼女に頼ったり、不安を煽るようなことをしてはなりません。彼女がユリウスにされた仕打ちを思い出してください」


 フェルナンド殿下がフィリア姉さんに頼ろうと提案したので、私はそれを止めるように進言した。

 姉さんとユリウスの関係性を考えると、そんな不安を煽るようなことは到底出来ない。

 それにジルトニアの問題は今度こそジルトニアで解決すべきだ。


「そうだな。ミアの言うとおりだ。私もどこか、大聖女となった彼女に甘えてる部分があった。こちらで神隠し事件と共に調査チームを作り、解決に当たろう」


 殿下はあっさりと意見を下げる。そもそも、隣国の聖女の魔法陣で守られている現状もあり得ないのだから、私は判断を誤ったとは思わない。


「ミア、フィリアから独立しようと考えることは立派ですが、彼女はきっと姉として頼って欲しいとは思っていますよ」


「姉、としてですか……」


 あの日、フィリア姉さんは聖女であることよりも、私の姉であることを優先してくれた。

 それが私には嬉しかったし、何より誇らしかった。


 そうだね。姉さんに追いつこうと考えても、フィリア姉さんを姉として扱わないこととは違うものね……。


「フェルナンド殿下、もしも……ユリウスの件がどうしても手詰まりになりましたら、私に仰ってください。それとなく、姉に手紙を書いてみますから。でも、基本的には自分たちで解決出来るように頑張りましょう。義母も私も協力します」


「ヒルデガルト殿、お心遣い……感謝する。ミア、そのときはよろしく頼む……」


 私たちのこの会話はまるっきり無駄になった。


 フィリア姉さんは私たちの思った以上に早く……そして知らない内に真相に辿り着いていたのだから。

 

 悪魔……そう呼ばれる者と戦うことになるなんて、このときはまだ全然気付いていなかった――。


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― 新着の感想 ―
[一言] お願い、死なないでミアちゃん!きみが今ここで倒れたら、お姉さんとの約束はどうなっちゃうの? 特訓はまだ残ってる。ここを耐えれば、ユリウスに勝てるんだから! 次回、ミアs・・・ってことはない…
[一言] ま、ミアもまだまだ修行が必要ですからねー。
[良い点] 最愛の姉に迷惑をかけず、自力で事態を打破しようとするミアの心意気がたいへん好感です。 ですが、フィリアが深刻な現状をミアに隠匿することも考えづらく、いずれは共闘することにもなるのでしょうか…
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