第三十九話(ミア視点)
いよいよ、ユリウスのざまぁパートなんですが、1話にしようとしたら長かったので2話に分けました。
後半はお昼に投稿します。
いよいよ、パーティーが始まった。
父が声をかけたゲストたちはほとんどが出席。中には第一王子派でも第二王子派でもない中立の貴族たちもいる。
ユリウス殿下は大胆にも、この公衆の面前でフェルナンド殿下を殺そうと企んでいた……。
恐らく、半分は見せしめを意味しているのだろう。自分に逆らう者はこうなると……。
彼の権力に対する並々ならぬ執念を感じた――。
「やぁ、ミア。今日もきれいだな。君はもちろん僕の隣だろ?」
ニヤニヤと醜悪な笑みを浮かべながらユリウス殿下はパーティー会場に現れて私に話しかける。
そりゃそうよ。私は特等席に陣取らせてもらうわ。あなたに引導を渡すためにね……。
「ユリウス、随分と上機嫌そうだな。そんなにパーティーとやらが楽しいのかい?」
「これは、兄上。元気そうな顔が見られて僕は嬉しいです。パーティーは良いものですよ。特に今日みたいな力を一つにしようという大義ある集会というのは」
フェルナンド殿下の登場にユリウス殿下はさらに機嫌を良くした。
彼の顔を見るのが最後となることが余程嬉しいのだろう。まったく少しは顔に表情を出すのを自重しなさいよ。
「ミア、何ていうかその。その髪飾り、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。これは姉に貰った物でして……」
「そ、そうなんだ。君の姉君はセンスが良いんだね。で、でも、君だから似合ってると僕は思う」
「フェルナンド殿下……?」
どうも緊張しているらしいフェルナンド殿下は言葉がたどたどしい。
まぁ、最近まで表舞台に出てなくて初めてまともに出席するパーティーが自分の暗殺目的なんだから無理もないけど。こうして出てきてくれただけありがたいと思わなくちゃね。
「本日はお忙しい中、アデナウアー家主催のパーティーにお集まり頂き、感謝しております。このパーティーの目的は――」
父、アデナウアー侯爵がスピーチを開始する。
ユリウス殿下の計画はフェルナンド殿下に出される料理に毒を仕込んで、それを食べさせるというものだ。
その証拠に父はスピーチの間もチラチラと給仕の方を気にしている。そこからじゃ見えないのに……。
さらにユリウス殿下は病床の国王の元にも刺客を送っている。このパーティーの警護に多くの人員を回して城を手薄にさせているのだ。
こういう手回しだけは早いのだと感心させられる。
「そういえば、ミア。結婚披露宴の日取りをそろそろ決めようと思うのだが」
「まぁ、素敵なお話ですわね。しかしながら、此度の有事はどこまで続くか分かりません。せめて、その不安が取り除かれてからにしませんと」
心底どうでもいい話をするユリウス殿下に適当に話を合わせながら、彼の隣に腰掛ける私。そしてユリウス殿下のもう片方の隣にはフェルナンド殿下も腰掛ける。
「皆さんに英気を養って貰おうと――最高級の食材をご用意しました」
父が用意した料理に使われている食材の中に“テリッシュ”という名前の“キノコ”がある。
このキノコは確かに希少で味も香りも良いというジルトニアでは最高級の食材として扱われているが、見た目がよく似た致死性の毒を持つ“テリッシュモドキ”という名の“毒キノコ”も存在するので、扱いには要注意の食材だ。
“テリッシュモドキ”は少しでも食べると体温が上昇して呼吸困難に陥り死に至るという恐ろしい猛毒を含んでおり、間違って食して死亡する事故も多い……。
そう、フェルナンド殿下にだけその毒キノコを食べさせるというのが、ユリウス殿下の計画なのだ。これなら仮に気付かれても偶然の事故だと言い張れる……。
だから、指摘するだけじゃ彼を失脚には追い込めないのだ――。
ちなみにこの“テリッシュ”を用いた暗殺計画はヒマリが突き止めてくれた。もちろんフェルナンド殿下も知っている。
彼は何食わぬ顔をして、目の前の皿を見ているが……。
「――おおっ! アデナウアー侯爵は良い仕事をする。これは紛うことなく最高級のテリッシュだ。この圧倒的な美味は是非とも兄上にもご賞味頂きたい!」
テリッシュを口の中に入れては絶賛を繰り返すユリウス殿下。
そして、露骨にフェルナンド殿下にテリッシュを食べるように促す。それはもう、怪しいくらい。
「いやー、これは最高の味だな。僕もいろんな美食というものを体験したが、これほどなのは滅多になかった。さぁ、兄上も一口やってください」
汗をかきながら、かれこれ数分ユリウス殿下はフェルナンド殿下に毒キノコを食べさせようとしていた。
フェルナンド殿下はずっと無言である。
「兄上、弟の言葉を聞いておられるか!?」
遂に無視され続けたユリウス殿下がキレた。黙ってるフェルナンド殿下に苛つきを顕にしたのだ。
ていうか、あんなに食べろと言われたら逆に食べたくなくなるでしょ。あなたの性格を知ってれば。
「……そんなに美味かったのなら、ユリウス。僕の分も食べるといい。僕は食欲が無いんだ」
「――っ!?」
自らの皿を渡そうとしたフェルナンド殿下にユリウス殿下の顔色が変わる。
そりゃ、そうよね。毒キノコなんて食べたくないもの。
「いや、これはアデナウアー侯爵が兄上に食べてもらいたいと出したもの。その好意を僕が摘み取る訳にはいかない」
ユリウス殿下は当然拒否する。内心ビクビクしているのが手に取るように分かるわね。
やはり、フェルナンド殿下のテリッシュは毒キノコに代えられていたってわけか。
「毒キノコか……?」
「はぁ……?」
「毒キノコなのかと聞いておる。テリッシュにはよく似た形状の毒キノコがあったと聞く。ユリウス、これの毒見が出来るか? お前が僕に毒を仕込もうと考えていることは知っている」
刺すような視線をユリウス殿下に送るフェルナンド殿下。
この前会ったときは弱々しい印象だったのに、今は静かながら迫力がある。彼はやれば出来るタイプの人間だったらしい……。
「兄上! 怒りますよ! たった一人の兄弟に! 僕が毒など出そうと思うはずがありません! 仮にそれが毒キノコだとしても、僕を疑うのはお門違いだ!」
逆ギレしてしらばっくれたわね。やはりフェルナンド殿下が毒キノコに気付くことも想定していたみたい。
これなら、毒キノコだと主張しても自分は無罪だと言い逃れが出来る。まったく、変なところは頭が回るんだから……。
でも――。これで終わりじゃないわよ――。
「ああ、ユリウス。悪かった。僕が悪かったよ。この皿には毒キノコなど入っておらん」
「ようやく分かってくれましたか。兄上……」
フェルナンド殿下の謝罪にユリウス殿下は安堵の表情を浮かべるが、次の発言を聞いて顔面蒼白となる……。
「すり替えたからね」
「えっ……?」
「すり替えておいたんだよ。僕の皿を……ユリウス、君の皿とね」
二人の皿が入れ替わっているという意味を考えて……ユリウス殿下はワナワナと震えだした。
当然だ。毒キノコを食べてしまったことになるんだから。
「かはっ……! か、体が急に熱くなってきた――。熱い、熱い、熱い……! オェェェェェ!」
ユリウス殿下は体が熱いと叫び出して、喉を押さえて嘔吐しようとした。
それはもう、情けない表情で……必死で食べたものを吐こうと頑張っている。
ユリウス殿下、ここからが本番ですよ。あなたへの復讐は――。




