第三十三話(ミア視点)
本日、2度目の更新です。
「な、な、何故お前がここにいる……!? フェルナンド……!」
国防に関する政策の会議の場に突如として現れたフェルナンドの姿をみたユリウスは顔を青くして驚いていた。
会議とは名ばかりのユリウスの独演会。参加者は聖女で彼の婚約者である私とユリウスの取り巻きで、彼に媚を売って今のポストに付いた文官たち。
そんな害悪でしかない会議の場に第一王子が参加意思を表したことに、文官たちも露骨に困惑の表情をしている。
「口を慎め、ユリウス。兄に対しての礼儀も知らんのか」
「くっ……。兄上の元気そうな顔が見られて僕は嬉しいですよ。しかし、寝ていなくても大丈夫なんですか? 慣れないことをされるとお身体に障りますよ」
「気遣いご苦労。だが、おかげさまで体調はすこぶる良い。父上もご病床にある今、王位継承者として僕も頑張らなくてはなるまい」
「「――っ!?」」
フェルナンド殿下……はっちゃけ過ぎじゃない? そんな挑発的なことを言うから、ユリウス殿下だけじゃなくて取り巻きの人たちもポカーンとした顔をしてるじゃない。
それに王位継承なんてこと持ち出したら、ユリウス殿下は――。
「わざとだよ。ミア……。こうすれば、弟は必ず動く……」
私とすれ違い様にボソッと耳打ちをするフェルナンド殿下。
まさか、彼の狙いは……。だとすると、相当な覚悟が決まってるのね……この人は本当に……。
開き直った人間は強い。私も彼を見習わなくっちゃ。
「それにしても、ユリウス。ミアから聞いたが、パルナコルタ騎士団からの援助の申し出を断ったそうじゃないか。あそこの国王は父上と旧知の仲だろう。有事の際には同盟関係にもある。信じてやっても良いのではないか?」
「随分と饒舌じゃないですか。兄上……。良いですか、僕はパルナコルタに騎士団ではなく、聖女フィリアの返還を求めたのです。金も払うと言って。しかし、奴らはそれを拒否した」
さっそく、パルナコルタ王国の援助を断ったことについてフェルナンドは言及した。
ユリウスはあちらの申し出に憤慨して断ったけど、それも悪手だと私は思う。
魔物を抑えることはとっくに無理がきてて、そこら中で大変な状況になってる。もはや、国の兵士たちだけじゃ厳しくなっていた。
「当たり前だ。フィリアを手に入れて手放す馬鹿は居ない」
「ぐっ……!? 騎士団を送るという奴らの魂胆は透けて見えます。混乱に乗じてこの国を乗っ取るつもりに決まっている」
「ほーう。もうじき、魔物だらけになる予定の領土が欲しいものかね? パルナコルタは物好きだな」
へぇ、フェルナンド殿下ってユリウス殿下をもっと怖がると思ってたけど結構やるじゃない。
ユリウス殿下は、顔をドンドン赤くして自分の兄を睨んでるもの。彼を挑発してボロを出させるつもりね……。
「いちいち屁理屈が過ぎますよ。――それよりフィリアです。奴が戻ろうとしないのはパルナコルタの手先となった証拠です。故郷の危機になんて薄情な女なんだ……。そうだ! 奴は反逆者だ! 反逆者として連行しよう!」
この人の理屈にはついて行けないわ。あなたがフィリア姉さんを売ったくせに戻らなかったら反逆者って……。そんな理屈通るはずがないでしょう。
「やれやれ。そんな要求パルナコルタが飲むはずないだろう。ちょっとは建設的な意見をだな……」
「兄上は黙っててください! よし、手始めにアデナウアー侯爵の全財産と爵位を没収しよう。犯罪者の親には罰を受けてもらわねば! はははははっ! アデナウアー夫妻をここに呼べ! 兄上、会議は終わったので部屋に戻って療養でもしていてください!」
フェルナンド殿下の声はユリウス殿下の声にかき消され……知らない内に私の親の財産が没収されることになった。
この前、大金を集ったのに……全財産を没収なんて父が聞いたら酷い顔をするでしょうね。
はぁ、この人はどこまで暴走するつもりなのかしら……。
ユリウス殿下の指示を聞いたわけではないけど、フェルナンド殿下はさすがに無理をしていたのか、薬の効果が切れて体調が悪くなり……私室に戻って行った。すぐに健康な体になるはずないもんね。
でも、フェルナンド殿下の覚悟はよく伝わったわ。
そして、彼と入れ替わりに私の両親がやってくる。父は短い間にかなり痩せていた。
「ゆ、ユリウス殿下。至急の用事だと伺いましたが……」
「アデナウアー侯爵。お前のところの娘がやらかしたことの責任は取ってもらうぞ」
「み、ミアが殿下の不興を買うようなことを――!?」
ユリウス殿下の言い回しから、私が何かしたのかと想像する父。
そりゃあそうよね。この場に居ないフィリア姉さんのことを言われるなんて思わないもん。
「いや、フィリアのことだ。彼女が国家に対して反逆行為を行った……」
「フィリアの? し、しかし、彼女はもうパルナコルタへ……」
「故国の危機に戻って来ぬとは反逆の意志があると思われて当然だろう! 罰として全財産と更には爵位を没収させてもらうぞ!」
「そ、そんな!? その理屈はあまりにも……」
あまりにも理不尽な反逆の理屈を聞いて、父は膝から崩れ落ち、母は無言で俯く……。
ユリウス殿下の八つ当たりに近い理屈には正当性はないが、ウチの父親は従わざるを得ないみたいだ。反論はしない……。
どこまで卑屈なのよ。ちょっとは言い返しなさいよ……。
「まぁ、そんなに落ち込むな。バカな娘を持った両親に同情しないこともないのだ。財産の没収が嫌だろ? それを避けたいのなら、一つ僕の願いを聞いてくれんか?」
呆然としている父をニヤニヤと眺めながらユリウスはゆっくりと近付き、悪魔のように囁いた。何を両親にさせようとしてるのよ……。
「な、何でしょうか」
「なんでも、何でもします!」
両親は藁にも縋りたいような顔つきになり、媚びるようにユリウス殿下に頭を下げる。
嫌なものを見たわ……。婚約者の両親にこんなことをするなんて……どうかしてるわよ……。
「ミア、君はそろそろ聖女の仕事の時間だろ? 行ってきなさい。この国のために頑張ってくれ……」
「……は、はい」
ユリウス殿下はどうやら両親への頼みごとを私に聞かれたくないらしい。
気になるけど、それは後で調べればわかる。今は従う他ないみたいね……。
私はユリウス殿下に縋る両親を一瞥して、聖女の仕事へと向かった――。




