第三十二話
お昼にもう一回更新しまーす。
「フィリア様、そ、それにオスヴァルト殿下……わたくしに用件とはどのようなことでしょう?」
私は屋敷の庭で古代術式の修練を積んでいるグレイスに話しかけました。
彼女が力を貸してくれれば、或いは全てが解決に至る可能性が見えてきましたので、彼女に相談をしたかったのです。
「俺もまったく要領を得てねぇんだ。フィリア殿、説明をよろしく頼む」
オスヴァルト殿下にはグレイスが一緒の方が説明がしやすいとだけ話していました。
私の見つけた解決方法はとてもシンプルです。
パルナコルタ全土を覆う大破邪魔法陣が魔界の接近に対抗する最適解であるのなら――。
「この大陸全体に魔法陣を広げて覆ってしまえば良いのです」
「あー、なるほどな。そりゃ、確かに一番の解決方法だ。――って、んなこと出来るんだったら最初からやってそうなもんだぜ。フィリア殿の性格なら」
オスヴァルト殿下はポンと手を叩いて納得しかけるも、すぐに首を横に振って反論をなされました。
もちろん、私の力が強ければそうしていたのですが――。
「オスヴァルト殿下、いくらフィリア様が規格外の聖女といえども一人の人間です。大陸全土を覆う結界など魔力が足りるはずがありませんわ」
グレイスも同業者ですから、私の言っていることの難しさをよく理解しているみたいです。
そう、一人の魔力では大陸全土を覆うことは不可能。ならば、どうするか……? 答えは簡単です……。
「ですから、魔力を貸して欲しいのですよ。グレイスさんに」
「わ、わたくしの魔力をフィリア様にお貸しするのですかぁ?」
足りなければ、他から借り受ければ良い。これが私の導き出した結論です。
そうすれば、一人では到底不可能だった規模の魔法陣を発動させることが出来ます。グレイスは破邪魔法陣を自国に持ち帰ることが目的みたいでしたので、同様の効果を得られれば十分にメリットのある話だと思ったのです。
「古代術式に魔力集束術という術式があります。これは任意の人間に魔力を集めることが出来る術です。この術式を使えば私の魔法陣を超巨大化させることも可能という理屈なのですが……」
「すげーな。古代の連中は……。何で滅びたのか分かんねぇくらい」
オスヴァルト殿下は感心しながら古代の魔法文明が滅びたことを言及しました。
何故滅びたのか――それは、間違いなく力があり余ったからでしょう。術式の使用によって大陸一つが消し飛んだとの記述もありましたし……。
とにかく、他力本願ではありますが……現実的にジルトニア王国を救う手立てが見つかりました。魔力集束術は破邪魔法陣ほど難しい術ではないので、古代語を理解しているグレイスならそれほど時間をかけずにマスターすることが可能です。
「む、無理ですわ。私などの魔力ではとてもとても大陸全土を覆うに足る力を貸与することは不可能です」
「確かにグレイス殿は名家の生まれで魔力は一般人を遥かに超えているとはいえ、フィリア殿ほどではないんじゃねぇか。それで大陸全土は素人の俺でも計算が合わない気がするぞ」
グレイスとオスヴァルト殿下は二人の力でも破邪魔法陣を拡大させるには足らないのではと懐疑的でした。
その目算は正解です。私とグレイスだけでは魔力は足りません。ですから――。
「グレイスさん、お姉様方の魔力はグレイスさんと比べてどれくらいの量なのでしょうか?」
「姉たちの魔力ですか? 私は最近聖女になったばかりですので、姉妹の中では一番少ないです。もちろん、これから追い抜くつもりですが……」
「この魔力集束術は古代語を理解していれば、それほど難しい術式ではありません。私がグレイスさんに術を教えますので、それをお姉様方に教えて差し上げてもらえませんか?」
「な、なるほど。私の三人の姉の力を合わせて、5人分の魔力があれば破邪魔法陣を大陸全土を覆うほど大きくすることが可能というわけですわね」
そう、私の作戦は全員が聖女だというグレイスの三人の姉の力も借りることでした。
5人分の魔力を合わせれば大規模に魔法陣を展開させることが可能なのです。
「グレイスさんは破邪魔法陣を修得に来られたと仰ってましたが、お教えしたとおりアレは高等技術ですから直ぐに覚えることは困難です。しかし、この魔法陣を巨大化すればボルメルン王国も同様の恩恵を得ることができます」
「はい。姉たちも国家に貢献が出来る提案なら断るはずがありませんわ。素晴らしい解決方法だと思いますの。そうでしょ、アーノルド」
「ええ。エミリー様あたりが文句を言われるかもしれませんが、旦那様はきっと喜んで賛成するでしょう。国王陛下も近隣諸国に恩が売れると乗り気になるでしょうし」
どうやら私の作戦は受け入れて貰えそうです。
我ながら厚かましい提案だと思いましたが、これで多くの方が救われるのですから、許していただきたいと思います。
「フィリア様! わたくしは、フィリア様のお役に立てることが嬉しくて仕方がありませんわ。早く術式の特訓を開始しましょう! フィリア様の一番弟子としての責務を果たして見せますの」
思った以上にやる気になってくださったグレイスに少しだけ驚きましたが、彼女の気遣いがとても嬉しかったです。
時間は限られております。しかし、発動さえすれば魔物の数は関係なく無力化が可能ですから、これは大きな希望です。
グレイスの弟子という言葉に、師匠をしてくださった伯母のヒルデガルトを思い出しました。
思えば厳しくも優しい方で、私が将来的にどんな困難に当たっても挫けないために多くのことを教えてくださった――。
彼女のおかげで私もこうして誰かに……誰かを助けるための手段を教えられます。
グレイス、共に頑張りましょう。ジルトニアやボルメルンだけでなく、この大陸の全ての国を救うために――。