第三話
【ようこそ! 大・大・大歓迎! 聖女フィリア様!!】
「はい……?」
馬車に乗って関所まで行き――入国手続きや諸々の準備を済ませた私はさらに馬車を乗り換えて山を越え……広大な盆地に広がるパルナコルタ王国の王都に到着しました。
そこから、聖女としての最初の仕事があると言われた私は……仕事着であるローブに着替えて教会の中に入ったのです。新しい国での初仕事に緊張しながら――。
そんな私の目の前に飛び込んできたのが、教会の天井から吊るされていた、あの大きな看板でした。
もう一度、確認しましょう。目がおかしくなったのかもしれません。
【ようこそ! 大・大・大歓迎! 聖女フィリア様!!】
やっぱり見間違いじゃないですね……。ええーっと、これはどういう趣向なのでしょうか……?
私は大金と大量の資源で買われた聖女なのですから、すぐに魔物たちをどうにかするように依頼が入ると思ったのですが……。
これじゃ、まるで――。
「聖女フィリア様! よくぞ、このパルナコルタを救うために、ジルトニア王国から来てくださった! 私はこの教会の責任者、司教のヨルンです! 何かご不便を感じましたら、何なりと申し付けください」
赤いトンガリ帽子をかぶっている、メガネをかけた黒髪の中年の男性は司教だそうです。
ニコニコと人懐っこい笑顔を向けながら、私の前で深々と礼をします。
彼の後ろにはたくさんの教会関係者らしい方々と美味しそうなご馳走が並べられていました。
パーティーでも開くつもりなのでしょうか……。
「そのとおりです。フィリア様の歓迎パーティーをささやかながら開こうと私が企画しました。あっ、あのケーキも私が腕によりをかけて作ったんですよ。ささ、皆さんがフィリア様の到着を首を長くして待っておりました。お飲み物をどうぞ」
私にドリンクを渡して、乾杯の音頭を取ろうとするヨルン司教。
あの~~、私は仕事があると言われてここに来たのですが……。
「はい。今日のお仕事は歓迎パーティーへの出席です。お疲れならば、早めに切り上げますから、どうかこれからの仕事仲間との交流を深めてください。このとおりです」
「あ、頭を上げてください。す、すみません。こういった歓迎会とか初めてでして……」
パーティーには何度か出席したことはありますが、自分がその主役というのは初めてでした。
殿下の婚約者を紹介するパーティーは開催する前にこのとおり婚約破棄されてしまいましたし。
そもそも、私はパーティーというものが苦手です。愛想もないし、話題もない……面白みがない女ですから……どうしてもこういう場では浮いてしまっていたからです。
そんな私の心とは裏腹に歓迎パーティーが始まってしまいました。ヨルン司教の熱烈な歓迎の挨拶もそこそこに立食パーティーが行われたのです。
はぁ……、こういうときって……どうしても隅っこに行ってしまいがちなんですよね……。
「おっ! そのサラダの味どうだ!? 美味いだろ?」
ちまちまとサラダに口をつけてますと、きれいな金髪の筋肉質の男性が話しかけてきました。
彼は教会の関係者なのでしょうか……。
「この野菜はな、全部俺が育てたんだ。いやー、今年は雨が降らねぇから苦労してよぉ」
「そうなんですか……? 雨の量を増やすくらいでしたら、二、三日あれば可能ですけど」
野菜を作ってる……? つまり、農家の人ってことですかね……。ここに来てるのは教会の方だけではないんですね。
天候を操るのは、以前は苦労しましたが修行を乗り越えてある程度自在に操れるようになりました。
「へぇ~~っ! やっぱ、聖女ってのはすげぇな! よし! 明日からもっと気合を入れて仕事するぞ!」
「何やら楽しそうに話しておりますなぁ。オスヴァルト殿下」
……はて、殿下? えっ、オスヴァルト殿下と仰ってましたか……? ヨルン司教は……。
こ、この方がまさかパルナコルタ王国の第二王子……オスヴァルト殿下とでも言うのですか……?
「ああ、よろしくな。聖女フィリア殿、頼りにしてるぜ」
パルナコルタ王国での生活――第一日目……サプライズ歓迎会でさらなるサプライズを頂いてしまいました――。