第二十六話
どうもテンポが悪いと思ったのでクライマックス近くまで、しばらく朝と昼の2回更新してみます。
お昼にもう一回更新があります。
「どうやらジルトニア王国の状況は思った以上に芳しくないらしい……。親父と兄貴はフィリア殿の返還を断固として拒否するとは言ってるけど……一応、伝えとくべきだと思って伝えておいた……」
ジルトニア王国のユリウス殿下が私の返還を請求したという話を告げたオスヴァルト殿下は申し訳なさそうな顔をして私から目を背けました。
故郷がそれほど切迫しているということは……ミアに託した案は飲んでもらえなかったということでしょう。
――それにしても、今さら戻れと言われるなんて思いませんでした。大破邪魔法陣を解けばパルナコルタ王国は一瞬のうちに魔物の手によって甚大な被害を被るでしょう。
聖女としてそんなことをする訳にはいかないので、当然飲み込める話ではありません。
もちろん、故郷に情がないわけではありません。
だからこそ、ミアに出来る限りのサポートはしましたし、知恵も出しました。ジルトニアに滅んで欲しいなどと思うべくもありません。
しかし、非力な私には二つの国を守るなんて出来ません。どうすれば良いのか……分からなくなってしまいました……。
「フィリア殿……、多分どうすりゃ良いのか分かんねぇと悩んでると思う。短い付き合いだけど、責任感が人一倍強いのは分かってるからさ……」
言葉を選ぶようにゆっくりと殿下は私に何かを伝えようとされています。
そう、彼の言うとおり私は割り切ることが出来ずに悩んでいました。ミアがいる故郷が心配で、それでも此処を離れることが出来ないジレンマで困ってしまっているのです。
「妥協案になっちまうけどさ。パルナコルタ騎士団をジルトニアへの援軍として派遣しようって提案したんだ。議会で渋い顔はされたが、何とか説得出来ると思う」
「パルナコルタ騎士団を……?」
「ああ、自慢じゃねぇけど我が国の騎士団は世界でも最強だと自負してる。ジルトニアにいるフィリア殿の妹君の助けになると思うんだ」
なんと、オスヴァルト殿下は先日の約束を守り、ジルトニア王国への援助を実際に提案してくれたみたいでした。
確かにパルナコルタの騎士団は勇猛と名高く、恐れられています。そもそも、この国は武芸が達者な方が多く……私の護衛であるリーナやレオナルド、そしてヒマリもかなりの使い手でした。
そんな頼もしい人たちがジルトニアの援軍になってくれれば、故郷の危機は救われるかもしれません。
「ありがとうございます。オスヴァルト殿下……。私に気を使ってそこまで……」
「礼なんざ要らねーって。こっちは感謝してんだ。俺だけじゃねぇぞ。親父や兄貴はもちろん、国民がみーんな口を揃えて言っている……フィリア殿はパルナコルタ王国の英雄だってな」
「え、英雄だなんて。大袈裟です……」
私がオスヴァルト殿下の厚意に感謝を示すと、彼は自分たちこそ私に感謝をしていると仰せになりました。
そんな大層なことはしていないのですが……。聖女としての責務を果たしただけですし……。
「ま、あとはジルトニア側からの返事待ちだ。フィリア殿は渡せないけど、騎士たちなら援軍に向かわせることができると伝える。ユリウス王子もそれを受けてくれるだろう」
――ユリウス王子もそれを受けてくれるだろう? 私はこのセリフに違和感を抱きました。
普通はこのような厚意を無碍にするはずがないので何も心配ないと思ったのですが……何か嫌な予感がしたのです。
「じゃあ、フィリア殿。色々と心配をかけて済まなかった。治安が元に戻れば……故郷にいる妹君に会える日を作れるように何とか取り図ろう」
「いえ、聖女が自分の国を離れる訳にはいきませんから。そこまでご厚意に甘えられません」
「ははっ、やっぱり真面目で頑固だな。たまには肩の力を抜くことも覚えようぜ」
「申し訳ありません。親にも真面目すぎて可愛げないと言われる始末ですが、こういう性分ですから……」
「そっか。俺はそういうところも愛らしいと思うけどな」
「……ご冗談がお好きなのですね。でも、そう仰ってもらえて嬉しいです」
そんなやり取りをして、オスヴァルト殿下は帰って行かれました。
生まれて初めて「愛らしい」というような言葉をかけてもらったような気がします。冗談でも心がこんなに温かくなるなんて……思いもしませんでした……。
「――フィリア様、顔が赤いみたいですが風邪でも引かれましたの?」
「ぐ、グレイスさん? いえ、体は健康そのものです。今まで病気になったことはありませんから」
「さすがですわ。なるほど、聖女たる者――身体が資本というわけですね。勉強になりますわ」
特に意識してるわけでは無いのですが、スパルタ教育を受けてるうちに体が頑丈になってしまいました。
グレイスはその弁解を聞いてはくれませんでしたが……。
とにかく、オスヴァルト殿下がジルトニア王国のために動いてくれました。これで状況が良くなれば……と思っていたのですが……、その日の夜――ヒマリの代筆でミアから手紙が届きました。
内容は国王陛下の薬の処方方法を教えてほしいということと、ミアがユリウス殿下を失脚させようと動いていることです。
ミア、どうしてあなたがそんな危ない橋を――? 一体、向こうでは何が起きてるというのでしょう――。