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第99.5話(ミア視点)

第三部にて、ミアがフィリアを助けに行こうと決意するエピソードです。

「えっ? フィリア姉さんが次期教皇ですって? それは本当なんですか? フェルナンド殿下」


 教皇様が亡くなったという凶報がジルトニア王国に届いた翌日。フェルナンド殿下に呼び出された私は思いもよらぬ報告にびっくりする。


 だって、姉さんはパルナコルタ王国の聖女よ。教皇になるためにはダルバート王国に行かなくてはならないじゃない。


 姉さんはオスヴァルト殿下と婚約しているのよ。そんな残酷な話ってある?


「フェルナンド殿下、それは本当なんですか? 聖女が教皇になった前例などありませんよ」


 そもそも、そんな話は聞いたことがない。教皇を引き継ぐのは大司教だというのが通例だからだ。


 三人いる大司教の中には二十代って人もいるし。普通ならそちら側から選ぶだろう。


 それにいきなり姉さんが指名されるのはおかしい。この前に会ったときは一切そんな話をしていなかったから、姉さんに事前に話が行っていた感じではない。


 パルナコルタにはフィリア姉さんしか聖女はいないし、教皇になれと突然言われても困るではないか。普通だったら事前に何か伝えるだろう。


「それは僕も珍しい人事だと思ったが、フィリアは優秀だ。人格的にも能力的にも教皇になるに値する器だろう。おっと、教皇になったらフィリア様と呼ばねばならんな」


「フェルナンド殿下!」


「んっ? 急にどうしたんだ? 君の姉が教皇になるというニュースを早めに伝えようと思っただけなのだが、何かまずかったか?」


 フィリア姉さんは教皇になるなんて、望んでいないはず。

 姉さんはパルナコルタ王国で幸せに暮らしていた。オスヴァルト殿下との惚気話をしている彼女を見て、私はどんなに安心したか。


 あのフィリア姉さんが惚気話をするなんて、こっちにいたときは思いもよらなかった。あのユリウス(バカ王子)と婚約していたときは、淡々としていたから心配していたのよね。


 姉さんは人のことを好きになれるのかって。私は好かれている自信があるけど、それは別の話ね。


 だから、そんなふうに姉さんを変えてくれた国を出たいなんてやっぱり考えるはずがないんだ。


「あの、フェルナンド殿下。フィリア姉さん、いえ姉は教皇にはなりたがらないと思うんです」

「なりたがらない? そうか、そういえばパルナコルタの第二王子と婚約したのだったな。だが、教皇になるのだったら婚約者の同伴くらいは許して貰えると思うぞ」


「いえ、そういう問題ではなくてですね」


 確かにオスヴァルト殿下と共にダルバート王国に行けば姉さんの心の安寧は保てるだろう。

 でも、二回も国から出ていくって私には想像も出来ないけど、かなりのストレスだと思う。国を愛しているのなら尚更。


「姉はパルナコルタ王国を愛しています。恐らくは故郷であるこのジルトニア王国よりも。それなのに、出て行けと言われるのは何よりも辛いと思うんです。理不尽に二度巻き込まれるなんて、あんまりではありませんか」


「ジルトニアよりも、か。耳が痛いな。僕がもっとしっかりとしていれば、弟の横暴を許さなかった。フィリアの境遇には責任があるのは事実だ」


 フェルナンド殿下は体が弱かったせいで自信を失っていた。彼がジルトニア王国の復興に取り組んでいる姿を見て、こんなにも有能な人がどうしてユリウスなんかを恐れていたのか分からなかったくらいだ。


 一連の騒動の原因の一端がフェルナンド殿下になかったとは言わないけど、今の彼は弱かった自分と戦って批判を受けながらも立ち上がろうと懸命に頑張っている。


「行ってくるか? 姉のもとに」

「えっ?」

「フィリアのことが心配なのだろう? しばらく側についていてやれ。来週からの聖女務めに関しては僕が何とか別に人員を回して何とかまかなえるようにしてやる。ヒルデガルト殿にも頭を下げよう」

「フェルナンド殿下……」


 こうして私は七日後にフィリア姉さんの元に行く許可をフェルナンド殿下から頂いた。

 ありがたかった。私の心のうちを察してくださって一番欲しい言葉をかけてくれて。


「ありがとうございます。この御恩は忘れません」

「いや、良いんだ。君たち姉妹には助けられた。僕は恩返しがしたいだけなんだから。礼には及ばないよ」


 それでも嬉しい。殿下の善意が私にはただ嬉しかった。

 人一倍、繊細で気も弱いのに強くあろうとする姿はちょっと格好いいと思えるようになってきたし。


 今のフェルナンド殿下は十分に尊敬出来る人だと思う。


「あの、ミア!」

「は、はい。どうしました?」


 びっくりしたー。殿下がこんなにも大きな声を出すなんて、初めてのような気がするな。

 ボーッと考えごとしていたから、驚いちゃった。


「いや、そのう。帰ってきたら、君に大事な話がある。また食事に誘いたいんだが、良いだろうか」

「え、ええ。それは構いませんが。あはは、あまりにも大きな声を出すから驚きましたよ。もしかして、食事のときに私にプロポーズなんて考えていたんですか?」

「――っ!? そ、それは! そのう……!」


 しまった~! 私ったら、何言っているんだろう。

 驚いたのを誤魔化そうとして、冗談を言ったつもりが図星みたいな感じになっているよ。


 えっ? もしかして、本当にフェルナンド殿下は私にプロポーズを考えていたの? そんな、どうしよう。私……。


「あの、フェルナンド殿下。今の言葉は忘れてください。しょ、食事、楽しみにしていますから。そのときにゆっくり聞きます」

「そ、そ、そうか。はは、僕はこれから君が帰るまで良く眠れそうだよ。ヒルデガルト殿には口添えはするが、君からもよろしく伝えておいてくれ」


 なんか、凄い空気になってしまったから私は慌ててフェルナンド殿下に頭を下げて退室した。

 あー、なんであんなことを言っちゃうかな。本当に駄目だわ、私。フィリア姉さんみたいに素敵なプロポーズしてもらう予定だったのに。


 いや、そのことを悔やんでも仕方ない。今の私にとって大事なのはフィリア姉さんだ。フィリア姉さん。

 そう思って帰宅した私はヒルダお義母様にフィリア姉さんの元に行くことについて快諾を貰う。


「あなたは誰よりも明るい子ですし、居ないよりは幾分フィリアの気も安らぐでしょう」

「ぬいぐるみぐらいの期待しかしていないじゃないですか。フィリア姉さんの待遇を何とかするように掛け合ってみるつもりですよ」

「それはフィリア自身が考えて何かしているでしょう。あなたは邪魔をしないように支えなさい」


 そっか、そうだよね。フィリア姉さんだもの。

 きっと、私よりもずーっと頭を働かせて何か良い手を考えていそう。「遺言状が偽物で、証拠はこれだ!」くらいは言ってのけそうな期待感がある。


 よーし、パルナコルタ王国に行ってフィリア姉さんに付き添うぞー!


 ◆


「えっ? 姉はもうこちらの国にはいないんですか?」


「ええ、フィリアさんは弟とダルバート王国に行かれました。何故、こちらに来る前に手紙など送られなかったのですか?」


「ええーっと、突然、顔を見せたら姉が驚くと思いまして。あははは」


「フィリアさんの妹君とは思えない発言ですね」


 サプライズという感じでフィリア姉さんの屋敷に行くともぬけの殻。開いた口が塞がらなかった。


 そして、パルナコルタ城に行って、第一王子のライハルト殿下に呆れ顔で見られてしまっている。


 だって、突然駆けつけた方が感動的じゃない。きっとフィリア姉さんも元気になるって思ったんだもん。


「フィリアさんはダルバート王国でヘンリー大司教が遺言を書き換えた、と証明するおつもりです」

「やっぱり……」

「おや? フィリアさんの行動を予想していたのですか?」

「私でもこの人事は変だと思いましたから、フィリア姉さん、いえ、姉ならきっとそこまで考えが及んでいると予想はしていました」


 さすがはフィリア姉さん。この理不尽に抗うつもりなんだ。

 よーし、それなら私もダルバート王国に行って姉さんをサポートするぞ。


「では、私もダルバート王国に行って姉を助けてきます。安心してください。パルナコルタ王国に帰ってこられるように私も尽力しますから」

「クラムー教の本部を敵に回しても、ですか? 私はどちらかと言えば反対でした。フィリアさんが教皇になるのを拒否するのは、世界に喧嘩を売るのと同義です」


 うーん。そういう正論を言われるとは思わなかったな。

 ライハルト殿下って、もっと柔軟な考え方の人だと思っていた。あのとき、オスヴァルト殿下に狭間の世界に行かせてほしいとクラウスさんに頼んでいたし。


「私はフィリアさんと弟には穏やかに平穏に暮らしてほしいと思っているんですよ。ですから、ミアさんが同じ考えならば説得してもらえないかと頼もうかと思っていました」


「残念ながらご期待には添えませんし、仮に私が説得しても無駄でしょうね。ああ見えて、姉は頑固者ですから。私の話を聞いて選択肢を変えるなどあり得ません」


「頑固者ですか。ふむ、なるほど」


 姉さんはきっと何を言われようと自分が信じた道をまっすぐに進むと思う。 

 それがフィリア姉さんの強さだからだ。


 聖女として完璧なのは彼女の一面に過ぎない。

 フィリア姉さんの凄いところは迷わぬ強い心。こうと決めたらとことんまで突き詰めるだろう。


「実は私の弟も頑固者でしてね。手を焼いているのです」

「似合いのお二人ですね」

「まったくもって、仰るとおり。だからこそ幸せになって欲しいと思っているのですが。中々どうして茨の道を好んで進みたがる」


 肩をすくめて、寂しげに微笑むライハルト殿下を見て私は感じた。

 この方は今までに会った誰よりも優しく慈悲深いと。


 オスヴァルト殿下やフィリア姉さんとの意見の違いはあれども、二人の幸せを真剣に願っている。


「では、そんなお二人が茨の道を完走出来るように私が精一杯サポートしてきます。任せてください。これでも、能力には多少は自信があるんです」


「ふぅ、あなたもあなたで頑固そうですね。それに少し弟に似ている。……二人のことを頼みます。伝えてください。“おかえり”と言う準備をしている、と」


「ライハルト殿下……。はい! 任せてください! 必ず伝えますので!」


 今度は嬉しそうに微笑みながら、殿下は私に二人のことを託した。

 フィリア姉さんがやろうとしていることは確かに大変だろうけど、私は大丈夫だと信じている。


 だって、今までも絶望的な状況を何度も覆して来たんだもの。今回もきっと、乗り越えられる。

 ジルトニアを出てパルナコルタに着いて、その翌日。私は準備を済ませて西の大国ダルバート王国へと向かった。


 フィリア姉さんが希望に向かって進んでいることを信じて。

お久しぶりです!

今回はミア視点のエピソードを公開しました。

ちなみにミアとフェルナンドが食事に行くエピソードは書籍第3巻の番外編に収録されていますので、ご興味がありましたら是非!


※最後に大切なお知らせがあります


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完璧すぎて〜のように姉妹愛もテーマにしており

すでに10万字以上書き終えていますので、出し惜しみせずに一気に投稿する予定でございます!


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 フェルナンドさん、フィリアに対するジルトニアでの冷遇や理不尽売買に関して、今なお負い目があるようで……。個人での直接的な危害は特に加えてないでしょうに。そして、なにやらミアとの関係に妙な進展?  そ…
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