第一話
――可愛げのない。愛想がない。真面目すぎて、面白みがない。そう言われ続けて、生きてきました。
そんな私は人並み以上に何かしら出来なくては結婚も怪しいということで、両親は私にスパルタ教育を強制しました。
魔術、武術はもちろん、古今の教養や作法まで……それはもう、みっちりと。
さらに私の家系は代々聖女の家系なので、これらに加えて完璧な聖女になるための修行を幼いときより受けさせられています。
冬の雪山で一人放置されて、ひと月生活させられたり、砂漠の中に埋められたり、針の山で寝たり……発狂しそうになるくらい肉体も精神も追い詰めることで……聖女としての徳を積んでいました。
ひたすら完璧を目指して何でも出来るように努力しました。
その甲斐もあり私は歴代の聖女の中で最高の力を持っていると評価を受けて、王国の第二王子であるユリウス殿下の婚約者となります。
この縁談が纏まった日、両親に初めて褒められました。「聖女」の家系として国の中で重宝された家ではありましたが、王族と懇意になることは喜ばしいことなのです。
――両親からようやく認められて、今までの努力が実を結んだと……幸せを掴んだと……本気でそう思っていました。
「やっぱり、完璧すぎると人間味っていうか、可愛げがないよな。聖女なんて祈ってりゃ良いんだから、能力なんて関係ないし」
ある日、ユリウス殿下に呼ばれた私はそんなことを言われてしまいました。
どちらかと言うと可愛げがないから完璧さを求めたのですが……。
「その点、君の妹のミアはいい。可憐で愛嬌があり――何ていうか……こう守ってあげたくなるような華がある」
私には一つ年下の妹がいます。ミアという名前の彼女は、私と違って天真爛漫を絵に描いたような子で、とても可愛らしく……両親に大事にされて育てられてました。
要領も良く、聖女としても十分な力があり……私の自慢の妹でもあります。
「ミアが聞くと喜ぶでしょう。殿下のことを慕っていますから」
「そうだろう。そうだろう。だから、僕はミアと結婚しようと思う」
――ミアと結婚……? どういうことでしょう。殿下は私と婚約しているのですが……。
「あの、殿下。ミアはそのことを聞いているのでしょうか……?」
「いや、彼女にはまだ言っていない。しかし、前のパーティーで僕の話を麗しい笑顔を向けて聞いていた。僕に好意を持ってくれてるのは明白だ。それに――君の両親はどうやら君よりミアの幸せを願ってるらしい。是非とも婚約破棄をして君の妹であるミアと婚約してほしいと言われたよ」
ミアが殿下との結婚を望むなら身を引くことも考えますが、彼女の意思は不明なら話をそのまま受け取るわけにはいきません。
両親は私よりもミアが大事だというのは何となく昔から理解できていました。それでも、ミアには罪は無いですし、彼女は私に懐いてくれていますから……彼女が幸せになるならば私もそれを望みます。
「しかしだな。一つだけ気がかりなことがあるんだよ」
「えっ?」
「ミアが君のようなつまらん女でも姉として慕ってるってことだよ。――変に遠慮されても困るんだ」
確かにミアは私の婚約者を奪ってまで幸せになろうとかそういうことを考えるタイプではありません。
彼女は心がきれいな人ですから、殿下に好意を持っていたとしてもそれを素直に口にはしないでしょう。
「そこで、だ。隣国のパルナコルタ王国に一人だけいた聖女が急死したらしくてな。代わりの者を欲しがっているんだ。歴代最高と名高い君のような優秀な聖女なら、国家予算相当の金と資源を交換してでも手に入れたいと打診してきた」
「――っ!? そ、それはどういうことですか?」
パルナコルタに聖女がいなくなったという話は聞いたことがありました。
しかし私と交換とか、そんな人身売買みたいなことは聞いたことがありません。
「君は実に鈍いなぁ。――君の両親は喜んで国家のために君を隣国に差し出すと言ってくれたぞ。僕はこの国と隣国のために婚約者を泣く泣く手放すということで、王室の支持も上がるし……、君も隣国で唯一の聖女として大事にされる。みんなが幸せになれるんだよ」
――みんなが幸せに……? 私も幸せなんでしょうか……?
それに――この国周辺は特に魔物が増えていますし、その影響で最近は何かしら良くないことが起ころうとしている予感もしています。
ここで、私が居なくなると、聖女はミアだけになりますし……彼女の負担も増えてしまう……。それを私は殿下に主張しました。
「バカバカしい。まるで自分一人が国を守ってやっているという傲慢な口ぶり。フィリア・アデナウアー、君との婚約は破棄。そして隣国に行ってもらう。これは決定事項だ」
既に両親と殿下、それに国王陛下にまで外堀は埋められており、半ば追放という形で私は故郷から隣国へ売られてしまいました。
この国の行く末というより、妹のミアが心配でなりません。