83 海水浴(後編)
「ん…、いい感じ…」
「その調子ですよ、由奈様」
「いい感じなんだし、もうちょっと頑張ろ、啓くん」
プールと同等の深さの場所まで移動し、胡桃たちに泳ぎの練習をしている俺達。
俺の方は胡桃が、由奈にはクリスタ、後輩の啓は心愛がコーチをしてくれている。
彼女達の教えが上手いのか、なんとか泳げるようになったのだ。
「ひとまずここまでにして、お食事でもしましょうか?」
「そうだな。 他の後輩達も海の家に向かってるしな。 啓たちもどうする?」
「俺達もそうします。 丁度腹が減ったので」
「では、私はひなた様達を呼んできますね」
「頼む、クリスタ」
「先に行ってるね」
俺と由奈は胡桃と手を繋いだまま、海の家に向かう。
すでにビーチバレーをしていた後輩たちが食事をしていたようだ。
「お疲れ様です、アキト様。 席はこちらになります」
「わざわざ用意してくださってすみません」
「いえ、これもメイドの務めですから」
メイドさんにお礼を言って、指定された席に胡桃と一緒に座って待つ。
しばらくして、クリスタがひなたとアイリスを連れてやってきた。
「いやー、ごめん。 遊びに夢中でお昼の時間に気付かなかったよ」
「おいしそうな臭いがする。 すでに後輩たちが食べてるんだね」
「お待たせしました。 まずはこちらです」
最初に出されたのは焼きそばだった。
俺の特性を知っているのか、誰から教わったのかは知らないが、俺の分の焼きそばは大盛だった。
それを見た胡桃はびっくりしていた。
「にぃ…? 大盛だけど…だいじょぶなの?」
「ああ…、暁斗君は焼きそばに限っては大食漢だったね…」
「私もすっかり忘れてたよ…。 街巡りで一緒にラーメン屋さんに行ったときに焼きそば注文してたんだった」
「そうだったね…。 暁斗君が大盛の焼きそばを食べる姿を召喚される前の時期に見ててドン引きした記憶があったね」
胡桃は心配するが、ひなたとアイリスと由奈は、俺の特性を思い出していた。
アイリスは、最初期のガイアブルクの街巡りの時を思い出し、由奈に至っては、この世界に召喚される前に俺が焼きそばを食べた様子を見てドン引きされたんだよな…。
「そうなんですか…?」
「そうだよ。 まぁ、見れば分かるけど…」
クリスタも信じられないような様子で俺を見るが、ひなたが肯定する。
とにかく目の前の好物の焼きそばがある以上、食べないとな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お兄ちゃん、焼きそばだけで満足しちゃったね…」
「みたいだね。 私たちはかき氷も食べたけど…」
「ただ、胡桃ちゃんに考慮してあーんされたものは食べてあげてたけどねー」
俺が焼きそばを食べた後のひなた達の感想はそんな感じだ。
ただ、胡桃があーんされたものは彼女の為に食べてあげた。
当然、胡桃が欲しがってたものも一口食べさせてあげたのだが…。
「お手洗いも結構な数が設置されてますね」
「うん、大体海水浴場のトイレって数が少なく行列ができる最悪なイメージでしかなかったから」
「エリスお姉ちゃん曰く、そういう最悪な結果となった子たちが多いから処理施設を増設してトイレを増やしたみたいだよ」
確かに海水浴場のトイレって数が少ないイメージだ。
後輩達もそれぞれのトイレに行っている光景が見られ始めている。
ほとんどここに着いてから、トイレに行ってなかった者が多いからな。
「とりあえず、まだ昼だしもう少し遊ぼうか」
「そだね、胡桃ちゃんにクリスタちゃん。 お兄ちゃん達は泳げるようになったの?」
「ん…。 にぃは物覚えがいいから…すぐに泳げるようになった」
「由奈様は多少時間はかかりますが、大丈夫ですよ」
「なら、海辺で遊ぼうか。 後でスイカ割りもしたいしね」
「この世界にスイカなんてあったのか…」
「あるよー。 ガイアブルク南部にある町でスイカを栽培している場所があるんだよ」
マジか…。
スイカを栽培している町があったのか…。
「まぁ、夏限定の果物だし、そこまで驚くほどじゃないかな?」
「ざんねーん。 この世界の…ガイアブルク産のスイカは一年中美味しく食べれるスイカなんだよー」
「ええぇ…」
そのスイカ…過剰な品種改良でもしてんのか?
一年中食べても美味しいとか…。
ひなたと由奈は、ちょっとドン引きしだしたか…。
「ま、まぁ折角の海ですから、存分に楽しみましょうか。 今後も色々あるでしょうから」
「そうだなぁ…。 あいつらが絡む可能性もあるし…英気を養う意味でもな」
「ん…!」
胡桃も気合を入れる。
安定すれば、また海へ行きたいが、今後しばらくはガルタイトや如月達の対処に追われるだろう。
切り詰めていてもストレスがたまるので、こういう息抜きは重要なのだ。
俺達は夕方になるまで存分に海水浴を楽しんだ。
後輩達も楽しめたようでなによりだ。
そしてそれから二日後に…魔族領で結婚式に向かう予定である。
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