78 射撃練習、そして…
翌朝、俺達はクロウ中佐やシャルロット女王と共に王宮の地下の射撃練習場に来ていた。
地下に構えているというだけあってかなり広く、様々なタイプの練習場所が設置されていた。
「まず、初心者コースの練習場で射撃してみようか」
クロウ中佐がそう言うと、俺達を初心者コースと書かれた看板まで案内された。
「ここで…?」
「そうじゃ。 二人にはまず、撃つという事に慣れておいて欲しいのじゃ」
「なるほど…確かに俺達は銃を扱った事はなかったですし…」
「その通り。 撃った後の反動も含め、チェックしておこうと思う。 君達も参考にはなるだろう。 まず、あそこの止まってる的を撃ちぬいてみようか」
「分かりました」
俺と胡桃は、手渡された魔導銃を両手に持ち、初心者コース用の的に狙いを定めた。
そして、そのままトリガーを引く。
直後、パァンという音が鳴る。
「うぐっ!?」
初めて銃を撃ったためか、音が耳に響き、大きく反動した。
当然ながら、的には当たらなかった。
「あぅ…」
胡桃もリボルバータイプながら、同じく初めて撃ったため、反動も大きかったらしい。
何より手首をかばう様な仕草をしていた。
「魔導銃の場合は、他の銃と違って全身に力を入れながら撃たないと、反動が大きく隙ができてしまう。 手首を痛める要因にもなるから、まずは全身に力を入れて撃つことを考えようか」
「そ、そうですね…。 胡桃…大丈夫か?」
「ん…、一瞬痛かったけど…何か…掴めたかも…」
え、あれでか?
胡桃はやはりというか遠距離に対して相性がいいんじゃないのか?
そう考えてると、胡桃は再び的に狙いを定めてトリガーを引く。
パァン!!
「ふぇっ!?」
由奈が驚く。
それもそのはず。 二発目は見事に的の真ん中を当てていた。
多少反動はあったが、手首をかばう仕草はなかった。
「胡桃ちゃん、たった二発でもうコツを…?」
「ふむ…、胡桃くんは体格が小さいのが利点となったか。 全身に力を入れやすいのだろうな」
「ん…、もっと練習…する」
こうなったら俺もやるしかないな。
胡桃が二発でコツを掴んだのだから…。
「お兄ちゃん、心を落ち着けていこうよ!」
アイリスが声援を送ってくれる。
緊張した身体が落ち着いていく。
冷静に的を見据え、銃をそこに向ける。
反動で持っていかれないように全身に力を籠め、狙いを定めてトリガーを引く。
パァン!!
「おお…」
「ほぉ、暁斗くんも掴んだか。 これなら少しだけランクを上げても大丈夫だな」
俺の射撃も見事に真ん中を打ち抜いていた。
緊張せずに適度に力を込めて撃ったから、反動も最初よりは少なく済んだ。
それを見て、クロウ中佐は的を差し替え、ボタンを押す。
「あ、的が左右に動いた」
「では、次は左右に動く的の真ん中を撃ちぬいてみようか。 だが、焦る必要はない。 今日中にやれとは言わないからな」
今度は左右に動く的を撃ちぬくことだ。
いきなり難易度を上げて来たな…。
固定された的と違い、左右に動くだけでもなかなか狙いが定まらない。
胡桃も俺も、ここで上手くいかずに詰んでいく。
当たったとしても、右上だったり左下だったり…。
なかなか真ん中に当たらないのだ。
「なに、まだ初日だ。 それでそこまで撃てれば大したものじゃ」
シャルロット女王もフォローを入れてくれる。
確かにまだ初日だ。
他の素質が強い俺としても焦る段階ではないという事か。
「うぅ、疲れた…」
「よし、胡桃くんが疲労困憊なので、休憩にしようか」
「ええ、そうします」
胡桃はおそらく狙いを定めるのに集中し続けていたのでそれによる疲労が蓄積したのだろう。
俺もそんな感じだ。
手首もそこそこ痛く、身体が怠い。 相当集中していたんだと思う。
というわけで、隣の休憩室で少し横になる事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一休みしてからもしばらくは射撃練習に時間を費やした。
相変わらず左右に動く的に対して、一発も真ん中に撃ちぬけなかった。
とはいえ、少しだが『ガンナー』の素質のレベルが上がった感じがした。
胡桃も同様で、惜しかった部分もあったが一発も真ん中を撃ちぬけなかったそうだ。
昼食を終え、予定していたガイアブルクへ帰る時間となった。
「そなた達の射撃訓練用のセットをガイアブルクへ送っておいた。 明日以降にガイアブルクへ届くはずじゃ」
「わざわざすみません…」
「構わんよ。 君たちの腕前は魔導銃を扱うにふさわしいからな。 追手の状況やあの二人の件をふまえると、ガイアブルクへの活動が中心となるだろうからな」
「その通りじゃ。 妾達もそなたらに色々と支援したいのじゃからな。 今後も気兼ねなく訪ねるがいい」
「ありがとうございます、シャルロット女王、そしてクロウ中佐」
俺達は一泊二日で世話になった二人に挨拶を交わす。
そして、転移アイテムを使ってガイアブルクへ戻ろうとした時だった。
「…ん?」
「暁斗くん、どうしたのじゃ?」
不意に何か気配を感じ取った俺に、シャルロット女王が尋ねる。
「気配が…、追手部隊? にしては数が少ないような…」
「でも、この気配の一つは…あのクソ担任だよ」
由奈とひなたも気配を感じた。
特にひなたは、気配の一つの正体を知り、怒りを露にする。
「影が見えた。 来るぞ!
クロウ中佐も身構える。
首都の正門の物陰から出て来たのは…やはりあの担任だった。
しかもホムンクルス兵士を50人連れてだ。
「まさか、抜けた二人を探していたらとんだ無能達に出くわすとはねぇ」
不快そうな表情を浮かべながら担任はそう言い放った。
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