76 閑話~第7防衛部隊と三人娘(後編)~
この話は後編となります。
「兄さん、もうそのくらいにしましょう。 彼女達も困ってますから」
ザックの土下座謝罪に戸惑う瑠奈達三人娘を見て、シンシアがザックを諫めた。
ザックと三人娘が改めて座り直し、話の本題に入る。
「実を言うと、シンシアからの報告で君達だけは終わった後に保護をしようと考えてたんだ」
「シンシアさんが…?」
「私は相手の本心を探ることができる能力を持っていまして…今までは封印してましたが、今回の討伐部隊の進軍の中であなた達から何か違和感を感じたので一時的に解禁して探ったのです。 そしたら、望まぬ形で討伐部隊に参加させられた事が分かったのであなた達だけは保護しようと隊長である兄…ザックに進言したのです」
「そうなんですか…」
シンシアから語られた内容は、本心を探るというあまり類を見ない能力を一時的に解禁して探った結果、三人娘たちだけは保護しようという流れがあったという話だった。
それを聞いた春菜はなんだかんだで安堵していた。
「だが、今までの他国からの情報共有で対勇者の呪いの一つ、【時限爆弾】の存在が明らかになってな。 君達にも掛けられてるんじゃないかと思ったんだ」
(だから、あの時…解呪って言ったんだ…)
瑠奈はあの時の解呪を行った理由をようやく理解した。
そして、気になる事を尋ねた。
「いつ、その呪いの存在が分かったんですか?」
「あなた達より前にこの世界に…ガルタイトに召喚された異世界の人間が居るんです。 佐々木 暁斗さんという方が、追手部隊に組み込まれた一人の女性を救う際にそれが確認され解呪された内容がガイアブルク国王経由で知ったのです」
「ガルタイトは自分達の考えを…魔族殲滅主義を皆に押し付ける。 それに逆らう事がないように【時限爆弾】の呪いを掛けたんだと思う」
「私たちよりも先に召喚された人がいたんだ…。 でも、暁斗さんでしたっけ? なんでその人に追手が?」
自分たちより先に召喚された人がいたことにますます安堵する瑠奈達。
しかし、一部で感じた疑問を瑠奈はザック達にぶつけた。
「召喚された際、彼だけガルタイトからしたら『無能』というレッテルを貼られました。 その後に一人の女子生徒が彼を助けるべくガルタイトを裏切ったからだと思います。 実際には彼は勇者以外の全てのジョブの素質を持っているようでしたが」
「つまり、暁斗さんだけじゃなくその女子に対する追手だったと…。 その最中でさっきの呪いの存在が分かったと…」
「大まかに言えばそんな感じですね。 あの呪いは自分達の考えに逆らう行動を取った際に発動、数十秒後に爆発四散するというものです。 なので普通に保護しようとすると解呪のアクションの途中で爆死される可能性があったのです。 使い魔も解呪させまいと見張っていたようですから」
「そ、そんな厄介なのが私たちの中に…」
【時限爆弾】の呪いの内容を知った三人娘は、顔を真っ青にして震えた。
逆らえば死ぬ、そういう呪いだったのだから仕方がない。
今度はザックが話を進める。
「だが、戦線が終わるまで爆発させないようにする方法が一つだけあってな。 それが一時的に『捕虜』として街まで連れて行く事だった。 言ってしまえばそれこそが、【時限爆弾】の穴なんだ」
「その為にも、なるべくあなた達が動かないようにするために一時的に軽い威圧を与えて動くのを躊躇わせる予定でしたが…」
「あぁ、あの惨劇は…もしかして…」
「そうなんだ。 君達以外の奴らはものの見事にやる気満々だったから…。 次第に加減が出来なくなってしまったんだ。 結果、君達に余計な恐怖を与えてしまったんだよ。 それに関しては本当に済まなかった」
「あ、あの…隊長さん、頭を上げてください。 あの戦線に参加していた私たちも悪いのですから」
再び頭を下げて謝罪するザックに春菜が宥める。
それをよそにシンシアが話を進めていく。
「恐怖が臨界点を超えて気を失ったのを見て、慌てて総動員で他のやる気満々の人たちを兵士もろとも殲滅させました。 主犯格であるアンというガルタイトの王女は兄に任せて、私達は一応手錠を掛けて優しく起こした上で街まで捕虜状態で連れて行ったんです。 道中も不安と絶望感が漂ってたようで…本当にすみません」
「し、シンシアさん…!」
今度はシンシアが瑠奈達に頭を下げて謝罪した。
瑠奈が慌てて彼女を宥めるが、柚子は微笑ましそうな表情を浮かべて…。
(こうしてみると魔族っていい人ばかりだなぁ)
と、思っていたようだ。
無論、人間も魔族も一部では犯罪者とかはいるだろうが…。
「とにかく予定外に恐怖を与えてしまった君達に対して責任を取らせてほしい」
「隊長さん…」
頭を下げたまま、責任を取ると言った。
それを聞いた春菜は、責任感の強い人だと感じた。
「あの…隊長さんがよければ…、お嫁さんにしてもらえますか?」
「ちょっと、春菜ちゃん!? 抜け駆けは…」
「あー、瑠奈さん。 一応教えますけど、ここ魔族領は『一夫多妻』なので、大丈夫ですよ」
「ほ、本当ですか!?」
「まぁ、本当だ。 でも、それだけでいいのか?」
「はい。 本来なら私たちも死んじゃってるはずですから…。 こうして助けていただいた事もあるので」
「分かった。 それを受け入れよう。 男に二言はないしな」
そう言って、ザックは三人を優しく包むように抱いた。
「これからもよろしくな。 ちゃんと瑠奈達を守ってやるからな」
「はい…こちらこそ…」
穏やかな笑顔を浮かべる三人。
傍らで微笑ましく見守るシンシア。
こうして、瑠奈と柚子と春菜は第7防衛部隊隊長のザックの嫁になったのだ。
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