70 ゼイドラムへの道中にて
「すごい…、 デコボコ道走ってるのに…揺れない」
俺達は今、ゼイドラムに向けてバスで移動している。
窓際に座って景色を見ている胡桃が、他国移動用に改造されたバスに乗った感想がそれだった。
確かに、走ってる最中にデコボコ道があったりすると車体が揺れたりする、
しかし、このバスにそれがない。
一体どんなからくりが使われてるんだろう…。
「車体に重力魔法を掛けて今のようなデコボコ道を走っても揺れないように制御してるのだ。 車輪もこの手の道に強いタイプの物を使っている」
「重力魔法…? アイリスは知ってるか?」
「ううん、初めて聞く魔法だよ」
クロウ中佐から説明された際に、重力魔法という聞きなれない物があった。
アイリスに聞いても重力魔法については彼女も知らないようだ。
そこにシャルロット女王が答えてくれた。
「元々ゼイドラム国の技術者のみ習得できる魔法でな。 今のように重心を安定させるために利用するもので、攻撃には向かんからな。 他国が知らんのも無理はない」
あくまでも重心制御のための魔法ってわけか…。
確かにそれなら技術者向けといえそうだ。
「じゃあ一緒に走ってる戦車も?」
「そうじゃ。 無限軌道と車体の間に重力魔法を掛けて揺れないように制御しておる」
あの戦車も一緒に走ってるようだ。
まぁ、ひとまず護衛と言う名目上納得するしかないのだが…。
「でも、どうしてここまで…?」
「それぞれの国は領土が広い。 しかも国によっては…さらに深く堀り返せば首都から離れた地方の領主によってはデコボコ道を放置しているケースもある。 舗装する気もないかそれ用のお金がないのだろう。 故に我々の方でそれを解決すべく重力魔法しかり車輪の教科や車体の改造などを行ってきた」
「へぇ…」
「確かにうちも一部の地方領主がお金があるのに舗装に乗り気じゃないってのがいたね…。 結局お父さんの強制執行で舗装されたけど」
ひなたからの疑問にクロウ中佐が答えてくれた。
それを聞いたアイリスもそういった領主がいたことを思い出していた。
お金がないのは仕方がないにしても、お金があるのに発展したくないっていうのは…流石に廃れる要因にもなりかねない気がするのだが…。
「あ、後このバスの動力は?」
「マナというこの世界全てに浸透されている魔力の源を抽出して専用の装置にため込んだもので動かしておる」
「いわゆるマナのバッテリーって事ですか?」
「そなたらの世界で言うならそういう感じじゃ」
酔い止めの薬のおかげでバス酔いがない由奈からはバスの動力の事を聞いた。
シャルロット女王によれば、魔力の源であるマナを抽出して蓄える…いわゆるマナのバッテリーを動力としているようだ。
マナが蓄えられているので、少しのマナでもかなりの長距離を走ることができるのだとか。
後、排気ガスの心配はなさそうだ。
ゼイドラムへの道中は景色の切り替わりが激しく見てて飽きない。
途中の休憩所でも動物と戯れながら休憩したりして楽しんだ。
再出発してもその景色の切り替わりの激しさは変わらなかった。
ガイアブルクからは大体3時間は走行している。
クロウ中佐曰く、後1時間で着くのだとか。
それでも椅子がフカフカなので、快適度が高く、ひなたに至っては着くまで寝ていたらしい。
「見えて来たな。 あれがゼイドラムの首都『ゼットリム』だ」
「うわぁ、ホントに近代的な街並みだ…。 他のと世界観が違う…」
「確かにね…。 ビルが並んでる所があるよ。 おーい、ひなたちゃーん、もうすぐ着くよー」
「ん、んにゃ…?」
「ひなねぇ、起きて…」
「ふ、ふぁいっ!!」
胡桃にペチペチと叩かれてようやく飛び起きる。
「よく眠っていたな…ひなたよ…」
「あ、あはは…面目ない。 ちょっとトイレ行ってくるよ」
そう言って眠気眼のひなたはトイレに行った。
「ここまでくれば後10分後にはバス専用のゲートへと着く。 街へはそこから入ろう」
「わかりました、クロウ中佐」
後10分か。
遠くからでも世界観が違う街だったのだから、実際に見るとどうなるのかは分からない。
だからこそ、楽しみで仕方がないのだが…。
「お兄ちゃん、にやけてるね」
「初めて訪れる他国の街ですからね。 暁斗様もそうですが、由奈様も目を輝かせてますよ」
「あー、ホントだ。 まぁ、私も楽しみなんだけどね、その街に入るのは」
アイリスとクリスタが話し込んでいるが、気にしない。
ひなたもトイレから戻ってきて、ついにゼイドラムの首都『ゼットリム』へとたどり着く。
名目上護衛として動かしていた戦車群と別れ、俺達を乗せたバスはゆっくり、専用のゲートに入っていくのであった。
よろしければ、評価(【★★★★★】のところ)か、ブックマークをお願いします。