69 西地区の門にて
「二週間ぶりですね、クロウ中佐」
「ああ、君たちも元気で何よりだ」
翌日の朝、西地区の門の前でクロウ中佐が待っていてくれていた。
「あれからクレハ共和国はどうなってます?」
「国民も正気に戻って、解放されたことを喜んでいたよ。 今は力を合わせて復興に全力を尽くしているところさ」
それを聞いて安心した。
昔のようにとは言わないが、国民がしっかり意識してクレハ共和国を復興させてほしい。
ゲスーのような国を売ってでも危険な思想を成そうとする輩だけは出てこないことを祈るばかりだ。
「そういえば、ゼイドラムはここから遠いと聞きましたが…」
「ああ、私は先に転移でここに来たが、もうすぐしたら乗り物が来るはずだ。 君たちはそれに乗ってもらうそうだ」
「確かに、私たちは一度もゼイドラムに行ってませんしね…」
由奈が納得した様子で言った。
「アイリスは?」
「私もゼイドラムがどんな国かを聞いたことがあるだけで行った事はないよ。 だから実際に行くのは楽しみなんだよ。 しかも乗り物に乗って行くんだから」
乗り物か…。
この世界に来てからはガイアブルク城下町内の定期馬車しか乗ってなかったから楽しみでもあり不安もある。
機械技術国らしく、車とかあったりするのだろうが…。
「どうやら来たようだ…む?」
「どうしました?」
「ああ、我が国の女王陛下が余計な仕込みをしてくれたみたいだ…はぁ」
クロウ中佐がため息を吐く。
ゼイドラムの女王陛下が余計なことをやらかしたってことだろうが…どういう事だ?
「にぃ、何か見えた…」
胡桃が見えて来た影に指差しで示し、俺達はその影をじっくり見る。
そして、その影は次第に姿を露にする。
「ん…? あれはバスか…?」
最初に見えたのは中型バスのような形の車だった。
「あれはコミューターバスと言う本来は通勤用のバスを他国への観光用として改造された車種だ。 遠距離を走行するため、トイレも備わっている」
クロウ中佐が説明してくれたがまさかこの世界でバスを見ることになろうとは思わなかった。
機械技術国ならではというべきなのか。
そしてその周囲の影もその姿を露呈する。
その姿に俺達は驚いてしまった…。
「え、な、何あれ…!?」
アイリスはその物体に対し、驚きと畏怖が混じったリアクションをした。
「な、何か穴が開いた長いパイプのようなものがこっちを見ているような…?」
クリスタが言う穴が開いた長いパイプみたいなものって…砲身じゃないか!
まさか、あれは…!
嫌な予感がし、その露になる物体を見続ける。
そして、完全に姿を見せたソレを見て、驚かずにはいられなかった。
何故ならアレは…。
「せ…」
「「「戦車だとぉっ!?」」」
戦車だった。
改造されたコミューターバスの周囲は何故か戦車があったのだ。
それによる驚きの余り、俺と由奈とひなたは見事にハモってしまった。
それを見たクロウ中佐が頭を抱える。
先ほどの言葉の意味はこの事を言っていたわけだ。
「はーっはははっ! クレハ解放戦の英雄パーティよ! 妾が迎えに来たぞー!!」
一台の戦車から現れたのは、小柄だが機能性を重視した赤いドレスを身にまとった女性だった。
髪は青のポニーテールで活発そうなイメージだが、喋り方が古風なのかハッキリしない感じだ。
クロウ中佐がそれを確認すると、即座に戦車に飛び乗り、その女性を片手で持ち上げ…投げ飛ばした!
「ふぎゃっ!?」
叩きつけられた女性は、涙目になって立ち上がる。
「な、何をするんじゃクロウよ!!」
「いい加減にしてくれ、姉よ! 客人が固まってるんだぞ!!」
「あ、姉って…?」
先に我に返った由奈がクロウ中佐に聞いた。
「ああ、済まない。 我が国の現女王陛下は…ご覧の通り私の姉なのだ…」
「「「ええっ!?」」」
またしても驚きの余り、ハモってしまった。
クロウ中佐の姉が女王だったとは思わなかったからな。
「妾は、シャルロット・ルキウス。 今は軍の中佐であるクロウは妾の弟で同じ王族なのだ」
「まぁ、そういう事だ。 だが、君たちはいつも通りに接して欲しい」
「は、はぁ…」
シャルロット女王は小柄な体でドヤ顔をしながらふんぞり返っている。
それを横目で呆れて見つつクロウ中佐はいつも通りで接して欲しいという。
クロウ中佐も同じ王族だとは思わなかったが、同じ姓を名乗ってるのならあり得た話だ。
「まぁ、とにかく君たちはバスに乗ってくれ。 後、酔いやすい者がいるなら薬も用意しているから言ってくれないか」
「あ、私が該当するかも…」
「そういえば由奈ちゃん、バスによく酔うんだったね」
由奈が名乗り出たと同時にひなたが思い出したように発言した。
由奈がバス酔いしやすいって初めて聞いたぞ、俺は。
とにかく、彼女はクロウ中佐から差し出された酔い止め薬を飲んでいる。
酔い止め薬を飲み終え、俺達はバスに乗り込む。
クロウ中佐やシャルロット女王も一緒だ。
全員が乗ったのを確認してから、バスはゼイドラムに向けて出発した。
ちなみに女王が乗ってた戦車は別の人が乗って操縦している事が後に判明されたのは別の話…。
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