59 クレハ解放戦その1~ホムンクルス兵士だけを誘導せよ~
「よし、全員そろったね?」
翌朝、ローザリアの町の北の門にて、ルーク王子が一声をあげた。
クレハ共和国の首都へは、この門から出た方が近い。
俺達やエミリーさん達、そして他国からの戦力がこの場にいた。
「今回の戦いは、クレハ共和国をガルタイトの手から解放する為の戦いです。 これは他の解放戦に弾みをつける為の戦いでもあります」
「内容自体は至って単純。 首都の中心にある首都官邸を占拠し、クレハ共和国を売った張本人、ゲスー・オズワルドを殺害する!」
ヘキサ公国の宰相に続いて、ゼイドラム国の軍の准将クラスの人も内容を伝えていた。
「ですが、ゲスー・オズワルドは、ガルタイト国王と親友関係であり、それによる別の仕込みが考えられ、首都に住む国民もガルタイト式恐怖政治の元で兵士としてホムンクルス兵士に混じって送り込まれる可能性もあります」
エリス王女が発した言葉に、緊張感が高まる。
前夜の作戦会議でもその可能性を各国の要人から俺達へと予め伝えられたからだ。
「これからの流れで最悪の事態になった場合は、『クラスターボム』を使う事も辞さないという事を頭に入れておいてください。 理想としてはそれを使わずに終わる事ですが、ゲスーが狡猾な動きをしてくることもありえますので」
一気にざわついた。
ていうか、『クラスターボム』だっけか?
エリス王女はいつ手に入れたんだ?
多くの兵士や冒険者たちは国民を救いたいという想いを持っているため、クラスターボムの使用に非難の声も上がってる。
だが、俺達はゲスー・オズワルドが目的の為に手段を選ばない男だというのが分かってるので、無下に非難はできない。
エリス王女がそれを言わせるだけある。 奴の実力は不透明な所はあるが…。
「エリス王女殿が言っていたように、向こうの動き次第ではそうせざる負えない事態になりえる可能性も孕んでいる。 綺麗事をかなぐり捨てる覚悟がないと解放戦に勝てないことを覚えてほしい」
ゼイドラムの准将が改めてエリス王女と似たような事を言った後、周囲は沈黙した。
これはほぼ戦争なのだから、そうなってしまうのは当然なのだろう。
「では、クレハ共和国の首都へ向けて出発しよう」
色々と各要人からの話を終え、最後にルーク王子の締めの言葉で俺達は、機械技術国ゼイドラムから支給された魔道車と呼ばれるものに乗り、クレハ共和国の首都へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここが…クレハ共和国の…」
「そう。 クレハ共和国の首都『アサギリ』という都市だよ。 ガイアブルク程ではないが、比較的大きめの首都だよ」
魔道車で40分北へ進んだ先に城塞に囲まれた都市が見えて来た。
ルーク王子曰く、あそこがクレハ共和国の首都『アサギリ』という都市らしい。
遠くから見ただけでもそこそこ規模が大きく見える。
「あそこの塔みたいな建物は?」
「あそここそ、クレハ共和国首都の首都官邸の役割を担ってる塔っス。 ゲスーは、あそこからガルタイト国王仕込みの恐怖政治を展開してるものとみられるっス」
ひなたがある建物を見たので何かと聞いた所、あそこが官邸である事をエリス王女が教えてくれた。
そしてゲスー・オズワルドはあの中にいる。
最終目標は、奴を殺すことだから、それを成すためにまずあの官邸の役目を担ってる塔に突撃しないといけない。
「気配察知、してみましたけど…どうやらかなりの数の兵士が待ち構えてますね」
由奈は気配察知で兵士の存在を察知した。
彼女も勇者補正なのか物覚えがよく、数時間でマスターしたのだ。
「まぁ、こっちは魔道車に乗ってますからね。 あえて相手にとって分かりやすい感じにしたそうですから」
「ああ、いわゆる挑発…という事ですか」
「そうっス。 まぁ、これも機械技術国ゼイドラムの准将さんからのプランらしいですけどね」
「見えて来た。 ホントにかなりの数の兵士がいるね」
「ん…、あの中にどれだけ…兵士にされた国民が…いるんだろ…」
近づいてくるごとに兵士の数がかなり多い事が実感される。
胡桃も言っているが、あの中にどれだけ兵士にされた国民がいるのか。
それを試すためにペンダントを用意した。
「とにかくある程度近づいたら俺達は下車して、ペンダントを使います」
「わかった。 どれだけ効果があるか分からないが、出来るだけホムンクルスの兵士がそちらに釣られることを祈ろう」
ルーク王子にも許可を貰い、ある程度近づいた時点で車から降り、クリスタの血を混入したペンダントを光らせる。
「「「!!!」」」
すると血に混じった魔力に反応したホムンクルスの兵士達が急遽方呼応を変えてこっちに来た。
それもかなりの数。 効果は抜群のようだ。
内部を見張ってたらしいホムンクルス兵士も城壁を乗り越えてこっちに来ていた。 運動神経がすごいな。
「よし、しばらく走るぞ! 胡桃はしっかり捕まってろよ!!」
「ん…!」
「分かった! 由奈ちゃんも走れるね?」
「もちろん!」
「ある程度おびき寄せたら、箱庭カバンに入ってもらってるアルト達を呼ぼう」
こうして、俺達の方は見事にホムンクルスの兵士全てをおびき寄せることに成功した。
兵士にされた国民が混乱しているうちに、他の人が次々と催眠魔法で眠らせている。
後は、ホムンクルスの兵士を全滅させ、首都内に突入するだけだ。
「ひなた、ホムンクルスの兵士は?」
「すべてこっちに付いてきてる。 ペンダントの効果は抜群だね」
「もう少ししたら、アルト達を呼んでホムンクルスの兵士を殲滅させるぞ!」
「うん! やってみるよ!」
ひなたも由奈もいつでも戦闘態勢になれるように武器を手に持った。
「胡桃はサクラとおチビーズと共に後方だ。 召喚魔法の準備をしておいてくれ」
「ん…っ! がんばる…!」
胡桃も今回の意図を理解してくれてる。
俺の役に立とうと気合十分だ。
「出番だ、アルト達!!」
そして頃合いを見て、箱庭カバンからアルト達を呼び出した。
「サクラとおチビーズは胡桃を守ってくれ。 アルトは俺達と殲滅戦だ!」
『承知した、主よ』
『胡桃様は私たちにお任せくださいませ』
『よーし、やるぞー!!』
抱えていた胡桃を下ろし、そこにサクラ達がガードに入る。
その後、俺は剣を手に取った。
「さぁ、やろうか…!」
そして、解放の障害となるホムンクルス兵士の殲滅戦が幕を開けた…。
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