表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/134

03 追憶その2~無能と反逆~

【Side ひなた】


 私、葛野かどの ひなたは、中学からの男友達の佐々ささき 暁斗あきと君と他クラスメイト、ならびに担任の先生と共にガルタイトという名前の国の城の中にいた。

 確か、朝のホームルームを始めようとしていた所で教室のドアと窓が開かなくなり、床下から発する光に飲み込まれたかと思えばいきなりここに飛ばされたんだ。


 当然ながらみんなざわついている。 暁斗君は呆然としている。

 彼は、高校になっても私ともう一人の女子以外の友達はいないので、私がよく彼と会話したりゲームをしたりして遊んでいた。

 こういう時に収めるべきの担任の女教師もパニック状態なのでどうしようもない。

 そんな時、不快な声を耳にした。


「ようこそ、異世界の勇者たちよ。 我はヘイト・ゾア・ガルタイトである。 そなたたちは魔王を倒してもらうための戦力として召喚させてもらった」


 やはり、聞いてて不快だった。 こちらの都合もお構いなしとか…理不尽にも程がある。 反応もバラバラだ。

 やる気満々の奴らがいれば、その一方で…


「召喚だって!? ふざけるなよ!!」


「元の世界に帰してよ!!」


 一部のクラスメイトからは批判の声が上がった。 気持ちはわかる。私だってそうだし、口には出さないが暁斗君もそうだ。

 だが、向こうは知ったこっちゃないといわんばかりに批判を無視する。


「そなたたちはまず、ステータスを確認させてもらおう。 魔王を倒すには勇者の資質が必要なのでな」


 国王がそう言った直後、部下が水晶玉のようなものを持ってきた。 ステータスというものをこれで確認するのだろうか。


「では、順番に水晶玉に手を触れるのだ」


 まずはやる気満々な奴らのグループが、次から次へと水晶に手を触れる。 反応からしてみんな勇者という名の素質持ちのようだ。

 みんなも諦めたかのように次々と水晶玉に手を触れる。


 そして私の番。 手を触れた瞬間、何かが流れ込むような感覚がした。 多分、スキルなんかを習得させたんだろうね。 私も何故か勇者としての素質持ちだったらしく合格とのこと。


 ここで私は嫌な予感を察した。 この手のノベルのテンプレ状況ならば、誰か一人が無能扱いされる可能性が出てきた。

 最後は、暁斗君が水晶に手を触れた結果…


「この男、勇者の素質がありません!」


「ええい、まさか無能が紛れ込んでいたとは!」


 嫌な予感が的中した。 暁斗君が無能扱いされたのだ。 クラスメイトや担任からもゴミを見るような視線を送っている。


「どういうことなんだよ! なんでだよ!!」


 暁斗君が怒り狂う。 当然だ。 無能扱いされだした瞬間、みんなして蔑んできたのだから。


「アン、まずはアレを仕込め」


「はい、お父様」


 王女なのか、国王の後ろから現れた女が指パッチンとした瞬間、暁斗君の意識が失われた。


(暁斗君…!!)


 一連のやり取りを見ても彼を助けない。 そんな光景に、私はついにキレた。 もう一人の王女が彼をサンドバックにしようとした瞬間に私の体が動いた。


 暁斗君ともう一人の王女の間に割り込み、勢いのまま王女を背負い投げを仕掛けた。 スカートなので、一部の視点からは下着が見えてるのだろうが、今はそれを気にしている場合じゃない。


「か、葛野さん…!?」


 担任が何か嘆いているが、気にしない。

 止めようとする兵士に対し、正拳突きを食らわすと、気を失ったのを見て剣を奪い取った。

 第三者からはクールな文学少女と言われていたが、祖父からいろんな武術を仕込まれており、それが遺憾なく発揮された格好だ。

 だが、水晶から流れた力も補正として働いているので思った以上の威力が出た。


「な、何故だ! 何故、勇者であるそなたが、その無能をかばうのだ!?」


 国王は驚きを隠せない表情で、私に問いてきた。

 今の光景でクラスメイトも他の兵士も唖然としている。


「友達を助けるのに、理由が必要なのかい、糞国王!」


「な…!?」


「葛野、正気かよ!?」


 男子生徒…確か如月きさらぎ 光輝こうきが信じられない表情で言ってくる。

 私は至って正気なんだが、正直に答えてやるか。


「ああ、私は魔王討伐より友達を助ける方を取った。 ただそれだけ…さ」


 私はそう言いながら背負い投げで倒れた王女の太腿部分に剣を思いっきり突き刺した。 赤い血が私の顔まで届くくらいに噴き出してくる。


「ああああああああっ!!」


 突き刺された王女が悲鳴を上げる。

 これは暁斗君を守るための反逆の証。 突き刺した剣を再び抜いて、血まみれの刃を国王やクラスメイト達に向け、こう宣言した。


「これ以上、私の友達にひどい目にあわせようなら、こっちも容赦はしないから」


 全員が身動きが取れなくなったのを見て、私はスキル【グレートブースター】を掛けて身体能力を強化。

 その力で、暁斗君をお姫様抱っこをして、そのままダッシュで走り始める。 途中の壁もぶち破って、飛び降りもした。 スキル【グレートブースター】のおかげで傷一つもない。 とりあえず走ることにした。 どこまでも遠く。


◇◇◇◇


「これが、私が経験したガルタイト国の顛末だよ」


「魔族殲滅主義だけじゃなく勇者至上主義までも貫くとか…。 無能扱いされたお兄ちゃんが不憫すぎるよ」


「そうだよ。 だから私は彼を助け、そのまま反逆し、2時間程走り続けたんだ。暁斗君を抱えたままでね」


 アイリスちゃんに私が経験したガルタイト国の話をした直後、彼女は怒りを滲ませた。 彼女からしてやはりガルタイト国の振る舞いは許されないものなんだろう。

 それだけじゃない気もしたが、今は聞かない方がいいだろう。


「お話してくれてありがとう。 なんとしてもお兄ちゃんを助けないとね」


「同感だよ。 私も彼に想いを寄せてるからね。 なんとしても元気になってほしいからね」


「よし、なら二人でお兄ちゃんの看病をしよう!」


 暁斗君のことでアイリスちゃんと意気投合し、二人で力を合わせて看病することにした。 それは、1週間後に彼が目覚めるまで交代で睡眠を取りつつ、看病し続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された剣士の冒険譚』もよろしくお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ