50 VSサイクロプス
獲物を逃がされ、いきり立っている二匹のサイクロプス。
その魔物に俺達三人は迎え撃つ。
初撃に耐える程の固さを持つ上、巨体だから攻撃力もあるだろう。
しかし、俺達は退かない。
彼らとアイリス達を守らなければならないのだから。
「【アンチアタッカー】!」
先陣を切ったのは、由奈のデバフ魔法だ。
名前の通り相手の攻撃力を下げる魔法で、勇者以外なら『魔術師』の素質を持った者が使える。
これと、後方からアイリスが掛ける魔法でサイクロプスを相手にしやすくなる。
「【フィジカルブースター】!! みんな、負けちゃ駄目だよ!!」
「任せろ!」
アイリスからの援護を貰った俺達は、攻撃力が下がったサイクロプスに斬りかかる。
さらに【アンチフィジカル】を使えばいいのだが、元の防御力が高い敵相手では、効果が薄い。
それに、俺や今の由奈は、相手の内部から破壊する技を持ってるから、奴の動きを固めさえすればぶちこめるので問題はない。
「はぁっ!!」
そしてひなたが振るった剣から真空破が発生した。
かなり横に広く、二匹まとめて命中する。
「ウガアァァァッ!!」
激昂するサイクロプスは、大きな拳を振り下ろしてきた。
だが、激昂しているのか、モーションが雑だ。
モーションを見切り、回避に成功する。
そして、拳が地面に突き刺さったと同時に俺は剣を斜め上に振るった。
硬いとは言え、あのバーサークバッファロー程ではなかった。
振るった剣によって、サイクロプスの片割れの腕は切断された。
「ガアァァァァッ!!」
片腕を切断されたサイクロプスは、痛みで悲鳴を上げる。
そこに追い討ちを掛けるべくあの呪術を使う。
「【ペインカース】」
「がっ!? ウガガアァァァァッ!!」
切断され、痛みに苦しむ今ならば、この呪術も最大限に活かせる。
一方の由奈とひなたも、有利に戦いを進めている。
二人とも、サイクロプス相手に抜群のコンビネーションを披露している。
今、あの魔法の弓で相手の足元を狙って怯ませた所をひなたの連続技が炸裂していた。
それにより、奴の受けたダメージはかなり蓄積していた。
俺は、ひなたにアイコンタクトを取ってから奴にも【ペインカース】を掛けると、やはり奴は痛みに苦しみ始めた。
さらにそこから、今度はクリスタが【テンペストエッジ】の魔法でサイクロプスの身体を切り刻む。
痛覚の呪いによる効果もあって、二匹のサイクロプスは最早攻撃できる状態ではなくなった。
そろそろとどめを刺さないとな…。
「由奈、とどめを刺すぞ! 俺は右の奴をやる!」
「うん、私は左の方だね」
そう言って俺と由奈が左右に散開。
由奈は槍が届く範囲にたどり着くと同時に、槍に魔力を注いだ。
そして、槍が光った瞬間、由奈はジャンプしサイクロプスの頭部に目掛けて力いっぱい刺突した。
「【ペネトレイト】!!」
「ぐげぁっ!!」
技名を叫んで放ったその技は、外皮にはあまり損傷がなかったものの注いだ魔力が奴の心臓部を破壊した。
奴の口から出たその血が何よりの証拠だろう。
これは、かつてバーサークバッファローに対して俺が放った気を纏った正拳突きの槍バージョンだろう。
心臓部を破壊され、倒れるサイクロプスの片割れ。
それを見届けながら俺の方も、拳に気を込める。
「でやあぁぁぁっ!!」
そして、もう一匹のサイクロプスの心臓部にあたる場所に目掛けて、ジャンプしながら思いっきり拳を叩き込んだ。、
「ごばぁっ!!」
鈍い音と共に、奴の口から血を吐いた。
こっちも気の力が内部に入り込んだため、心臓部が破壊されたのだ。
二匹はしばらく立っていたが、俺達が着地すると同時にうつぶせになるようにズシンと音を立てて倒れた。
そして、しばらく痙攣した後、二匹のサイクロプスは絶命した。
「やったねっ!!」
「ああっ、由奈も見事だったぞ」
「二人ともそんな技があるなんてずるいよね。 私も内部破壊の技があればなぁ」
由奈と俺がハイタッチで勝利を祝うと同時に、ひなたに羨ましがられた。
まぁ、ひなたのメインは剣だからなぁ。
「ひなたもあの連撃はすごかったぞ。 あれは、勇者の技だろ?」
「そうだね。 【アクセルザッパー】っていう勇者の素質を鍛えたら得られる技だね。 剣を使わないとだめだけど」
「それはともかく、三人ともお疲れ様。 流石って感じだったよ」
ひなたの技を評価している所で、アイリスが労ってきた。
「ああ、アイリスもご苦労様。 で、あの子たちは無事か?」
「うん、何人かは怪我してたけど、クリスタちゃんとテイム魔物がフォローしてくれてるから無事だよ」
何にせよ無事でよかった。
俺達はすぐにアルト達の元へ向かう。
怪我人は、サクラの回復魔法で回復していたようだ。
(数からして、占めて14人か…)
そう独り言ちていた時、一人の男子生徒が俺に向かってお礼を言ってきた。
「助けてくださってありがとうございます」
「どういたしまして。 君たちが無事でよかったよ。 それで、その制服…吾妻中学だろ?」
「え、何故それを…!?」
「まぁ、私と暁斗君と由奈ちゃんは、その中学出身だしね」
「そ、そうなんですか!?」
俺とひなたが男子生徒に話しかけている最中に、女子生徒が食いついてきた。
「よかった…! 転移されたのは私たちだけじゃなかったんですね」
「という事は、君たちはもしかしてガルタイトに召喚された勇者?」
「はい、その一部の人間です」
そうか、今度の勇者召喚は吾妻中学の子たちを狙ったわけか。
遠い後輩をこんな目に遭わせるとは、ガルタイト許すまじ!
だが、それよりも彼らを街へ連れて行ってあげないといけない。
「とりあえず、街へ連れて行くよ。 この場所からはガイアブルク城下町が近いしな」
「いいんですか?」
「みんながここに来たのは訳ありでしょ? その話も聞きたいし、何よりもみんなを守りたいからね」
「あ、ありがとうございます!」
「気にしないでくれ。 じゃあ行こうか。 アルト達もしっかり護衛してくれよ」
『うむ、承知した。 街に着くまで我らが守ってみせよう』
「にゃーん」
「ああっ、やっぱり可愛い!」
「にゃぁ」
一人の女生徒がフェアリーキャットを抱きかかえる。
抱かれたフェアリーキャットは満更でもない様子。
こうして俺達は、吾妻中学の生徒14人を連れて、ガイアブルクの城下町へと向かった。
よろしければ、評価(【★★★★★】のところ)か、ブックマークをお願いします。