48 クレハ共和国の売国情報
リタが【クリスタ・ラミアス】という偽名で国民登録してから3日後、エリス王女がやってきた。
どうも表情が芳しくないようだ。
「何かあったのですか?」
同じく気になったひなたがエリス王女に問いかける。
「諜報部隊から届いた今現在の情報ですが…、クレハ共和国の現大統領は国をガルタイトに売るつもりのようっス…」
「へ!? マジで!?」
「大マジっス。 第二諜報部隊が官邸への侵入に成功したらしく、そこで行った与党会談でガルタイトに国を売る計画を聞いたとの事っスよ」
まさか、あのガルタイトに国を売ろうとしている大バカ者がいるとは…。
日本にもそれらしき奴らがいたが、この世界も売国主義が存在していたとは。
「向こうの国民はどうなの?」
「現政権は、国民に知らされることなく実行に移すらしいっス。 一応父上にも報告して、制裁と武力制圧を視野にいれるみたいっス」
アイリスが国民を心配するが、エリス王女曰く知らせない形で売国をするらしい。
酷いな、今のクレハ共和国の政権は…。
何も知らないまま国を売られるんじゃ国民がかわいそうだ。
「でも、そんな事したらいつか国民が国外逃亡したりクーデターを起こすんじゃ…?」
「向こうはそれも織り込み済みで、先にクレハ鎖国法と治安維持法を強引に可決したみたいっス。 これによってクレハ国民は国外への逃亡は不可能になりクーデターを起こそうものなら即死罪になるとの事…」
そこまでするか…。
由奈の懸念にエリス王女がもらった情報の答えがあまりにも突き抜けている。 悪い意味で。
奴らはガルタイトと手を取り合う理由で国を売るためには手段を選ばないという事か。
「元々、今の大統領がガルタイト国王の数少ない親友みたいっスから、ガルタイトの味方をするのは必然だったのかも知れませんね」
「そんな理由で…」
「ちっぽけな理由でも人によってはそれが原動力になる事もあるんスよ、ひなたちゃん。 今回の大統領の理由も親友のためで動いてます。 国民感情を無視して」
まぁ、そうでなければ先だってあんな法案を強引に可決しないわな。
クレハ共和国が売国主義の左派政権によって段々勢力が塗り替えられる事になるとは各国も思わなかったのだろうな。
「そういう事もあって、諜報部隊は一時撤収させてるっス。 リタ…っと今はクリスタちゃんでしたね。 彼女からもらった2度目の勇者召喚もあって各国は緊張に包まれてるっスから」
やはり、勇者召喚の件からかなり緊張が昂っている感じか。
そこにクレハ共和国のガルタイトへの売国を知ったら、それこそ混沌ものだぞ。
もしかしたら、それが狙いかもしれないけど…。
「今回の流れでおそらくクレハ共和国の解放戦とガルタイト国の戦いという二つの戦争が同時に行われる可能性が高いっス。 その為、暁斗くん達もその戦いに参加してもらう可能性も示唆されてるっス」
「ああ、それはクリストフ国王にも言われました」
「それなら話は早いっスね。 ギルドのみんなにもこの情報は伝えてあるのでギルドの方も動き始めてるはずっスよ」
「それで、俺達はどうすればいいですか?」
「暁斗くん達は指名があるまでは今まで通り依頼をこなしたり日常を過ごすといいっス。 何かあれば私か父上が知らせに参る事にしますから」
「分かりました」
「じゃあ、私は諜報部隊を出迎えないといけないので失礼するっス」
そう言ってエリス王女は帰っていった。
その後、少しの間沈黙していたが、アイリスが口を開いた。
「大変な事になっちゃったね、お兄ちゃん」
「ああ、ここに住み始めて1か月少しでまさかこうなるとは思わなかったな」
アイリスの不安に俺も同意した。
まさかこんな事態になるとは思わなかったからだ。
ガルタイトだけでなくクレハ共和国も同時に相手にしないといけなくなったからな。
「どうするの?」
そこに由奈が今後の事で聞いてきた。
「とりあえず、明日まで休んで明後日から依頼をこなしつつアルト達や他のテイム魔物を鍛えよう。無論、俺達もだけど」
「そうだね、今は色々と混乱してるし、明日までは休んだほうがいいかもね」
ひなたも今後のスケジュールに同意してくれた。
「あの、私も冒険者登録できますでしょうか?」
「国王が根回ししてくれたから、大丈夫だけど…。 クリスタも強くなりたいのか?」
「はい。 私自身もそろそろあのぐ愚父や姉妹と決着をつけないといけないので…」
「わかった。 明後日にギルドで冒険者登録をしてから依頼とかこなそうか」
「ありがとうございます、暁斗様」
「いや、様付けはいいから…」
クリスタも冒険者として強くなろうと決意した。
俺もひなた達も異論は出なかった。
思うところはきっと同じだろう。
俺達は改めて、お互い頑張ろうと気合を入れた。
そして後日、ガルタイトが2度目の勇者召喚を行ったという報告を俺達は耳にすることになった…。
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