44 行き倒れたメイド服の少女
第4章に入ります。
追手第二陣を殲滅してから早一週間。
由奈も新生活に慣れて来たので、彼女の願いを汲み冒険者登録を行った。
パーティーは、俺達と一緒にということで合意。
パーティランクは据え置きだそうだ。
ということで、今回は討伐依頼をこなす事にした。
由奈の戦い方も見ておきたいからな。
討伐依頼場所は北地区の門を出た先の果樹園。
そこの周辺に徘徊するコボルト5体を倒してほしいというものだった。
そして、果樹園にたどり着いてすぐに戦闘を始めたが、由奈はすこぶる冷静だった。
魔法で具現化した弓を使って3体射抜き、残り2体は槍を駆使して的確に急所を突いて絶命させた。
「由奈の奴、槍捌きすごくないか?」
『ふむ、槍の熟練度に関しては主より上ではないか?』
「かもな。 『槍術師』だけはなかなか上手く極められないから参考にしたいな」
「暁斗君は動きが速すぎるから、槍との相性が悪いんじゃない?」
「それよりも魔法で弓を作ったことに驚きべきだよ。 あれ、勇者の素質にないスキルみたいだよ。 かといって『錬金術師』でもそれは不可能だし」
俺達は、由奈の槍捌きに感激を受けたが、アイリスは由奈のスキルに驚いていた。
どうも勇者の素質があっても得られないスキルらしい。
という事は、由奈自身の固有スキルか何かなのか?
「は、早く素材取って帰ろう? あんまり見られると恥ずかしいし…」
「ご、ごめんね。 コボルトの場合は剣だからすぐに持って帰れるよ」
アイリスがコボルトの剣を取ってカバンに入れる。
そしてすぐに城下町に戻ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしても、このメイジフォックスウルフ本当に大人しいよね」
由奈がサクラの身体を優しく撫でながら言ってきた。
そこにアイリスとサクラが反応する。
「元々Sランクの魔物だけど穏健型だからね。 余程の事がない限り人は襲わないんだよ」
『ええ、元々暁斗様の頼みで由奈様をお助けするように動いてましたが、まさか他の勇者が由奈様を餌にしようとは思いませんでしたわ』
「あれは俺もびっくりしたよ」
「当時は私、恐怖で動けなかったけど近づいた時に急に優しい目つきになって私を包み込んだから、『え?』ってなったけどそういう事だったんだね」
あの時の事を思い出しながら語り合う俺達は、由奈を餌にした勇者たちに改めて怒りを感じた。
と言っても俺がいたぶった後にひなたが止めを刺したからこれ以上はどうとでもいいが。
由奈は俺が勇者と戦ってる間は、サクラの尻尾でモフモフを堪能しつつ、おチビーズの話し相手をしていたらしい。
ひなた曰く、猫や犬の面倒見はいい方だったとか。
とまぁ、そんな会話をしていくうちに奇妙な何かを察知した。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「いや、なんか奇妙な気配を察知したんだが…」
『ふむ、確かに感じるな…だが…』
俺と同じくアルトも奇妙な気配を察したようだ。
アイリスもすかさず『気配察知』を発動させる。
「確かに…微妙な感じだね。 魔力の質からしてホムンクルスだろうけど…」
アイリスは魔力の質を察知して、ホムンクルスだと判断した。
だが…
「何ていうか…、生命力が幾つかストックしてるような感じだよ。 レアもののホムンクルスみたい」
生命力が幾つかストックとか…、ホムンクルスでも化け物がいるのか?
「暁斗君、これ…感じからして人型だよ。 しかも殺気は感じられない」
ひなたも同様に察知したようだ。
由奈とおチビーズはキョトンとしている。
ああ、由奈にも『気配察知』を教えるの忘れてたな…。
「よし、その気配の元に行こう…。 距離は近いしな」
「うん…」
俺達は固唾を飲んで、気配を察知した場所に向かう。
そこは街道を外れた、幾つかの茂みがある場所だった。
そこをかき分けると…。
「え…?」
そこにはメイド服を着た少女が横たわっていた。
「この少女が…?」
「間違いないね。 しかもこのメイド服の規格からして…ガルタイトのだよ」
ひなたがメイド服の規格でガルタイトの物だと見抜いた。
という事はこの少女はあの気配察知で感じたホムンクルスだという事か…。
「と言っても、流石にこれは放って置けないんじゃないかな?」
「ああ、攻めてきたにしては少し様子がおかしいしな」
『では、主はその少女を介抱するんだな?』
「そういう事になるな。 ガルタイトに関する情報も聞けるかもしれないし。 アルト、少女を背中に乗せるぞ」
『承知』
俺は倒れたホムンクルスの少女を介抱、すぐにアルトの背中に乗せた。
ひなたと由奈で落とさないように支えながら、ゆっくり歩く。
「じゃあ私は、お父さんに報告するね」
「頼む、アイリス」
アイリスが今の少女の事についてクリストフ国王に報告を入れる。
すぐに国王からの返事が来た。
「その女の子はこっちでしばらく介抱してくれって。 兵士や門番には伝えておくからって」
「そうか、じゃあ城下町に戻ろう」
クリストフ国王の返事を聞いた俺達は、少しスピードを速めて城下町へ向かって行った。
そして、俺達は知ることになる。
この少女からもたらされた情報によってガルタイトがさらなる混沌に嵌っていくことに…。
よろしければ、評価(【★★★★★】のところ)か、ブックマークをお願いします。