39 新たな情報と次なる決意
メイジフォックスウルフの家族と契約して3日が経過した。
念入りにギルドや国王に報告したおかげで、受け入れもスムーズだった。
というよりおチビーズ達は多くの人からも人気が高かった。
国王からは改良された箱庭アイテムを貰った。
契約した魔物は、自宅内では箱庭から解放させて遊ばせている。
改良型の箱庭アイテムは、魔物用食料も保管できるため、安心して餌あげできる。
余談だが、ギルドに来た際にサラトガさんが目を丸くして驚いていた。
前もって報告はしたが、実際に見ると驚いてしまうのだろう。
その要因となったガルタイト国の魔王討伐部隊の事も報告したら理解してくれた。
その後の手続きもスムーズで、おかげで9匹の魔物が認定契約魔物となった。
そんな中で、ある報告が俺達の元に届いた。
「ガルタイト国の魔王討伐部隊が敗走した?」
「うん、お父さんからの報告じゃ最南端を中心に防衛する第9防衛部隊と交戦したけど、全く歯が立たず敗走したみたいだよ」
自宅にて、アイリスから聞かされた情報はあまりにもすごい内容だった。
あの追手の件からイリアさんがしっかり強化してくれたのだろう。
「それにしても、一方的に負けるとか…。 まともに訓練や冒険者活動してないんじゃない?」
「多分そうだろうね。 アン王女の呪いと勇者補正の能力、そしてホムンクルスの兵士を多数投入することで勝てると思ってたかもね」
「で、結果は歯が立たず惨敗…と」
「うん。 兵士は全滅、勇者も二人死亡したそうだよ」
まぁ、なんとも言えない内容だが、聞けば聞くほど呆れの方が強くなる。
少しの訓練だけで強くなれるはずがないのだから。
俺やひなたのように冒険者活動をこなし続けていれば話は別だが、城内の訓練しかやってないのであればそうなるのも当然だろう。
「ある意味ガルタイトの操り人形と化した者たちの末路なのかもしれないけどね」
「だが、また攻めてくるだろうな。 あいつらは諦めが悪そうだし」
「イリアお姉ちゃんからの話じゃ第9防衛部隊は鬼人のシュメルさんと竜人の副隊長もいるからね。 他の防衛部隊も相当強いから大丈夫でしょ」
アイリスが心配無用とばかりに防衛部隊の話をした。
そういえば、魔族って亜人の集まりだったか。
様々な強さを持つ種族ならではの存在が、イリアさんによって実践的に強化されれば確かに歯が立たないだろうな。
「後ね、イリアお姉ちゃん経由でお父さんから気になる事を聞いたんだけど…」
「ん? 気になる事?」
ひなたが首をかしげながらアイリスに尋ねる。
俺自身もそれを聞いて気になってきた。
「春日部 由奈っていう人、知ってる?」
「!?」
アイリスが口にした名前を聞いてひなたが驚いた。
俺も衝撃を受けている。
無能判定されて、混乱していて周囲を見れる余裕がなかったが…。
「その人を組み込んだ追手第二陣が近々来るみたいだよ」
「そんな…!」
ひなたもショックを隠し切れなかった。
追手の部隊に彼女が組み込まれたのだ。
少し話し相手をしていた俺でさえ、驚きを隠せない。
「だけど、何故、その事を?」
「由奈さんのお付きのメイドさんが実は魔族側から派遣したスパイなの。 話す機会があったから色々聞いて発覚したみたい」
「そういえば、イリアさんは諜報部隊をガルタイトに派遣し続けているって言ってたな…」
「後ね、お兄ちゃんが無能判定された時にほとんどのガルタイト関係者から『威圧』スキルの使用が確認されたみたい」
「ま、マジか…!」
「うん、多分意思の統一を無理やりにでもさせることが目的だったかもね」
おいおい、次から次へととんでもない事実が出てくるな。
いくら何でもそこまでするか…?
「そういえば確かにあの時、プレッシャーみたいなのは感じてた。 でも、私は暁斗君を助けたい一心で振り切ったけど…。 って、そうか、しまった!!」
「ひなたお姉ちゃん!?」
「あの時、私の真後ろに由奈さんがいたんだ…。 彼女の性格から手を引っ張りながら暁斗君を助けるべきだったかも…! 彼女は小学校からのいじめが原因で上手く自分の意思を持てない性格だから…!」
後悔の念を抱え始めたひなた。
春日部さんの性格からして、動きたくても動けなかったんだろうな。
「それで、彼女は今はどんな考えを持ってるんだ?」
「何かね…、どのみち避けられない戦いらしく死ぬ前に一言だけ謝りたいって…」
「う、うそ…」
「時間がそうさせたのか…、やり切れないな…」
アイリスによる今の春日部さんの意思を聞いて、ひなたは開いた口が塞がらなかった。
俺もこれを聞いた以上、やり切れない思いで一杯になる。
『主よ…、その件についでだが…。 その少女と追手部隊を切り離せばいいのだろう?』
「アルト?」
ずっと俺の隣にいたアルトがここに来て口を開いた。
「可能なのか? 多分兵士も増員してくる。 他の勇者たちも来ているはずだ」
『その為の我々だ。 私と主たちが兵士や他の勇者と戦い、その間に妻と子供たちでその少女を介抱して安全なところまで連れていけばいいだろう』
「やってくれるのか?」
『無論だ。 我々は主と主の仲間のために動くのだから。 こういうのはSランクの魔物である我々が適任だろう』
『ええ、私もせめて彼女だけは救ってあげたいと思ってますわ』
ひなたの隣に居続けたサクラも同じ思いだった。
ここまで言われた以上、彼らの力を借りたい。
「じゃあ、その時は力を貸してくれ」
『承知』
『了承しましたわ、暁斗様』
『にーちゃんのためにも俺達頑張るぜ!』
おチビーズも意気揚々と決意していた。
心強い仲間がいるというのはありがたいな。
俺はひなたに頼み、保管していた春日部さんの写真をアルト達に見せて容姿を記憶させた。
記憶力のいいメイジフォックスウルフの家族ならやってくれるだろう。
後は追手が来るのを待つだけだ。
待っててくれよ、春日部さん。
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