37 閑話~魔王討伐部隊、惨敗す~
ガルタイト国の魔王討伐部隊サイドです。
閑話なので短いです。
「きゃああぁぁぁっ!!」
「か、門倉さん…!」
魔王討伐に向け、絶賛進撃中だったガルタイト国の魔王討伐部隊。
ようやく魔族領に入り、調子ついた所に防衛部隊に遭遇した。
開始前の防衛部隊は部隊長を含めての数は100。
一方、ガルタイト国の魔王討伐部隊は勇者達や同行しているアン王女を含め数は500。
そして、勇者は基礎能力が現地人より高い。
これにより、ガルタイト国が有利に運ぶ…そう思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
多く連れていた兵士は見事なまでに惨殺され、門倉という名字の勇者の少女は【魔術師】の素質を持つ亜人の炎によって燃え上がり、焼き殺された。
対する防衛部隊は、2人の負傷退場があったが、それ以外は全くと言っていいほど死者は出ていない。
イリアゲートは、この時のために各防衛部隊に対して厳しい強化訓練を課していた。
その激しい訓練により、今まで以上に戦闘の経験を積んでいる防衛部隊に比べて、勇者たちの訓練は地下にある訓練ダンジョンで魔物と戦うだけだった。
個人の能力とアン王女の呪いの力だけでごり押しすれば勝てるとガルタイト国王やアン王女は考えていたが結果は無残なものだった。
「な、何でなの…、なんで呪いが効かないの…!?」
アン王女は呪いが効かない事に顔を歪め、震えていた。
「くそっ、それよりもこんなにあいつらが強いなんて聞いてない…!」
「どうなってんだよ!? 門倉は焼き殺され、鈴鹿は腹を思いっきり殴られて未だに目を覚まさねぇし、何より俺達の攻撃が通用しねぇ!!」
光輝と貴之が予想外の強さに悪態をつく。
特に光輝は、自分よりも強い相手が出てきたことにショックを隠し切れないようだ。
それを嘲笑うかのように、魔族の男が前に出た。
「ふっ、この程度で強くなったとか、笑わせてくれるな。 特別だ。 第9防衛部隊隊長・シュメル、この技を貴様らに見せよう」
そう言うと、魔族の男…シュメルの持つ剣が光りだす。
そしてそのまま光輝達に向かって振り下ろした。
直後、振り下ろした際に発生した衝撃波が光輝達を襲う。
「うわあぁぁぁ!!」
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
「いやあぁぁぁぁっ!!」
光輝達勇者組とアン王女は、その衝撃波を回避できずに直撃し、思いっきり吹き飛ばされた。
「ふっ、我が剣技『烈風』の味はいかがかな?」
「うぅ…、な、なんて強さ…うぐ…」
とっさに結界を展開したアン王女でも、衝撃波の威力を完全に抑えることが出来なかった。
そのために彼女も結構なダメージを負ってしまった。
「ぐぅ…」
「う、うぅ…」
光輝や貴之も、衝撃波を避けきれなかった。
アン王女よりも大きなダメージを負ってしまった。
光輝達は、勇者なら誰でも使えるスキル【グレートブースター】を予め掛けていた。
しかし、それをもってしてもここまでのダメージを受ける羽目になるなど、誰が予想出来よう。
たが、それだけではなかった。
「ふむ、手加減した状態でもこのザマとは。 聞いて呆れるな」
「なっ、あれで手加減…!?」
そう、シュメルは手加減してあの技を放ったのだ。
アン王女を始め、光輝達は衝撃を隠しきれなかった。
「そうだ。 魔術師が放った炎も、火の初級魔法だぞ」
門倉という少女を焼き殺した炎も、初級魔法だと知り、さらに衝撃を受ける。
そして、彼らは知ってしまった。
つまり、彼らはシュメル率いる部隊にあしらわれた形なのだ。
「そ、そんな…、そんな…」
「い、いやぁ…、死にたく…ないよぅ…」
衝撃波の射程外の為に、あまりダメージを受けなかった女子生徒達は、恐怖で呑まれてしまった。
ヘナヘナとへたり込み、スカートに染みが現れ、太腿に液体が伝わった。
失禁したのである。
「くっ、て、撤退するわよ!」
アン王女が、回復魔法を掛けつつ、撤退を命じた。
光輝達は、渋々了承しアン王女についていく。
恐怖で失禁した女子生徒達は、他の女子学生に介抱されていた。
それをシュメルは見届けていた。
「追わなくてよろしいので?」
彼の隣にいた竜人の女性がシュメルに告げる。
「追わなくていい。 我々の任務は奴らをここで止めること。 また来たら、同様に対処すればいい」
「分かりました。 では、戦果をイリアゲート様に報告します」
「頼む、ルクレチア」
ルクレチアと呼ばれた竜人の女性は、報告の為に拠点へと引き返した。
シュメルは、そのまま勇者達が撤退した方向をじっと見つめていた。
今回のガルタイト国の魔王討伐部隊の死者は、兵士全て。
そして勇者は、鈴鹿と呼ばれた女子生徒が、あの衝撃波が致命傷となり死亡していたため、死者は2人となった。
このガルタイト国の魔王討伐部隊の惨敗の情報は、ガルタイト国だけでなく、ガイアブルク王国を始めとした魔族と友好関係を結んでいる各国にも伝わる事となる…。
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