32 Sランクの魔物との戦い
バーサークバッファロー。
アイリス曰く、【襲撃型】のSランクの魔物。
本来のSランクの魔物は、ガイアブルク城下町周辺には出現しない。
だが、何があったのか俺達は今、そのSランクの魔物に出くわした。
狩る気満々の目を宿して。
そして、こっちが臨戦態勢に入る前にバーサークバッファローがいきなり突進してきた。
「速い!?」
「がはっ!?」
余りにも速い突進に、ひなたが避けきれずに体当たりを受けてしまった。
その身体は、後ろの方に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「ひなた!? くっ…」
叩きつけられた影響で、意識がないひなたに、俺は鑑定を使う。
これは、指名依頼の後の飲み会の時にエミリーさんから教えられた事だが、人間に集中して使えば、その人の状態が分かるそうだ。
それを元に、ひなたに使ったら、彼女の状態が頭に入ってきた。
気を失っているだけで生きてはいる。
だが、驚くべき事は、彼女は【グレードブースター】を掛けた状態であった事だった。
多分、気配がしたと同時に掛けたのだろう。
だが…。
(グレードブースターを掛けた状態でこれかよ!? なんて威力だよ!!)
もし、彼女がグレードブースターで身体強化してなかったら、あの体当たりだけで粉々にされてたかも知れない。
それを考えてたらゾッとした。
すると、バーサークバッファローは方向転換した。
(まさか…!?)
奴の視線はアイリスに合わせた。
「ひっ…!」
「アイリス!!」
咄嗟に【パワーブースター】と【フィジカルブースター】、さらに【クイック】を掛けてアイリスを守りに動いた。
…いずれも『魔術師』の素質で手にした強化魔法。
奴相手に心許ないが、今はこれしかない。
突進のスピードが速いが、距離的に俺が先にアイリスの元に早く着く。
そして、『格闘家』の素質を解放し、アイリスの前に立ち、バーサークバッファローの突進を真正面から受け止めた。
「うぐっ…!」
流石に衝撃が重い。
だが、何とか受け止める事ができた。
「お、お兄ちゃん…!」
アイリスを見ると、彼女は恐怖で震えたままだった。
無理もない。 突然、狙われたのだから。
そんな彼女に、奴を抑えながらだがなんとか声を掛けた。
「アイリス、早くひなたの元へ行ってポーションを飲ませてくれ!! ひなたはダメージによって気を失ってるだけで生きてる! 俺が奴を抑えているうちに、早く!!」
「う、うん、分かった!」
なんとか持ち直したアイリスは、ひなたの元へ走り出す。
幸い、バーサークバッファローは俺に釘付けなので気付いていない。
それよりも受け止められたことに腹を立てた奴は、より強い力で押しきろうとしてきた。
(暫くは根比べか)
俺もそれに合わせて、『格闘家』の素質をさらに解放する。
「ブモモモモモ!?」
少し押されてる様子に、バーサークバッファローは焦りが見え始める。
人間に力負けしてるのが、信じられないといった様子だ。
そこに俺は『格闘家』の素質を全開にした。
「ぶ、ブモーーーっ!?」
今度は俺が有利になった。
各種強化のバフに加えて、『格闘家』の素質による攻撃力の全開。
元々の能力が高かったのが、今までの経験でさらに高い能力を得ていた。
押されていくバーサークバッファロー。
少しずつ、ズルズルと奴が後ろに押されていくのが分かる。
そうしているうちに、バーサークバッファローの様子に変化が訪れた。
「ブモモっ!?」
突然、何かに刺されたような感じのリアクションを取った。
その直後…。
「でええぇぇぇい!!」
ポーションの力のおかげか、いつの間にか回復したひなたが奴の真後ろで、折れた剣を押し込んできた。
「プギイィィィィ!!!」
バッファローとは思えない…むしろ豚のような悲鳴を上げて、仰け反った。
前足が上がり、お腹の部分が無防備になっている。
「暁斗君、今だよ!!」
ひなたに言われて俺は拳を構えた。
狙うは無防備になっている腹部。
おそらくチャンスは一瞬、失敗は許されない。
「せいっ!!」
狙いすましたように奴の腹部に、正拳突きを叩き込む。
奴の皮膚はかなり固い。 しかし、保険として拳には『気』というものを込めていた。
気の力は『格闘家』の素質を極めた時に会得したものだ。
皮膚に外傷はなくても、気によって内部破壊はできるはずだ。。
「ブボァっっ!!?」
思った通り、気の力で内臓部分に絶大なダメージを負ったバーサークバッファロー。
吐血して、そのまま後ろに倒れていく。
その後、痙攣した後、息を引き取った。
「た、倒せた…か、うぐっ…!!」
「あ、暁斗君!!」
流石に強化魔法を掛け、素質を開放しても受け止めた衝撃だけは防ぐことが出来ず、アバラをやられたみたいだ。
そんな俺の元にひなたが駆け寄る。
「ひなた、無事に回復したんだな」
「うん、アイリスちゃんが飲ませてくれたからね。 それまで意識が飛んでたよ。 はい、ポーション」
「ああ、悪いな」
ひなたから渡されたポーションを飲んで回復した。
痛めたアバラも何事も無かったかのように消えていった。
ポーションすごいな。
「アイリス…」
「お兄ちゃん…倒したんだね?」
回復した俺は、アイリスの元に向かう。
アイリスの方は安堵した感じだが、内心で未だ恐怖に燻られているように感じた。
「ああ、大丈夫だったか?」
「うん、お兄ちゃんがかばってくれたおかげでね。 でも、ひなたお姉ちゃんの回復に安心したら、今までの緊張の糸が切れたせいかおしっこ漏らしちゃってたから別の意味では無事じゃないね」
アイリスがそう言って苦笑いをしていた。
よく見ると、座り込んでいるアイリスの太腿とスカートの一部が濡れていた。
無理はない。 あの恐怖に今まで耐えただけでも褒めてやりたいくらいだ。
そう思いながら俺はアイリスを抱きしめていた。
「お兄ちゃん…」
「一旦、家に転移で戻ろう。 流石に今日は依頼どころじゃないしな」
「うん、ごめんねお兄ちゃん。 えへへ、とても暖かいや」
俺は、アイリスが笑顔を取り戻すまで抱きしめた。
その後、ひとまず転移アイテムでアイリスの家に戻って彼女を留守番させてから、ひなたと一緒に再度転移で現場に行き、バーサークバッファローの角の1本を斬り落とした。
『格闘家』の素質を全開にしたまま剣を振ったので、意外にあっさり斬り落とせた。
その角はかなり材質がよく、本来は固くて重いものなのだろう。
俺とひなたは魔法のカバンで角を収納し、死体は一時的に保存の魔法を掛けてこの場に置いた。
報告後、改めて調べてもらうためだ。
そして、俺達はギルド前に転移し、サラトガさんに今回の件を報告するためにギルドの扉を開いた。
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