23 戦いの後、悩む暁斗
盗賊集団『漆黒』の殲滅に成功し、拠点であるコテージに戻った後、報酬の確認をした。
報酬については、ギルドにて受け渡しするとのことだった。
そして現在、英気を養う意味合いでの飲み会が行われている。
と言っても、酒は用意されておらずお茶かジュース、沢山のお菓子が用意されていた。
カイゼルさん達はドンチャン騒ぎのようだ。
俺はと言うと、外で一人黄昏ていた。
元々、騒がしい場所が苦手なのもあるが、あのスキンヘッドの男の最後の台詞がよぎっており、飲み会どころじゃなかったからだ。
『お、俺を…認めなかった…世界…を…、にく…』
あの男は多分、強い力を有していた。 それこそが全てだと言わんばかりの。
同時にそれがあの男を狂わせた。
強い自分が何故認められないのかと。
そこで、サラトガさんのあの言葉を思い出す。
『元Bランク冒険者は、実力は高いものの素行に問題がありまして、気にくわない内容があると喚き散らし、正論を言った人に対して首を絞め殺したりしていました』
あの男は力に溺れたからこそ、あのような行動に移したのだろう。
只でさえ他より能力が高い俺は、下手したらあの男みたいになっていたんじゃないかと考えてしまうようになった。
「くそっ!!」
苛立ちが隠せなくなる。
割り切るべき所は割り切らないといけないのに、この体たらくだ。
「暁斗君」
名前を呼ばれ振り返ると、そこにひなたがいた。
「ひなた…」
「急にいなくなったから、みんな心配してたよ。 隣いいかな?」
「あ、あぁ…」
ひなたが俺の隣に腰を下ろした。
「あのスキンヘッドの男の最後の台詞が忘れられなかったんだね」
「…」
ひなたの言葉に無言で肯定せざる終えなかった。
今までそれで心が荒れていたんだから。
「みんなの前では明るく振る舞ってたけど、実は私もだよ。 私たちって、他より能力が高いいわばイレギュラーな存在だしね。 勇者の力に溺れたら、私もあの男のようになる可能性だってあっただろうし…」
元々ひなたは、俺と違い周りには明るく振る舞える。
彼女が弱さを見せるのは、大体俺と二人の時だけだ。
「今後、追手と戦う場合は殺るか殺られるかだからね。 最悪の場合、冒険者のモラルと板挟みになりそうで怖いんだよ」
「ひなた…」
気丈に振る舞っていた彼女からは想像もつかない弱音。
俺はそれを聞き、彼女を抱き寄せることしか出来なかった。
そこに…
「そこに関しては心配しなくても大丈夫だよ」
「アイリスちゃん?」
「アイリス…」
アイリスが現れ、大丈夫だと言った。
「お父さんが二人の事情をギルドに伝えていたからね。 ギルドも理解してくれるよ」
「そうなのか?」
「うん。 そもそもBランクになったら実力だけでなく素行もしっかりしないといけないからね。 ギルドや国のイメージにも繋がるし、Aランクへの昇格に必須だから」
アイリスが話した内容に改めて思い出す。
あのスキンヘッドの男は、元Bランクの冒険者だ。
いわば、Bランクまでなら力だけでも、依頼さえこなせば昇格できる。
「じゃあ、あの男は…」
「お父さんから聞いた話だけど、その男は力さえあれば何をしてもいいという自分に都合のいい考え方をしていたんだよ。 冒険者のモラルやギルドのルールを無視してね。 結果、それが問題となって荒れたんだよ」
ご都合主義的な考え方をした男だったわけか。
さらに力に溺れたからああなったわけか。
「お兄ちゃん達が不安なのも分かるよ。 下手したらあの男みたいになるんじゃないかって思ってしまうのも。 だからこそ、私たちで支えあう事も必要だよ。 一人で抱え込みそうなら、遠慮なく私に相談してくれると嬉しいかな」
アイリスがそう言ってくれる。
忘れてたな。 俺は一人じゃない。 ひなたがいたし、この世界ではさらにアイリスがいるんだ。
「ありがとう。 安心したよ」
ひなたも彼女の言葉に安心したようで、笑顔を見せた。
「それじゃ安心したところで、戻ろうか。 みんな来てるから」
「へ?」
アイリスに言われて振り向きと…
「アキト君…いた」
「やっほー、アキト君」
「急にいなくなったから、みんな心配したぞ」
「お前は今回のMVPなんだぞ。 こんな所で黄昏んなよな」
クレアさん、エミリーさん、リックさん、カイゼルさんに声を掛けられた。
みんな俺の心配をしてくれたのか。
「すみません、色々思う所があって…」
「気にすんな! 俺も昔はお前みたいに悩んだ時期があったからな」
「ん…。 悩みは…すぐに…打ち明けるべし」
「はは、気を付けます」
カイゼルさんとクレアさんに挟まれながら、みんなとコテージへと戻った。
改めて行われた飲み会は、いろんな意味で楽しかったと思う。
その後はコテージで一夜を過ごし、翌朝にカイゼルさん達と別れて俺たちはガイアブルクへと転移で戻り、その足でギルドに向かい、報酬を貰ってその日は、ゆっくり休んで過ごした。
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