127 役割分担
「見えて来たか…」
「ああ、確かに安川のクローンホムンクルスが10体いるな。 ザナ王女はその後ろか」
俺達は南地区の門から少し出た場所にて、追手部隊を待ち構えていた。 【鷹の目】で見たところ、兵士型が100、クローンホムンクルスが10、その後ろにザナ王女がいる。
「京終さん達もいいの? 相手は強化された兵士型のホムンクルスも100はいるんだけど…」
「大丈夫よ。 春日部さんがザックさんの嫁となった三人娘を支える側に回ってるんだし、鴫野君と二人で彼女の代用にはなれるはずよ」
「そうなんだよな。 由奈も危険性を理解しているみたいだしな…」
そう言いながら、俺は先ほどの打ち合わせの時の事を思い出していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「瑠奈達が?」
「はい。 私達も湊ちゃんを失った悲しみはありますが、下手に安川に対して憎悪を抱えて向かうのは自殺行為にも等しいですから」
「下手したら、それこそ安川の望んだシナリオかも知れませんしね。 そうなったら七絵ちゃんの負担も大きくなりますしね」
七絵と伸晃以外の後輩が、憎悪を抱えたまま安川のクローンホムンクルスの出現地点の話を聞き、そこへ制止を振り切って向かったと知った時、瑠奈と春菜が足止め役に立候補した理由を語った。 七絵と伸晃以外の後輩達が憎悪を抱えて安川の元に向かうのは自殺行為に等しいみたいだ。 どうも、奴は神経を逆撫でして逆上した所でその隙をついて殺害するつもりなんだろう。 春菜の言葉で俺はそう予測していた。
俺自身も当時の安川のクローンホムンクルスを見た時の後輩達の怒りようは、今でも心配の種であったからだ。 それが現実になる前に止めようというのだ。
「じゃあ、私も手伝うよ」
「由奈先輩?」
「いいのか、由奈?」
「うん、私もあれからの後輩達が少し心配だったからね。 葬儀の時は特に危ない感じだったし。 憎しみを前面に出すのだけは力ずくでも止めないといけないから」
由奈もやはり後輩達が心配だったようだ。 湊の葬儀の時の漂う憎悪を感知したのだろうか? どことなく危ない感じがしていたみたいだ。 一応、俺も当時は国王とエリス王女にそれを諫めるように頼んだが、結果はご覧の通り。
だが、足止めにはまだ人数が足りないかも。
「じゃあ、エミリーとクレアも念のため足止めの手伝いをしてくれるか?」
「了解したよ」
「分かった…」
「それ以外は、南地区の門から出て少し歩いた場所で奴らを待ち構えよう」
「それでいいよ。 私も私情抜きでザナ王女とは落とし前を付けないといけないしね」
三人娘と由奈、エミリーとクレアを後輩達の足止めの役割を担ってもらい、後のメンバーで追手部隊を対処する形で決定した。
ひなたもザナ王女とは決着を付けるつもりだろうが、私情抜きで出来るかは未知数だろうな。
「じゃあ先に南地区へ行ってくる。 後輩達の足止めが終わったら援護に来てくれ」
「うん、そっちも気を付けてね、暁斗君」
由奈に見送られる形で、俺達は転移アイテムで南地区の門の前に転移。 そこで鴫野達やリックさん達と合流し、門を出て少し歩いた平原で奴らが来るのを待った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お兄ちゃん…!」
「ああ、完全に視界に入ったようだな。 戦闘態勢だ」
アイリスから声がかかり、追手部隊が俺達の視界に入ったところで、戦闘態勢を敷いた。
「な、あいつらがいないだと…!?」
「どうなってるんだ!? 俺様たちが来ることが分かれば憎しみを持って攻めてくるはずなのに…!」
「くそっ、こうなればあそこの奴らを先に殺すぞ!」
後輩達がここに居ないことに気付いて、安川のクローンホムンクルス達が慌てながら、矛先を俺達に向けて来た。 どうやら、由奈達は上手く後輩の足止めをしているみたいだな。
俺達も負けていられない。 後ろのザナ王女が何をしているのかは分からないが、今はここで奴らを屠るのみだ。
「やはり先に兵士型から来るか…!」
強化された兵士型ホムンクルスが一気に仕掛けてくる。
だが、俺とひなた、ザックが剣技を駆使してたくさんの兵士を斬っていく。 後ろからシンシアさんやアイリスが【トルネード】や【コキュートス】という超級魔法で同じく兵士を屠っていく。
京終さんや鴫野、そしてリックさんもしっかりフォローしてくれている。 特に京終さんや鴫野は、由奈と同じく槍を使って相手の陣形を崩してくれているおかげで、俺達はかなり戦いやすくなった。
(早い目に終わらせて、安心させないとな)
無事に後輩達の足止めと説得を成功してくれることを祈りながら、俺は兵士型のホムンクルスを切り刻み、途中でアルトとサクラを呼び寄せて共にクローンホムンクルスの元に突撃した。
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