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125 湊の葬儀とクロの今後

 安川のクローンホムンクルスの一体に憑依する形で転生したとされる黒衣の仮面の男ことクロと出会い、対策用のアイテムを用いてひなたの暗殺を阻止できた日から三日経過した。

 ここ、ガイアブルク城下町の北地区にある教会で、湊の葬儀が執り行われていた。 クリストフ国王によって用意された喪服に身を纏って、みんなが黙とうする。


「湊ぉ…、どうして…どうしてなのぉ…!」


「七絵ちゃん…」


 七絵が堰を切ったように泣き崩れる。 隣にいた由奈が彼女を慰めていた。

 他の後輩達も悔しさに歪んだ表情をしたり、湊の遺体が入った棺桶にしがみついて泣き叫ぶ子もいた。


(やり切れないな…)


 俺自身も、湊を失ってから今回の件を知った身だ。 クロに出会わなければ、ひなたも暗殺されていただろうが…、今回は後手に甘んじた結果こうなった。

 ひなたもアイリスも無言ながら、悔しさを滲ませる。 同時に、ガルタイトを支配しつつある安川をまず打倒する決意を改めて固めたようだった。


(…ん?)


 ふと、教会の入り口付近に人影が見えた。 多分、クロだろう。


「…にぃ?」


「もしかして、クロ君がいるの?」


「ああ、ちょっと席を外すよ」


「…くるみもいく」


 俺が胡桃に席を外す旨を伝えると、胡桃もついていくつもりのようだった。 クロの魂が憑依している肉体が安川のクローンホムンクルスだという事を知っている身としては、今回の胡桃の反応は少し心配している。


「胡桃ちゃん? 大丈夫なの?」


「…だいじょぶ」


 ひなたも同じだったようで、胡桃に声を掛ける。 しかし、胡桃は大丈夫と言った。


「なら行こうか。 イリアさんも気付いてるみたいだし」

 

「そうみたいだね。 アイリスちゃん、クリスタちゃん行ってくるよ」


「うん、色々聞いておいてね?」


「皆さま、お気をつけて」


 アイリスとクリスタにこの場を頼み、俺とひなたは、胡桃を連れてクロがいるであろう場所に向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「やはりここに居たか、クロ…」


「中に入らないの?」


「ひなたさん、暁斗さん…それに…」


「くるみもいるよ」


「私、イリアゲートもいますよ…クロさん」


 教会の入り口近くの壁で、葬儀の様子を見守っていたクロに俺達は話しかけた。


「今の肉体でなければそうしますがね…」


「やはり、その肉体がネックか…」


「ええ、やはりオリジナルである安川 凶のクローンホムンクルスの一体というので、躊躇いますよ」


「仮面も…取らないの?」


「ええ。 顔もオリジナルと同じですからね…。 湊さんを失った友達とかに憎悪を向けられますから…」


「そっか…」


 やはり、中に入るのには今の身体がネックだったようだ。

 何せ、湊を暗殺したのも、ひなたを暗殺しようと仕向けたのも皆、安川のクローンホムンクルスだから…その肉体に憑依してしまったクロにも後輩達から憎悪を向けられる可能性が高いのだ。

 仮面もそう。 胡桃からは取らないのかと聞かれたようだが、顔が安川そのものらしいので、やはり見た目で憎悪を向けられるかもしれないとか。


「その事ですが…、魔族の特殊な術を使う事で顔を整形したり、魔力の質を別物に差し替える事ができますよ」


「え…?」


 クロの気持ちを考えると、どうかしてあげたいのだが…と思った所に、イリアさんが提案してきた。


「本当に可能なんですか?」


「はい。 そのためにクロさんには魔族領に来て、暫く滞在していただくことになりますが…」


「どうする、クロ?」


「その提案…乗らせていただきます。 せめて顔くらいは…生まれ変わりたいですから」


 クロもイリアさんの提案を受け入れたようだ。 顔が安川と同じであるせいで、仮面が取れないのだからそういう悩みだけでも解消したいのだろう。


「では、クロさんは葬儀後、私が乗る馬車に一緒に乗ってもらいます。 そのまま魔族領の城で整形や魔力の質を変える処置を行います」


「分かりました」


「そろそろ葬儀も終わるね。 クロ君は先にイリアさんの馬車にて待機した方がいいんじゃない?」


「そうか。 そろそろ出棺の時間か」


「そうですね。 先にそっちに行きます」


「では、私も一緒に馬車の方へ行きます。 クロさんの事は任せてください」

 

「はい、お願いしますイリアさん」


 出棺の時間に差し掛かった時にて、イリアさんはクロと一緒に彼女が乗った馬車のある場所へ向かった。

 そして、多くの人が湊の遺体が入った棺桶を運び、その後に後輩達がついて行くのを俺達は見届けた。 後輩達の今後は分からない。 しばらく心を休めさせるために王城で寝泊まりする事もありえるだろう。


 そんな後輩達の背中を俺達はただ、見続けていた…。



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追放された剣士の冒険譚』もよろしくお願いします。
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