117 緊急依頼~謎の洞穴、現る!~
「ここ二週間は指名依頼がなかったおかげで訓練も捗ったね」
「うん、あの子たちもしっかり強くなってきてるしね。 お兄ちゃんと胡桃ちゃんも順調だったみたいだね」
「ああ、おかげである程度射撃能力が鍛えられた。 次は実戦でやっていくだけだ」
「という事は、暫くの討伐依頼は魔導銃縛りでやっていくんだね?」
「…ん、そのつもり」
あれから二週間が経過した。
今、俺達は訓練の成果などを話し合っていた。
『ガンナー』を鍛えるために射撃訓練をした俺と胡桃は、激しく動く的に対してもほぼ正確に撃ちぬくことができるようになった。
胡桃に至っては、連射ができるようになったのだ。
リボルバータイプの魔導銃を使っているのか、胡桃自身の『ガンナー』の素質なのかは知らないが、連射ができるくらいに撃った後の隙がなくなったのは大きいだろう。
以後は、しばらく魔導銃縛りで各種討伐依頼をこなしていく予定である。
そして、魔法組や近接組もしっかり訓練に対応してきており、レベルアップしていっているらしい。
指名依頼がなかったおかげで訓練をしっかりやれたのが大きい。
そして、今日は実戦を掴むためにギルドへ向かった。
すると…
「ああ! みなさん、待ってましたよ!」
受付嬢のサラトガさんが俺達を待っていたかのように歓喜の声を上げていた。
何か嫌な予感がするな。
「どうしたんですか、サラトガさん? まさか指名依頼ですか?」
気になっていたのは俺だけではなかった。
ひなたも同じくサラトガさんのリアクションが気になり、理由を尋ねていた。
「指名依頼というよりは、ギルド全員の緊急依頼なんですよ」
「緊急依頼?」
由奈が首を傾げた。
アイリスも不思議がっている。
「アイリス、緊急依頼って主にどんなのなんだ?」
「いわゆる『スタンピード』と言われる大多数の魔物の襲撃が主だよ。 でも、ガイアブルクじゃほとんどそういう事はなかったんだけど…」
どうやら、緊急依頼は主に『スタンピード』の為の依頼らしい。
確かにガイアブルクでは、そういう事件には経験していないし、アイリスが言うように滅多にないようだ。
「どんな内容なのですか?」
「実は…、ここガイアブルク城下町周辺に…謎の洞穴が出現したんですよ」
「「「はい…!?」」」
サラトガさんが言った内容に俺達は開いた口が塞がらなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これを見てください」
ギルドの面接室にて、サラトガさんが魔法の地図を用意してくれた。
「これが…?」
「はい、突然現れた洞穴なんです。 どうも内部は完全に洞窟のような構造をしていまして、魔物がうようよいます」
「魔物も?」
「そうです。 ガイアブルクでは見かけない新種の魔物もいるみたいでして、一部の冒険者が敗走して戻ってきた時に聞きました」
マジか…。
洞窟みたいな構造をした洞穴…。
今までのサラトガさんの言い分だと、普通の洞窟には魔物は住み着かないという事なのだろう。
今回の洞穴は、魔物が住み着いている…ということは?
「今回の件は、国王様曰く、誰かが禁術を使って作られたのではないかと推測しています」
「…俺もそれの可能性を考えていました」
クリストフ国王も同じ予感を抱えていたか。
今まで出現していなかったものが突然出現したというのもそれを裏付けている。
「国王様の命により、以後はこれを『ダンジョン』と呼ばせていただきますが…。 暁斗さん達もその『ダンジョン』に入って欲しいのです」
やはり来たか。
だが、今回は『ダンジョン』という由々しき事態であるために俺達だけでなく他の冒険者にも依頼されている内容だ。
それにすでに入っている冒険者がいる。
これに関しては看過できないだろう。
俺は、アイリスに目配せし、彼女も俺の意図を知ったのか頷いてくれた。
「分かりました。 それで、私達はどこの『ダンジョン』に入ればいいですか?」
「暁斗さんやアイリスさん達は、南地区の門から南西にある洞穴に入ってください。 今までで分かっているのはすでに調査の為に冒険者が入ってくれたダンジョンはすべて四階層だったそうです」
「という事は、俺達が向かう『ダンジョン』も四階層の可能性が高いか…」
「魔物の強さが未知数だけど、見過ごせないよね」
「うん。 その魔物がガイアブルクに襲撃する可能性もあるし」
ひなたや由奈も同意見らしい。
となれば、早く向かったほうがいいかもしれないな。
「では、準備が終わり次第向かいます」
「すみません、お願いします。 気を付けてくださいね」
サラトガさんに見送られて一度、自宅へと戻っていく。
装備や道具、ダンジョンで使えそうなコテージなどを用意しておかないと。
そして、『ダンジョン』という未知の場所なので、アルト達メイジフォックスウルフの家族も連れて行く事にした。
「すまないけど、アルト達の力を貸してくれ」
『承知した。 未知の場所故、我らも行った方がいいだろうな』
『ええ。 流石に看過できませんからね』
アルト達も同行してくれることにホッとした俺達は、トイレの準備を終えて南地区の門へと目指した。
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