114 水の精霊ルサルカ(前編)
『ルサルカ』…。
それが目前の少女の…水の精霊の名前。
彼女は何故か、俺達が来るのを待っていたみたいだったが…?
「俺達が来るのを知っていたのですか?」
気にはなったので、俺は精霊ルサルカに俺達の事を知っていたのかを訪ねた。
「はい。 草花の精霊のスプライトが多くの草花に話しかけて得た情報で教えてくれましたから。 あなたたちの事を」
「俺や胡桃、そして由奈が別の世界から召喚された人間である事も?」
「ええ、それに関してもスプライトからの情報で知りました。 その中の二人が『サモナー』の素質も持っている事も含めて…」
どうやら、彼女は友達の精霊で、草花を司る『スプライト』という精霊から色々と教えてもらったそうだ。
そのスプライトという精霊が、草花に話しかける事で俺達の存在を知り、それを精霊ルサルカに流していたらしい。
「それで、待っていたというのは…?」
「『サモナー』の素質を持つあなた達の…えっと…」
「あ、佐々木 暁斗と言います」
「胡桃…。 来宮 胡桃…」
「これはどうも。 それで、話を戻しますが暁斗様と胡桃様の力を貸していただきたいのです」
水の精霊であるルサルカが俺達に力を貸して欲しいと願い出た。
確かにエミリーが言ってたように『サモナー』の素質の力を介してなら一時的に精霊の力を本来の力に戻せるが。
「ですが、俺はまだ『サモナー』を極めていませんし、召喚できる存在も今はいません」
そう。
他のジョブの素質にかまけて、『サモナー』の素質に関してはノータッチだった。
今回の理由は胡桃の強化が目的だったのだから。
「大丈夫ですよ。 今までに他のジョブを極めた暁斗様なら、『サモナー』の素質の力を引き出せますから」
「…マジですか?」
「はい。 これは暁斗様がこの世界に存在する全てのジョブの素質を持っているからこその芸当ですから」
後ろで聞いてた由奈とエミリーも驚いていたようだ。
どうやら、他の極めたジョブの力を借りれば『サモナー』の素質の力を引き出せるらしい。
ただ、この世界に存在する全てのジョブの素質を持っている俺だけが許される芸当らしいのがまた…。
「胡桃様は…強力な幻獣を召喚できますからそれを使えばいいですよ」
「ん…」
「それで具体的には何をすれば?」
「それぞれが私の肩に手を触れ力を流して欲しいのです。 そうすればその間だけ本来の力に戻せます。 その力で消えた精霊結界を展開します」
今の精霊の状態では、結界の展開に俺達『サモナー』の素質を持つ者の力が必要だったわけだ。
確かに、森の中には植物系の魔物が頻繁に現れたのだからな。
もし、結界が展開されれば、その魔物も消え去れる可能性がある。
「分かりました、やりましょう。 由奈、胡桃を抱えてくれ」
「うん、了解したよ」
俺の意図を理解してくれた由奈が、胡桃を抱える。
そして、そのままルサルカの背後に近づき、俺は左肩に、そして由奈に抱えられた胡桃は右肩に手を添える。
「むんっ!」
「ん…!」
そのまま、俺と胡桃が『サモナー』の素質を解放してルサルカに魔力を注ぎ込む。
すると、ルサルカの身体が光りだした。
「来ました、来ました! このクラスの力なら…本来の精霊結界が放てます!」
そう言いながら、ルサルカは俺達が注ぎ込んだ魔力を自身の両手に集約させた。
強大な魔力が彼女の両手に集まった格好だ。
そして、その両手を上げてルサルカは叫んだ。
「極大・精霊結界!!」
直後、俺達が注ぎ、ルサルカの両手に集まった魔力が広範囲に展開されていく。
結界が展開された先で、魔物の悲鳴が聞こえる。
どうやら、結界の力で魔物が消滅したとみて間違いないだろう。
それだけ本来の精霊結界は、強力なんだってことだろうな。
展開中、水色のように彩られた結界は完全に展開が完了した時には消えていた。
「見えなくなっただけで、結界は展開してますよ。 これで魔物も近づけなくなりますし、結界の中にいた魔物は消滅しましたね」
「そうなのですか?」
「はい。 それに二人からいただいた力のおかげで本来以上の威力を持った結界が展開できました。 どうもありがとうございます」
「いえ…、あんなに強い結界だとは思いませんでしたが…」
「でも、これで…精霊さんは…住みやすくなった…」
「胡桃様の言うように、これで私も住みやすくなりました。 今まで魔物に苦しめられていたのが嘘のように」
ルサルカは興奮しながら、感謝の意を述べていた。
俺達はこれくらいしか精霊に貢献できないだろうからな。
役に立てて何よりだ。
「そうだ! 皆様にお礼がしたいので、私の家に来ませんか?」
「え…?」
そして、俺達はルサルカにお礼がしたいという理由で彼女の家に誘われた。
まぁ、彼女自身がお礼をしたいのだから断る事はしない。
俺的には、道中の森の荒れた理由も知りたいし…。
俺が由奈とエミリーに目配せすると、二人は頷いてくれた。
OKのサインだったので、正式に彼女のお礼を受け取ることにしたのだ。
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