08 到着、そして能力判定
ウェアラットとの戦闘があったが、あれ以降他の魔物と遭遇することはなかった。
気配察知を使てみても、何も気配は感じなかった。
あれからおよそ1時間かけて歩くとようやく城壁らしきものが見えてきた。
もしかしてあれがそうなのだろうか。
「見えて来たね。 あれが私の生まれた場所、ガイアブルク城下町だよ。 ガイアブルク王国の首都でもあるんだよ」
「ああ、ようやく着いたのか。 1時間歩くだけでヘトヘトだよ…」
「私もだね。 いくら勇者の素質があるって言っても身体強化なしじゃこんなもんだよ」
「あはは…、そこは後でお父さんに相談してみるよ。 さぁ、もうすぐ入り口だよ」
そんなやり取りをしながら入り口に向かうと、二人の兵士が俺たちを認識したところで敬礼した。
「お疲れ様です、アイリス様。 そして、暁斗様とひなた様、ようこそガイアブルクへ。 あなた方の事は国王様からうかがっております」
「わざわざどうも、すみません」
「お父さんは何処に?」
「西地区の別荘にてお待ちしております。 そこへ我々も同行ならびに案内します」
クリストフ国王は、今は西地区にいるのか。
しかし、何故王城じゃないのか?
そんな疑問にアイリスちゃんは答えてくれた。
「お父さんの別荘のもう一つの顔は南西地区の役所なんだよ。ここは南地区の出入り口だから、王城や王城近くの役所へ行くには遠いんだよ」
「ああ、だからわざわざ西地区の別荘に…。 じゃあ、他の地区へいくにはどうやって? 歩きじゃ遠いんだろ?」
「町内馬車の定期便があるから、それを利用しているよ。 日中は1時間に4便あるから利用に不便は感じないよ」
なるべく全ての国民に不便を感じさせないように工夫をしているって事か。
つまり、俺たちの国民登録もそこで手早く済まそうという事か。
「着きました。 あちらの別荘に国王様がおられます」
「これが別荘…、流石に役所としての役割も担ってるとあって大きいね」
兵士たちに先導され、たどり着いた先の別荘は、俺たちが住んでいた世界の市役所クラスの大きさとなっている。
それを見たひなたがそんな造りを賞賛していたくらいだ。
こういった別荘を持てるのはこの国の王族だからだろうな。 ガルタイト国には、そういったイメージが湧いてこない。
「それじゃ、中に入ってお父さんに会いに行くよ」
そう言って、アイリスちゃんが扉を開けて中に入っていった。
「ま、待ってよアイリスちゃん」
その後、慌ててひなたが中に入り、俺もその後に続いて中に入った。
入った先には、約30歳代の若い男性が待っていた。
「お父さん、お待たせー」
「おお、アイリス、よく戻ってきたな。 ご苦労だった」
この若い男性が、アイリスちゃんのお父さんでガイアブルク王国の国王である、クリストフ・ガイアブルク三世なのだろう。
よく見てみると、王族がよく着こなしていそうなスーツを着用していた。
あのスーツ、高いんだろうなぁ。
「二人とこうして顔を合わせるのは初めてだね。 改めて、私が国王で、アイリスの父であるクリストフ・ガイアブルク三世だよ」(〜とは 〜のは 不自然)
「改めまして、佐々木 暁斗です」
「葛野 ひなたです。 よろしくお願いします」
「さて、君たちの国民登録を完了させるために、同意のサインをもらいたい。 あそこにペンがあるからそれでこの書類に名前を書いてくれるだけでいい」
そう言って、すでに処理を終えた国民登録票を俺たちに渡してきた。
この書類にサインをして国王に渡せば、晴れてガイアブルク王国の国民になるわけだ。
俺たちはサインをして、それを国王に手渡した。
「これで君たちはわが国の国民となった。 今後ともよろしく頼むよ。 さて、次の手続きだが、先に暁斗くんの能力を調べようか」
そう言って、国王は緑色の水晶玉を持ち出してきた。
「娘からの報告で、Dランクとはいえウェアラットを拳で木っ端みじんにしたというじゃないか。 本来ならギルドに登録するときに調査をするのだが、今回は先にこっちで能力を調べようと思ったのだよ」
「それじゃ、この水晶玉で暁斗君の細かい能力が分かるんですね?」
「その通りだよ、ひなたくん。 では、暁斗君。 この水晶玉に手を添えてくれ」
クリストフ国王に促されるまま、俺は水晶に手を置いた。
あの時を思い出して、やや躊躇った感があるが、ここは思いきっていこうと思ったのだ。
すると…
「うわっ!!?」
手に触れた瞬間、強烈な光が水晶から発生した。
「こ、この強烈な光は…これがお兄ちゃんの潜在的な力なの!?」
「ま、眩しい…!!」
アイリスちゃんは今まで見たことのない強烈な光に驚き、ひなたはあまりの眩しさで目を閉じていた。
しばらくすると光が収まり…水晶から何かの紙が出てきた。
クリストフ国王がそれを見ると…
「これはすごい…。 確かに暁斗くんからは勇者の素質はないが、その代わりに…」
その先のセリフを一度、唾を飲み込んでからこう言ってきた。
「身体能力が他の者よりワンランク高く、しかも勇者以外のすべてのジョブの素質を持っている」
…と。
「はい…?」
今回の余りにもおかしい結果を聞いて、開いた口が塞がらなかった。
それは下手したら、チートクラスの能力ともいえる結果だったから…。