105 安川 凶にまつわる事実
「そういえば、さっき暁斗君が『やはりか』って言ってたよね」
「ああ、違和感がありすぎてもしやと思ったのと…」
「私が兄に頼まれて茂みに向かった先にも安川の姿をした人物が隠れてました」
ひなたが、先ほど俺が『やはりか』と言っていた事が気になったらしいので、安川との戦闘中に違和感を感じていた事と、シンシアさんはザックに頼まれて茂みの方に行った時に別の安川が隠れてた事を報告した。
「茂みにも安川が…」
「だからお兄ちゃん達は二人が言っていた内容を聞いた後でも驚かなかったんだね」
シンシアさんが言っていた内容に由奈が驚きを隠せないが、アイリスは俺達が事実を知っても冷静な理由が分かったのか納得した。
「多分、茂みの中の安川は俺達が失敗したときに処分するための仕込み役だろう」
「ええ、その証拠にその安川から『吹き矢』を回収しました」
そう言って、シンシアさんは回収した『吹き矢』を見せる。
一見、ただの棒なのだろうが、よく見ると筒状になっており、空洞部分は細かい仕込みがなされていたようだ。
「そして、この『吹き矢』から出てくる針は『トリカブト』と呼ばれる致死性の毒が仕込められてました」
「『トリカブト』…、この世界にもあったのか」
「私もびっくりしたわ。 何せトリカブトはこの世界ではガルタイトで作られているから…」
シンシアさんのさらなる説明に、みんなが…正確には京終さんと鴫野以外は驚いていた。
何せ、あのドラマの殺人事件でも使われている『トリカブト』がこの世界にも存在していたのだから。
しかも、それがガルタイトで栽培されていたという事実にも驚いた。
「どうも私達が召喚される前から栽培していたみたいよ。 それを安川が見つけて宰相と国王を取り込んだみたい」
「そうなの?」
「ああ。 安川はどうも支配欲が強いみたいでな。 ガルタイトの面子はお気に入りだったらしい」
召喚される前から栽培していたのかよ…。
そして、そのトリカブトの栽培室か何かを城内かどこかで安川は見つけたのか。
それをダシにして、国王と宰相を動かしているのだろう。
奴からしたら、動かしやすい国王と宰相はお気に入りらしいから。
「という事は…?」
「その通りだよ、佐々木。 本物の安川は未だガルタイト城内にいる。 そして今のガルタイトは、安川の支配下にある」
「マジか…!」
鴫野から語られた衝撃的な内容。
それは、安川は未だにガルタイトの城内におり、しかもガルタイトは安川によって支配されているという内容だった。
「安川が今のガルタイトを支配って…」
「そういえば、七絵ちゃん達から安川が政治家の息子でかつ支配欲が強いって言っていたのを思い出した…」
「言われてみれば…」
クリスタも由奈も当時の七絵から安川の事を聞いていた事を思い出したそうだ。
確かに奴なら、自分の支配欲を満たすためなら手段を選ばないだろうからな。
「という事は、ガルタイトを何とかするには…?」
「ええ、安川を倒してから国王たちを倒すことになるわね」
ガルタイト国を何とかするための壁が安川なのだろう。
先ほどの仕込みからして厄介な相手が壁として立ちはだかってくれたものだ。
「あ、もう一つ聞きたい事があるんだけど」
「何だい? 葛野さん」
「二人の安川がホムンクルスだとすれば、どうして安川はその禁術を使えるの?」
「いいえ、安川自体が使えるわけじゃないわ。 国王にその禁術を発動させた所に安川の血を注いでいるの。 いわば今のホムンクルスを生み出す役を安川が担ってるだけなの」
そういう事か。
京終さんが言うには、発動権限はあくまで国王であるヘイト・ゾア・ガルタイト。 だが、発動後の血の投入やイメージ投影はその限りじゃないわけだ。
だから、国王に発動させた後で、安川が自分の血を使うことが可能だったわけだ。
「じゃあ、あの安川を模したホムンクルスは…」
「禁術でホムンクルスを作るにはイメージも必要みたい。 安川は自分自身をイメージしながら血を注いだのかも知れないわね」
「…だからか」
これでようやく納得がいった。
あの二人の安川も、本物の安川が自信をイメージしながら血を入れたのだ。
だから、あたかも本物のように見えたのだ。
「色々納得がいったところで、お前らをどうするかだな。 一応、解呪も成功はしているが」
そう次の課題は、鴫野と京終さんの今後だ。
一応、俺は二人に聞いたのだ。
だが、彼らはすでに考えていたようで、俺達にこう言ってきた。
「俺達は、『捕虜』という形でガイアブルクに連行するようにしてくれ」
「それでいいの?」
鴫野の提案に、アイリスは不安そうに二人を見る。
「ええ、私達で決めたことよ。 佐々木君に関する罪も背負い続けないとだめだしね」
「それに事情聴取であらためてさっきの内容を伝えたいと思っている。 なんだかんだで一度刃を向けた身でもあるしな」
「お前ら…こういった事では全くの大馬鹿野郎だよ…」
「うーん、アイリスちゃん。 念のために報告してくれる?」
「そうだね、ひなたお姉ちゃん。 こっちからも連絡してみるよ」
アイリスが連絡用の水晶玉で国王に連絡を入れた。
今回の件の事情を色々話しているようだ。
しばらくすると光が消える。 通信が終わったようだ。
「ひとまず、王城に来てくれだって。 ただ、ひとまず客人として入れるようにと言われたよ」
「そうか、それなら多少重荷にならなくて済むな」
「…いいのか?」
「二人は元々乗り気じゃなかったんだし、情報も教えてもらった礼もあるしね」
「国王様からそう言われたのならそうしましょう。 案内、お願いできるかしら」
「うん、案内するよ」
二人を客人として王城に案内させることに決まったので俺達は少し安堵した。
アイリスも二人の案内役に乗り気のようだしね。
「じゃあ俺達は、先に宿に行ってくるよ」
「ああ、会議でヘキサ公国の今後をどうするか決めなきゃいけないしな」
「ええ、事が終わったことを見届けた事で、クロウ中佐様が先に予定の宿に予約を入れに行きましたからね。 連絡も来たのでそこに行きます」
「じゃあ、明日以降会いましょうか」
「はい、ではまた」
俺達はシンシアさんやザックと別れて、鴫野と京終さんを連れて王城へと連れて行った。
王城はあまり知らないので、アイリスによる案内でだけど。
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