103 新たなる追手との戦い その2
(Side ひなた)
「佐々木君を安川の元に行かせたのね…。 現状、それが妥当でしょうね」
「…知ってて見逃したの?」
私はあの件…暁斗君が『無能』判定された時に、周囲の威圧に屈したという罪を背負い続けているクラス委員長、京終 瑠美奈さんと鴫野 康太君と対峙していた。
と言っても、未だに乗り気じゃないのを暁斗君が気付き、時間を稼いでくれと言ってはいた。
「ああ…。 今のあいつなら、今の安川を倒すことなど造作ないだろうからな」
「今の…?」
私達は違和感を感じた。
鴫野君は、『今の安川』と言った。
それってどういう事?
まるであそこにいる安川が本物じゃないって言うの!?
「葛野さんが感じた違和感通りなんだけど…、今、あの安川が生存してる内は戦うしかないわ」
「ああ、ひとまず全力で行かせてもらう」
「やるしかないか…」
「うん…、アイリスちゃんもいい?」
「いいよ。 今はやるしかないしね」
私達は臨戦態勢に入った。
安川の仕込みがいつ発動するか分からない以上、戦いという茶番に付き合うしかない。
「はぁっ!!」
「…っ、魔法で弓矢を作った!?」
最初に仕掛けたのは由奈ちゃん。
魔法で作り上げた弓矢を瞬時に放ち、京終さんの足を止めた。
「【エレクトリッガー】!」
「くっ…!」
その背後でアイリスちゃんが電撃の魔法【エレクトリッガー】で二人を攻撃する。
即座に二人は防御するけど、高い魔力で【エレクトリッガー】を放ったから、流石に防ぎきれていないようだ。
「やるな…! せいっ!!」
「うっ、そっちこそ…!!」
鴫野君が即座に剣で反撃をした。
横に払うような斬撃を私はかろうじて剣で防御した。
ギィンという金属の音が耳に響く。
「春日部さん…、槍の腕前も高いのね…!」
「そっちこそ…っ!!」
由奈ちゃんは、京終さんのレイピアの攻撃を槍でいなしつつ、刺突や横薙ぎを繰り出している。
やはり、向こうも他の勇者と比べたらそこそこ強い。
向こうも技を使ってこないから、現状探りあいでしかない。
「【エアカッター】!」
「う、おおっ…!?」
「きゃあっ!」
そんな中で、アイリスちゃんは【エアカッター】で二人を切り刻んだ。
これも咄嗟に防御したので、ダメージはそこそこだった。
服はそうでもなかったけど…。
特に京終さんは、スカートが裂かれているから下着が見えそうなんだけど…。
「後ろの子、厄介だな。 かといって結界を同時に展開してるから、結局攻撃できないんだがな」
「攻撃と同時に結界も展開するなんて、【二重詠唱】持ちかしら…」
「「アイリスちゃん、そんな事出来たの!?」」
「って、春日部さんも葛野さんも知らなかったの!?」
「いやー、えへへ…」
私達も初めて知ったよ。
アイリスちゃんが攻撃と同時に結界も張ってたなんて…。
『魔術師』の素質を極めたから出来る感じなのかな…。
「あっ…!」
「そうこうしていたら、あの安川が倒れたか。 どうも獣人の少女が別の所に行ってるみたいだが…」
アイリスちゃんの仕込みに驚いているうちに、暁斗君と友人のザック君が安川とその取り巻きを倒していたみたいだ。
鴫野君が言うように、シンシアさんが別の所に行ったみたい。
もしや、何かあるのかな?
「安川の別の仕込みに気付いたのね。 これで安心して事実を話すことが出来るわ」
「事実…? それって安川の?」
「ああ、そうだ」
京終さんがレイピアをしまって、話し合いの状態になった。
鴫野君も一緒に、安川に関する事を話すことが出来るらしい。
「でも、二人とも【時限爆弾】の呪いに掛かってなかった? 暁斗君に解呪してもらうまで待った方が…」
「その通りよ。 確かに佐々木君に解呪してもらうまで待つべきだけど、先にあなた達に知ってもらいたいことがあるの」
「どういう事?」
由奈ちゃんは不満そうに聞いてくる。
二人は安川の事に関して、早急に知ってもらいたいっていう事なのだろうか?
私が暁斗君の方に視線をやると、曇った表情をしていた。
安川を倒したのに、安心するどころか後輩達に諭している風にすら見受けられる。
まだ終わっていないと…。
「お兄ちゃんの表情…、そして舞い上がる七絵ちゃん達を諭す様子からして…」
「まさか…?」
アイリスちゃんも私と同じ方角を見ており、そこで何かを察したみたい。
由奈ちゃんもそれに気付き、顔を青ざめる。
そして私も…嫌な予感に冷や汗が止まらない。
そこで、京終さんは口を開いた。
「私達と一緒にここに来た安川は、安川を模したホムンクルスなのよ」
という聞いた私達が青ざめる程の衝撃的な内容を…。
「やはりか…」
それと同時に暁斗君とザック君、そしてシンシアさんがこっちに来た。
向こうの用事も終わったみたいで、暁斗君は二人を解呪しながら話を聞くことにした。
よろしければ、評価(【★★★★★】のところ)か、ブックマークをお願いします。