100 解呪と呪いの代償
305号室に入った俺は、未だに昏睡状態のカイゼルさんと対面した。
「カイゼルさん…」
声を掛けても反応はない。
だが、呼吸はしているので生きてはいる。
彼の『重戦士』特有の力と体力に加え、定期的にリリアさんが回復魔法を掛けていたこともあってか呪いによる体力の弱体化はない。
「【カースリサーチ】…」
俺はまずカイゼルさんの身体に触れて、【カースリサーチ】を使った。
昏睡状態が長いため、睡眠の呪いだろうとは思うが、念のためだ。
「ん…?」
「お兄ちゃん?」
心配そうに俺を見るアイリス。
だが、リサーチしていくにつれ、俺は段々と怒りが抑えられなくなる。
「カイゼルさん…複数の呪いが掛かってる」
「えっ!?」
そしてたまらずつぶやいた俺の言葉にアイリスが驚く。
横で聞いたエミリーさんがおそるおそる聞いてきた。
「何の呪いが…?」
「一つは確実に『睡眠』の呪いです。 それに加えてあと二つ呪いが掛かっています」
「あと二つは…どんな呪いなの…?」
「『人形化』の呪いと『記憶障害』の呪いです。 特に記憶障害の方は解呪できても、解呪するまでの記憶が消えてしまうので、俺達の事は全く知らない状態になるという後遺症が残ります」
「う、うそ…」
「なんだと…!?」
「そんな…、カイゼルさんの記憶から私たちの思い出も消えてしまうなんて…」
エミリーさんはショックを受けていた。
そして、横で聞いていたリックさんとリリアさんもショックを受けている。
そりゃそうだ。 今まで一緒に冒険者をやっていた仲であるため、呪いによってその思い出も失われるというのだから。
「あと、人形化の呪いの影響も捨てきれません。 解呪してもしばらく寝たきりでしょう…」
「お兄ちゃん…」
俺の手をギュっと握ったまま、心配そうに見上げるアイリス。
それだけ俺の内心の怒りは収まらないレベルなのだろう。
あいつらは悪魔化した上で死んでも尚、怨念を燻らせているわけだ。
本当に…本当にやってくれたよ…!
「代償はかなり辛いですが…解呪しておきます。 いいですか?」
「…ああ、頼む」
「記憶を無くしてもカイゼルさんはカイゼルさんですから…。 私からもお願いします」
「ボクもお願いするよ。 駆け出しだったボクを導いてくれたのはあの人だし…」
「私も。 思い出なら…もう一度作り直す事でなんとかなるから」
「分かりました。 じゃあ、始めます」
リックさん、リリアさん、エミリーさん、クレアさんの同意を得て俺はようやく解呪に移る。
魔力を注ぎ、カイゼルさんの身体に手を添える。
「【カースディスペル】」
解呪のスキルを発動すると、彼の身体から三つのモヤモヤが出ていく。
黄色のが睡眠、茶色のは人形化、灰色なのは記憶障害の奴だろう。
それらはカイゼルさんの身体から出し切って、上へ上った後で四散して消滅した。
一応、解呪は完了した。
「終わりました…。 うぐっ…!!」
「お兄ちゃん!!」
「暁斗君…!」
一度に三つも同時に解呪をするのは初めてだったからか、急に頭痛と怠さが訪れ倒れそうになった。
由奈とアイリスが支えてくれたのは有り難いが…。
「にぃ…」
「大丈夫だ。 疲れが出て来ただけさ」
心配そうに見る胡桃。
大丈夫だと彼女の頭を撫でる。
「一度に三つの呪いを同時解呪をするなんて無茶するからだよ」
「悪い、冷静に進められなかったな」
無茶をしたことをアイリスに諫められる。
俺自身も感情をコントロールできなかった結果、この無茶をやらかしたのだから反論はしない。
「解呪は成功しましたが…、カイゼルさんは『人形化』の影響でしばらくは寝たきり、思った以上に『睡眠』による昏睡状態が長かったのもあってしばらくは目覚めないでしょう…」
「そうか…」
リックさんは悟ったように頷いた。
「記憶の方も?」
「ええ、今のカイゼルさんは俺達の事は一切記憶にない…。 いわば初対面の状態になっていますね」
「…そうですか」
リリアさんも一応、理解はしてくれたようだが…。
悪魔化したあいつらから受けた呪いが強力過ぎたがために、解呪をしても代償が大きくのしかかった結果だった。
「ありがとうございます、暁斗さん。 代償があったとはいえ、流石は暁斗さんです」
「ボクも今のでますます好きになっちゃったよ」
「私も。 エミリーの件も含めて好感度アップ」
「あ、あはは…」
リリアさんからのお礼を言われたと同時にエミリーさんとクレアさんが何故か告白をしてきた。
彼女達はヘキサ公国出身なのだが、今後どうなるだろうか?
もし、許されるなら彼女達もガイアブルクに移住を勧めたいんだけど…。
この後、ガイアブルクでクリストフ国王との相談があるみたいだし、それ次第だろうな。
ともかく、代償が大きかったが何とかカイゼルさんの解呪は完了した。
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