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僕と窓の騒動

作者: 林檎

 僕はどこにでもあるようなマンションに住んでいる、どこにでもいるような男だ。

 取り立てて何かができるわけでもないし、頭が良いわけでもない。容姿もまあ普通だ。でもちゃんと仕事をして自分で生活しているし、両親や友人に迷惑をかけて生きているつもりはない。こんな世の中だが、自活して社会の一部になっているのだ。それだけでも十分であろう。



 社会人になったのをきっかけに、ここへ引っ越してきた。築30年と年数は結構経っていて、部屋は細かいところはそりゃ古いがおおむね綺麗だ。大家さんは引っ越したばかりの僕にこの地域の催しやお祭りのことを教えてくれるような優しい人だ。隣人はうるさくないし、家族で住んでる人が多くて変な人には今のところ会っていない。毎週日曜日には正面玄関や廊下を掃除してくれるおばさんがやってくるし、会えばいつもにこにこ挨拶してくれる。僕もにこにこ挨拶を返す。だから、このマンションのことは気に入っている。



 気に入らないところといえば、この日当たりの悪さだ。なんでかというと、目の前に同じくらいの階数のマンションが建っているから。どんなに天気が良くても、わざわざベランダに出て端っこのほうに行って身を乗り出さなければ太陽の光を浴びることはできない。でもなぜか洗濯物はよく乾くから不思議だ。いつになるかわからないが次引っ越すときは絶対に日当たりの良い場所にしようと思う。



 ある休みの日。

 カーテンも窓も開けっぱなしにして、リビングの大きな自慢のテレビでゲームをしていると、向かいの忌々しいマンションの廊下を歩く人が見えた。こっちがゲームをしているところなどあちらからも丸見えであろう。でも気にしたら負けだ。なんと言っても今日は久々の休日だ。僕のこの最高のリラックスタイムを何者にも邪魔させてはいけない。


 でもやっぱりなんとなくどんな人が歩いているのか気になって、横目で見てみた。女の人だ。ボブカットというのだろうか、短いさらさらの髪を最近暖かくなり始めた春風になびかせて、右手にはスーパーの大きな袋を下げ、肩には小さなショルダーバックをかけていた。ちょうどこの季節に似合うグレーのトレンチコートを羽織っていて、耳には大きめのイヤリングがついている、気がする。そこまでは見えなかったが、たぶんついていた。そう、ここまで詳細に彼女を瞬時に観察した時点で、僕は彼女を好きになっていたと言うべきだろう。無論、この時点では自分でも気づいていなかったわけだが。



 平日は朝7時に家を出て8時半から仕事、夜6時には終わって会社を出る。特に用事がなければそのまま直帰し家で簡単な食事を作る。そして温かいお風呂に浸かり、ああ幸せってこういうことか、と噛みしめるのがだいたいの一日の流れだ。まあまあ美味しい食事がとれて温かいお風呂とベッドがある、幸せなどこんなものだろう。このサイクルの中で、夜9時頃になるとベランダに出て、夜風に当たり、いろいろ考え事をするのが日課となっていた。

 


 ふと、この間の休日に見かけた女性のことを思い出し、向かいのマンションの、その女性が入っていった部屋の窓を見つめた。カーテンの隙間から、部屋の灯りが漏れている。

―――今彼女は何をしているのだろうか。

料理を作っているのか、テレビを見ているのか。はたまた本を読んでいるのか、電話をしているのか。

 それにしても、綺麗な人だった。



 毎晩、彼女の部屋の窓を見るようになった。自分のやってることはストーカーじみていると思ったが、窓を見ているだけで中の様子はみてないし、だいたいストーカーというのはその人を付け回したり、迷惑のかかるような行為をすることであって、僕は断じてそんなことはしていない。一度見たことがあるだけで、彼女の名前も知らないのだ。街角ですれ違ったとしても、すぐに気づくことができるかどうかもわからない。たぶん。

 僕の日常の中の小さな幸せの一つなのだ。彼女の生活、夜の時間のささやかな幸せを願うことが。



 そんな平凡な(?)日々がこれからしばらく続いていくはずだった。



 転機となったのは、早歩きすると汗ばむくらいに気温が上がってきた、初夏のある蒸し暑い夜だった。

 寝る前にベランダに出るのは習慣なので、彼女の窓を見る日がほとんどだった。



 その日は友人と食事をして帰ったので、ベランダに出たのは夜11時頃だった。たいていこの時間帯は彼女の窓の灯りは消えていることが多く、この日も案の定灯りは消えていた。

 もう寝ているのだろう。いつものように自分の部屋に戻ろうとしたその時、彼女の窓の灯りが点いた。そして、窓ががらっと開かれた。僕は心底びっくりしてほとんど文字通り飛び上がって部屋に飛び込んだ。なんだなんだ、ついに僕がここ3か月くらい毎日窓に熱い視線を送っているのがばれたのか?窓越しにでも人の視線ってわかるものなのか?彼女はその正体を突き止めるために作戦を立てていたのか?それがどんな作戦かは知らないが、これって僕、犯罪になるのか?

 驚きのあまりいろんな考えが瞬時に頭をよぎったが、部屋に飛び込んだ後も身を縮みこませて、彼女の窓を盗み見た。彼女は、窓から外を見ている。どうやら目線は僕のほうではない方向にあるようだ。だんだん冷静になってきた。僕は彼女の行動を観察した。

 彼女は僕と彼女のマンションを挟む歩道を見ているようだった。薄い水色のパジャマを着て、髪は今まで寝ていたのか、うねうねと寝ぐせがついていた。きょろきょろ見回しながら、実に不安そうな目をしている。様子がおかしい。何かを探しているようだ。しかし諦めたようで、窓を閉め、カーテンを閉め、ついには灯りが消えてしまった。



 僕は考えた。彼女が探していたもの。

 この状況から考えて、まず思い当たるのはストーカーだろう(僕は断じて違うわけだが)。もしくは彼女が何か犯罪にあたるような後ろめたいことをしていて、警察に尾行されているとか、そんな類だ。とにかく、誰か人を探している。いったいそれは誰なのだろうか。

 気になる。非常に、気になる。



 僕は、彼女の窓をよく見るようになった。彼女は何か危機的状況にあるのだ。それは間違いない。ただ窓を毎日見るだけでこんなことがわかるなんて、初めての発見だ。でも、窓は、それ以上のことを語らなかった。

 まあ僕も暇ではない。仕事をしているし、友人も数人いる。毎日直帰するわけではないし、休日もいつも家にいるわけではない。だから窓を見るのにも限界があった。僕には窓を見る以外、彼女のことを知る方法はないのだ。これ以上何もできなかった。というか、これ以上見ず知らずの女性に何かするのはそれこそ犯罪だろう。そこまでの勇気はなかったし、犯罪者になりたくはなかった。

 友人にも相談できなかった。だって、なんて相談する?向かいのマンションの一度だけ見たことがある名前も素性もわからない綺麗な女性が気になって毎日窓を見ていたら、どうやら彼女は誰かに尾行されているらしい、困っているみたいだから助けてあげたいけどどうすればいいかな、なんて、いくらなんでも気持ちが悪い。どう考えても気持ちが悪い。オブラートに包んだ言い方を模索したがどうにもうまく話せる気がしない。どこにでもいるような男にも、プライドはあるのだ。これは僕が自分で解決しなければならないことだ。



 そんなこんなでもやもやした日々が過ぎていったが、変化というのは訪れるものだ。



 その日僕は風邪で体調を崩し、仕事を休んで家で寝ていた。朝起きて熱を測ったら、37.8度だった。前日からのどが痛かったので、怪しいなと思ってはいたが、本当に風邪をひいてしまった。ずっと寝ていたら、気づけば夜の7時になっていた。寝すぎてもう眠れない。熱も引いたような気がする。僕はもう生活の一部となった、彼女の窓を見に行った。

 そういえば、この時間帯に彼女の窓を見るのは初めてだ。窓の灯りは消えていた。おそらくまだ帰ってきていないのだろう。僕は、なぜこんなに彼女に惹かれるのだろうか。見かけた程度で、会話したこともない、毎日なにをして過ごしているのか、そもそも仕事しているのか、彼氏はいるのか、友人はいるのか、何も知らないのだ。ただ一つわかることは、彼女が綺麗な人である、それだけだ。一目惚れというやつなのだろう。

 ぼんやりとしていたら、コツコツ、とヒールで地面を叩く音が遠くから聞こえてきた。はっと顔を上げると、彼女だ。彼女が帰ってきた。この時間帯に帰ってくるのか。彼女はやはり様子がおかしかった。しきりに後ろやマンションの外などをちらちら気にしているのだ。そして少し早歩きだ。

僕は確信した。彼女は誰かに尾行されている。居ても立っても居られなかった。彼女を尾行している誰かを探そう。そうしなければ彼女の幸せは守られない。

 風邪をひいているこの数日がラストチャンスだ。ここで突き止められなければ、ゲームオーバー。もう彼女を助けることはできないだろう。僕は明日も風邪を理由に仕事を休むことにした。



 僕の体調はすっかり良くなっていた。家の中からでもベランダほどではないが彼女の窓はよく見えるので、家の中から観察を続けた。朝8時に起きたとき、彼女の窓の灯りは消えていたので、たぶんもうどこかに出かけたあとだったのだろう。窓を見つめるだけでどこまでできるかわからないが、彼女にしてあげられるのはここまでだ。何かわかればいいのだが。

 夜の6時になったとき、向かいのマンションに人影が見えた。他の住人か?僕はベランダにそっと出た。

人影の正体は男だった。茶色いパーカーを着て、黒いニット帽をかぶっている。ジーパンを履いて、手をポケットにつっこんでいる。たぶん僕より若いと思う。その男は大股でずんずん歩いていき、慣れた動作でマンションのある部屋の扉の鍵穴に鍵を入れて回し、部屋に入っていった。



 その部屋は彼女の部屋だった。



 僕は目を見張った。彼女は一人暮らしではなかったのか。入っていったのは男だ。同棲?結婚している?それとも弟か?窓を見る限りでは彼女は一人暮らしだと思っていたが。僕が知らないだけであの灯りの向こう側は彼女だけでなく他の存在もいたのか。

 いや待てよ。この数か月間彼女の窓を見てきた僕だ。窓の灯りに時々見える人影には、複数人で住んでいるような空気は感じられなかった。彼女がいないときに灯りは消え、彼女がいるときに灯りはともる。一緒に住んでいる人がいるなら、話し声が聞こえてもいいものだが、そんなことは今まで一度もなかった。

 遠くでサイレンの音がする。僕はその音を現実のものと思ったがそうではなかった。頭の中で鳴っているのだ。ウーンウーン。これは非常事態なのだと、僕の本能が告げているのだ。もしも彼女が僕の思い違いではなく本当に一人暮らしだったら。そうだとしたら、あの男は。



 あの男は、誰なんだ。



 僕は反射的に走って部屋を飛び出した。



 僕は一体何をしているのだろう。走ってどこに行くつもりだ。頭では自分を否定したが、体は彼女のマンションに向けて全速力だった。マンションに行ってどうする?部屋に行くというのか?今まで一度も会ったことのない、何の面識もない女性の部屋に。犯罪者になってもいいのか?

 いや、行くんだ。僕の直感が正しければ、あの男は彼女と一緒に住んでいるやつではない。どうして部屋に入れたかはわからないが、あのまま彼女が帰ってきたら、きっと危ない目に遭うに違いない。そうなったら僕はもう一生後悔してもしきれないだろう。でも、もしかしたら、全部僕の勘違いかもしれない。本当は彼女と男は同棲していて、彼女が毎日不安そうな目で探しているのは紛れもなく僕の視線のことで、このまま部屋に行ったら捕まるのは男ではなく僕なのかもしれない。

 僕の将来を心配する自分がいる反面、もう一人大胆な自分もいて、訳が分からなかった。気づいた時には僕は彼女のマンション前にいた。



 そのとき初めて気づいたことだが、マンションはオートロックではなく、玄関は誰でも入れるような仕組みになっていた。彼女の部屋は僕と同じ2階で、一番端の部屋だった。

 行こう。彼女の部屋に。

 時刻は夜7時前だった。



 彼女の部屋はすぐに分かった。何度と見た場所だ。僕はこの勇気が冷めないうちに、早々と歩いて扉の前まで行った。そして、チャイムを鳴らした。

 だが、誰も出なかった。男は出て行ってしまったのだろうか。

 なんとなくドアノブに手をかけると、ドアノブはかちゃりと音を立てて回った。そして扉が開いた。



 僕はそろそろと中に入った。



「こんばんは。………誰かいますか」



 自分でも驚くくらい大きな声が出た。軽く部屋に響いたくらいだ。自分で自分を励まし、ゆっくりと靴を脱いだ。廊下は真っ暗だが、奥に見える、おそらくリビングであろう部屋の扉から灯りが漏れている。誰かいるのだ。

 誰かいるのに、チャイムを鳴らしても誰も出なかった。そして鍵があいている。ビンゴだ。やはりあの男は怪しいやつなのだ。この部屋の住人ではない。僕は汗でべたべたになった手をTシャツで拭いて、リビングの扉に手をかけた。

 次の瞬間、その扉がばん、と開かれた。手をかけていた僕は後ろにひっくり返って尻餅をついた。目の前には、あの男が立っていた。

 一瞬の間があった。


「おまえ、誰だ」

低い声が聞こえた。男がしゃべったのだ。

「誰だよ。あいつの新しい男か?なあ」

相手を脅すような、凄みのある声だ。僕より若いなんて思ったが、嘘かもしれない。

「僕は……向かいのマンションの者です」

僕の声が聞こえた。僕がしゃべったのだ。落ち着いていた。



「事情を話せば長くなりますが、僕はこの家に住んでいる女性と何の関わりもありません。ただ、いろいろあって、彼女を助けるためにこの部屋に来ました」

「助ける?彼女を?何からだよ」

「あなたからです」



 僕はまっすぐに男の目を見て言った。男の目の色が変わるのがわかった。



「おまえ、俺が誰かわかるか?わからないだろう。わからない相手を悪者呼ばわりしちゃいけないんじゃねえか?」

「じゃああなたは誰なんですか」

「教えるかよ」

男は鼻で笑った。でも僕は引かなかった。

「チャイムを鳴らしても出ない、玄関の鍵は開きっぱなし、部屋に突然入ってきた初対面の僕にも敬語も使わず半分脅すような口調で話すあなたが悪者じゃないなんて、そのほうが信じがたいです」

男が何か言おうと口をあけたその時、玄関の扉が開く音がした。



「………何……誰かいるの……?」



 見た目の印象とは裏腹に、思ったより低い声だった。彼女が帰ってきたのだ。彼女はリビングの扉の前にいる二人の男を見て、目を見開いた。

「ヨシヒロ……」

ヨシヒロと呼ばれた男は言った。

「待ってたんだぜ。ひどいじゃないか、ずっと俺を無視するようなことして」

にやにやしながらヨシヒロは僕を横目で見た。

「やっぱりヨシヒロだったんだ……私ずっと怖かったのよ」

「怖いってなんだよ。どいつもこいつも」

「あなたとは終わったはずよ」

「終わったあ?まだこの部屋の鍵も持ってるんだっつの」



 なるほど、この二人は昔の恋人同士なのだ。だがもう別れている。ヨシヒロはその時の鍵をずっと持っていて、彼女とよりを戻すために、彼女の行動を観察していた。ストーカーをしていたのだ。そして、彼女と話すため、部屋へやってきた。

 そこまで認識した僕は警察を呼ぼうと思った。彼女はやはりヨシヒロのことが怖いのだ。僕は歩いて玄関のほうに行った。彼女はあとずさりして、

「あなたは誰なんですか。ヨシヒロの友達ですか」

僕は無視して携帯電話を取り出した。そして小声で彼女に言った。

「今から警察に連絡します。ストーカーに遭ってたんですよね?」

彼女はえっ、と声を漏らしたが、その後うん、と頷いた。

 僕は玄関の外に出ながらそっと110番に電話をかけた。


 そこからのことはよく覚えていない。警察というのは思ったよりも行動が早くて、すぐに現場に来てくれた。警察がくるまでの間、適当な会話で時間を稼いだ。ヨシヒロは案外小心者だったようで、警察が来ると何の抵抗もせず、ごめんなさい、ごめんなさい、と言いながら連れていかれてしまった。あの様子を見ると、ずいぶんと後ろめたい出来事があるようだった。

 ヨシヒロのことをストーカーだといったが、僕も十分それに匹敵することをした。なんせ、知らない女性の窓を毎日観察して、ついにはその部屋まで行ってしまったのだ。彼女に怖がられて警察に駆け込まれても文句は言えない。僕は彼女に、もう安心ですね、とだけ言ってその場を立ち去ろうとした。

 しかし、彼女は僕を引き留めた。

「誰か存じ上げませんが……ありがとうございました。助かりました。本当に毎日怖くて怖くて……誰かに尾行されていて」

「気を付けてくださいね。世の中変な奴はたくさんいますから」

自分のことを棚に上げてよくそんなことが言えるものだ。僕は自嘲気味に笑った。

「さようなら。家に帰ります。お元気で」

「……あ」

彼女が何かを思い出した顔をした。

「あなた……向かいのマンションに住んでる方ではないですか?」

僕は心臓が跳ね上がるくらいにびっくりした。でも彼女はそんな僕を差し置いて話し続けた。

「私、あなたを見たことがあるんです。ヨシヒロに尾行されてることが気になって眠れなかった夜に、窓を開けて外を見たんです。その時、向かいのマンションが目に入って。ある部屋のベランダの窓が開いているのに気づいたんですけど、その中に人がいました。一瞬でしたけど、なんとなく、あなただったような気がして……」

ああ、終了だ。僕の人生は終わりだ。向かいのマンションの男がここにいる理由など、どうやってごまかせばいいのだろう。



 黙って彼女の話を聞いていることが、逆に答えになってしまったらしく、

「やっぱり向かいのマンションの方なんですね。あの、どうしてここに来てくださったんですか?教えてください。話しにくいことですか?」

「ええ、とても話しにくいです……」

彼女はいたずらっぽい目を僕に向けて、言った。


「……そっか、あなただったんですね。私の窓をよく見ていた人」

「え?」

彼女は続けた。

「わかりますよ。こんなに近くのマンションですから」

ばれていないと思っていたのは僕だけだったのだ。本当に、僕は馬鹿だ。

 でも彼女は、怒ることもなく、怖がることもなく、僕から話を聞きたい様子だった。意外と強気な性格なのかもしれない。

 僕は観念した。


 最近聞こえ始めた蝉の声が、何かの始まりを教えているようだった。


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