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賢木学園シリーズ

MAD Alien

作者: 村崎ユーキ

以前書いた小説を多少修正して投稿してみました。

凄くふざけた内容を楽しんで書きました。よろしくお願いします。


 空白の時間の経て、たって今俺は意識を取り戻した。



 俯いていた首を上げると、そこは無機質な白い壁に囲まれた部屋だった。


 どれくらい気を失っていたのだろう。同じ体勢を続けていたらしく、ひどく首や背中が痛む。というか、それ以前に何があったのか。身体だけでなく、頭も鈍く痛む。家を出てからここまでの記憶がぽっかりと抜けていた。



「柳之助くん。笠崎柳之助(かさざきりゅうのすけ)く~ん……!」


 ふいに後ろから声が響く。若い男の声だ。

 何故か身体が動かず、俺は口を動かすしかなかった。


「誰だ……お前は!」

「博士!! 柳之助君の意識が回復しました!!」

 男の声が、第三者を呼ぶ。もうひとり射るらしい。


 博士ぇ?


「ヨシダ、そのまま彼を逃がすな。縄で縛ったままにしておけ」

 女の声がする。というか……



「縄で縛ったままぁ?」


 目を開けると、俺の体は完全に椅子に固定されていた。手足の自由が利かない。

 着衣に乱れも無いし体の痛みも無いから、何か暴行を受けていたような様子は無い。俺は家から出たままの賢木高校指定の制服のままだった。

 手足が縛られている事だけが、どう考えてもおかしい。



 見あげれば、後ろに立っていたらしき白衣に身を包んだ二人組が目の前に現れた。

「ちょちょちょちょ……ちょっと! あんたら、俺に何したんだよ! つーか何だここは! さっさと返しやがれ! 学校だってあるんだぞ、俺は!!」


 俺は動けるところは全て動かし精一杯の抵抗を示した。

「すっかり覚醒したようだな。笠崎柳之助。……いや、これから長い付き合いになる。故に、柳之助とでも呼ぶか。私の名はヤマダだ。以後よろしく」

 ヤマダと名乗るその女は、ショートカットの黒髪をしたメガネの女だった。


 何故かメガネがやたら光っているので、どんな目つきをしている、のかよく分からない。しかし、ほっそりとした顔立ちに、薄く引かれた赤い口紅で、美人の部類に入るのではないかと思われる。しかし、白衣は膝くらいまである眺めのもので、その下は黒いワイシャツと黒いタイトスカートのようだ。スカートは短めで、白衣から直接細い足が覗く。なんだか色っぽい。



 そのヤマダの隣に立つ男は、彼女を「眩しいです!」と言わんばかりに頬を染めながら見つめていた。

「素敵です博士!」

「キモイな、お前」

 俺の言葉に「あっ、失礼!」と姿勢を正して俺の方に体勢を向けた。

「僕は、こちらの博士の助手のヨシダです。ヨロシクね、柳之助君」

 そう名乗るヨシダという男は身長190センチはありそうなデカイ男だった。

 ヤマダと同じくメガネで、ソレがやたら光っているので目つきが分かりかねた。

 ヨシダも丈のある白衣に身を包み、中は白いワイシャツに黒いスラックスのようだ。髪の毛は色素の薄めの茶色だったが、黒縁のメガネが知的な印象にさせる。



「お前ら……何がヨロシクだ! どうしてこの俺をこんな目に! 何が目的だ!」


 二人の自己紹介などどうでも良い俺は、この状況の説明を目の前のイカれた二人に求める。

 返ってきたのはヤマダと名乗る女の「はぁ? 柳之助、お前は馬鹿か。何も覚えてないのか?」という小馬鹿にしたような言葉だった。

 そのヤマダが、怒りを露にした俺の顔を覗き込む。全く恐怖の感情など皆無な、ただただ興味津々といった苛立ちすら覚える表情で、だ。

 しかし顔が近い……。こちらが顔を突き出せば接触しかねない位置。だというのに、メガネが光ってヤツの目つきがが分からない。謎だ。


「覚えてって……家を出てから、俺は……」



 俺は急に思い出した。

 そうだ、数時間前……。時刻はちょうど午前8時。


 俺はいつものように学校へ向かって歩いていた。校門前の横断歩道。信号は赤。

 交通量は少ないが、校門前で交通事故なんて馬鹿なことはしたくない俺は信号待ちをしていた。すると、後ろから黒ずくめの男が近づいてきたのだ。



 男は人が良さそうな声色と表情で「君、笠崎柳之助君だよね?」と、尋ねてきた。

「は? そうだけど。あんた誰?」


「悪いけど世界平和のために君を確保させてもらうよ」

 男は俺の顔に手を伸ばしてきた。

 あまりの突然の出来事に俺はそれを避けることができなかった。


「新手の宗教団体か、あんた……っっ!?」


 言ってる事は理解不能な危ない事なのに、口調がやたら軽くて丁寧で、俺は油断した。男にいきなりクロロフォルム的なモノが含まれているであろうハンカチが口元に押し付けられ、俺はそのまま意識を失ってしまったのだ。




「思い出した。思い出したぞ、お前ら!!」


 彼らに対する俺の感情は、不安から怒りに一気に代わった。


 ヤマダは「思い出したかぁ~」と呑気な言葉で続ける。

「お前はこのヨシダによってここに連れてこられたのだ」

「博士の命令なら僕はなんでもやります。それに大丈夫だよ、きみを殺す気はまったくないからね」

 続けられたヨシダの言葉は、相変わらず人が良さそうな悪びれた様子もない明るい言葉で響く。誰がどう見ても異常だ。


 何なんだ、この二人組は!!


「で、俺に何の用だよ。言っておくが俺の親父は中規模企業のただのサラリーマンだ! 身代金は出せねーから!!」

 挑発するように言ってやった。

「ヨシダに言われただろう。お前は世界平和の為に、ここに召喚されたのだ!」

 ヤマダの無駄に堂々とした言葉に、ヨシダが「知的です。博士」と続けた。


「ワケわかんねぇよ。召喚って、俺は魔物か何かか!」

 ヤマダは「人類の進化途上のような脳ミソでは理解は難しいか」と、憎たらしい事を言いながら、その場にあったパソコンをいじくり始め、続けて口を開く。

「誰が進化途上だ、コラ!」

 俺の反論は、もちろん無視で、だ。


 ヤマダは俺の言葉を全く聞いていない様子で「実は……ある報告により、地球に宇宙人がまぎれこんでいることが分かった」と、さらに意味不明な言葉を連ねる。

「不敵です。博士」

「宇……宙人……だと!?」

 理解しがたい言葉を吐き、ヤマダはそのままさらに続けた。

「私たちは政府の要請によりそいつらを駆除することになったのだ」

 ヨシダはキラキラとした曇りなき眼をヤマダに向け「意欲的です。博士」と、うっとりした様子で言葉を向ける。

 


「それでどうして俺が誘拐されなきゃいけないんだ!」

 ふふんと鼻で笑うとヤマダはパソコンを俺に向けて画面を見せた。そこにはどこの国の言語ともつかないような不思議な文字が陳列してクルクルと動いている。

 そして、その動きが止まるといきなり画面が切り替わって俺の写真が映った。年齢、生年月日、住所、親族関係や中学での成績、事細かな性格や嗜好まで……。



「なんだよ……これ……気持ち悪ぃ! お前ら俺のストーカーか?」

 ヨシダは「ストーカーなんて、ひどいなぁ」と言って、続けて言った。

「これは国のとある機関から借りた柳之助君のデータだよ。博士と僕はここにあるスーパーコンピューターを使って、相応しい人材についてありとあらゆるキーワードをキーに国民調査資料のデータベースを検索し、君にたどり着いたんだ。」

 額を右手で拭いながら「大変な作業だったよぉ」と、彼は言った。そうか、勝手にしやがれ。


「普通に言ってるけど、それ完全に個人情報保護できてない感じだろ! おかしいだろ!」

 俺のツッコミもよそに、なにやら左手で自分の後頭部を掻きながら「いやぁ~2日間眠れなかったんだから!」とヨシダは言うが、どうでもいい。


「大変とか俺に関係ねーし。ていうか、キーワードってなんだよ?」

 ヤマダが「よくぞ聞いた、柳之助」と言って、ヨシダと一緒に声をそろえてこう言った。


「ヒーローだっ!!」

「はぁあああああああ?」


 一体こいつらは何なんだ。

 俺の知らないところでワケの分からない奴らが勝手に動いて俺の了承も無しに馬鹿みたいなプロジェクトを推し進めているなんて……! 人権とは何なんだ!!!


 ヤマダは自信満々で俺を指差して口を開いた。

「柳之助、お前はスーパーコンピューターによって選ばれた者だ。これから我々と一緒に宇宙人と戦うんだ!! というか戦え!!」

「運命的です。博士!」


 俺はうつむきながら普段あまり使用しない思考をフル回転させる。

「ふ……ふふふふふふふふふふ……」

「んん? どうしました、柳之助君。イカれてしまいましたか?」

 そんな様子にヨシダとかいう男のほうは首を傾げているようだったが、どうでもいい。俺は高圧的な言い回しを続けるヤマダを前に、かつて無いほどに頭が冴え渡るのを感じた。


「分かった。じゃぁ、この縄を解いてくれないか?」


 そして、笑顔で顔を上げながらそう言った俺に、ヨシダは信用しきった様子で笑顔で俺の後ろに回って、手首を占めている縄目を解き始めた。

「決意してくれたんだね! 分かった。縄を解くよ!」

 思ったとおりだ。意外とこの男は馬鹿だ。俺が思わずニヤリと笑ってしまうと、それをヤマダの方は見ていたようだった。


「むっヨシダ! やめろ!」

「え……?」


 縄が解けた瞬間に俺は立ち上がる。


「お前らの言うとおりになんて、するわけねーだろ! この変態どもが!!!」

 ヨシダの顔面に渾身のストレート、ヤマダに全力の回し蹴りを食らわし部屋から逃げ出した。

 ベシャリという、何か液体の混じったようなモノが床に叩きつけられたような音が抜け出した部屋から聞こえてきたが、俺は気にせず二人を振り切る。




「いてててて……博士、すみましぇん……」

「いや、しかしこの基地から逃げられやしないだろう。顔認識と虹彩認証システムで施錠された扉が10枚もあるからな」


 ヤマダは得意顔で柳之助が飛び出していった扉に視線をやった。

 この部屋の扉は施錠はされていないようだったが、「基地」自体は高レベル情報エリアとして何重にもなった封鎖扉で深奥のこの部屋を守っている、と言うわけだ。

 しかし、ニヤリと笑うヤマダに対して床に倒れたままのヨシダは陰鬱な影を落としていた。


「は、博士……実は」

「何だ、ヨシダ」


 意を決したヨシダは顔を上げてヤマダに言う。


「柳之助君は、仲間になってくれると思っていたので……」

「んん?」

 モソモソと言葉を繋ぐヨシダにヤマダは何かを悟り、右の眉を吊り上げた。



「まさか、貴様!!」


 彼女は手元にあったパソコンをカタカタといじり、監視カメラ映像を表示させる。

 そこには、とうとう出口にたどり着き、外へと繋がる扉を開けた柳之助の姿があった。


「誰が、柳之助を通行許可者に加えろと言った! 早すぎるんだよ!!」

 ヤマダは床にへばっていたヨシダの首元を左手で掴み、彼の上半身を引き上げると、右手で彼の頬を握りこぶしで殴りつける。


「へぶしっっ」

 ヨシダの口からは変な呻き声と共に、血と涎が混じった液体が噴出す。


「が……スパコンに選ばれたことはある。我々を殴り、蹴り上げた力、そして出口まで駆け抜けた脚力と体力。すごい身体能力だ。柳之助、絶対に我々に手を貸してになってもらうぞ」

 ヤマダはヨシダを殴った右手を白いハンカチで拭きながら、メガネを今までに無く光らせるのであった。






 捕縛されていた部屋を出ると、数十メートルの廊下がくねくねと続き、そこを全力疾走で駆け抜けた。途中にはいくつもの扉があったが、鍵も何もかかっていたわけではなく、俺が目の前に通るたびに勝手に開いた。しかも……



『地球戦士、リュウノスケカサザキ 虹彩認証システム確認完了。通行を許可します』


 と、わざわざお名前まで言ってくれて、だ。


「つか、なんだよ地球戦士って……ダサッ。くっそダサすぎる。絶対にこんなクソダサいモンにはなるかよ!!」



 最終的に辿りついた扉を開いて出てみれば、そこには俺が通っている賢木高校の校舎があった。出口はだいぶ昔に環境を保全するためだとか何とかで法的に使えなくなった古い焼却炉の扉だったようだ。


「確かに、こんなボロッちい扉が秘密基地に繋がってるなんて誰も思わないよな」


 秘密基地は地下……がお決まりなのか。


 そして、ふと腕時計を見るともう10時だった。



「うげっ遅刻だ! 次会ったら、あいつら殺す!!」

 俺は泣きそうになりながら自分の教室――2年B組へと向かうのだった。あいつらにさえ出会わなければ、俺は無遅刻無欠席だったのに!!



 俺は大急ぎで教室に滑り込んだ俺は、肩で息をしながら教壇に立っている教師に告げる。


「すみません!!俺っ……諸事情により遅れて…………って、はぁ!?」

「いいえいいえ。人間一度や二度は失敗するものですよ。笠崎君☆」


 そこにいたのはさっきのヨシダだったのだ……。なぜ?! 瞬間移動か!?

 唖然としながら、力なく自席に座り込み、隣の女子に聞いた。


「誰だよ、あいつ……ていうか、いつもの先生は?」

「あぁ。ヨシダ先生。今日さ、生物の山本先生が何故かいきなり来られなくなっちゃったんだって。それで代任の先生が来たの。かっこいいよねぇ……?」


――何だよ、何故かいきなりって! 疑問に持てよ!




 奴から物凄い視線を感じた俺はとても気持ちが悪くなった。


「すみません、先生。気分が悪くなったので保健室で休ませてください!」

 思いっきり睨みつけてやる。


「あぁ、それはよくありませんね。誰か保健委員の方は?」

「一人で行けます!!」

「そうですか……では、お大事に」


 俺は教室を逃げるように飛び出した。




 何故何故……何故に!!

 どうしてこの俺が俺が俺が……!!

 こんなめに遭わなきゃいけないんだぁぁぁぁぁ…………!!!!



 保健室の目の前、俺は思った。

 本当だったらいつものように普通に、ふつ~~うに、学校に行って授業を受けているはずなのに。

 どうして今日に限って。もう、しょうがない。早退はしたくないから、保健室に逃げ込むしかない!!



「失礼します。気分が悪くなったので、しばらく休ませてください」

 ドアの向こうには白衣を着た女がそこに座っていた。

「ええ。どうぞ。でもこの授業時間だけだということを覚えておけ」

 あれ……。なんか聞き覚えのある声ぇえ!?



「だからおとなしく寝ているんだぞ、柳之助!」


 その女がこちらに振り返った。もう声や口調から完全に察しは付いたが……。


「お前ぇぇ、さっきの!!!!」

「保健医は何故か急に来れなくなってしまったからな。私が来た。代任のヤマダだ」


 見れば速攻で分かるわ!!!


「ヨシダといい、お前といい……先生たちを帰せよ!」

「お前こそ何を言っている。これは政府の命令なのだと言ったろう」

「なんだよそりゃ! お前のせいで俺は無遅刻無欠席の記録を駄目にしちゃったんだぞ!」


 これは本当だ。かなり悔しかった。


「それなら問題ない。こちらからこの学園の上層部に圧力をかけ、今後一切、笠崎柳之助の遅刻、欠席はすべて公欠扱いになることが先ほど議会で決定した」

 ヤマダはとんでもないことをさらりと言った。


「議会ってなんだ!?」

 何だよ、その展開は! 俺はヤマダたちの裏にある巨大な組織の存在に恐怖した。

「お前の存在はこの国にとって重大な存在なのだ。高校くらい卒業してもらわないと困る」

 ヤマダはかけているメガネの中央を中指で抑えながら言った。

「しかし、だ。ヒーローは清く正しく美しく……こんなところでサボってないでさっさと教室に戻れ! そして来るべき日に備え、勉学に励め!」


 その言葉と同時に臀部に激しい衝撃を感じた。

 その部分から直接的に、鈍い音がイヤと言うほどに耳に響いた。


「いでぇぇ!!」


 ヤマダはどこから取り出したのか、鉄のバットで俺のケツをぶん殴って保健室から追い出したのだ。




 ヤマダに殴られたケツをさすりながら情けなく教室に戻った俺。

 が、戻ったころには授業は終わっていて既にヨシダはいなくなっていた。そういや、もう昼休みだ。なんという午前中の時間の使い方をしてしまったんだろう。


「おっ柳之助! どうした? ケツに注射でも打たれたのか?」

 友人の一樹が飯を食いながら俺を馬鹿にしたように話しかけてきた。

「そんなことよりもはるかに酷い仕打ちを受けたよ」

「えぇ? 何されたんだよ、あの新任の美人先生に!!」


 一樹は何を期待しているのか、すごい興奮した様子で聞いてきた。

 どうせ、こいつの考えていることなんか予想はつく。俺はあえて無視を決め込んだ。

 というか、美人って……ヤマダのどこが美人といえるんだ。ヨシダのことといい、みんなの美的感覚を疑ってしまう。



「あれ……一樹。あいつ誰?」


 俺はふと、教室の一番後ろの窓際の席に座っている男子に目がいく。

 見たことがない奴だ。クラス全員の、とまではいかないか大量の女子たちに囲まれてちやほやされている。確かに顔立ちは整っている。おまけに、眺めの茶色い髪に青色がかった不思議な目の色をしている。

 異国の風が吹いてきそうな珍しい毛色の彼に、女子が興味を寄せるのも頷ける。



「ああ、あいつ? イシダだよ。家の都合で今日、急遽編入してきたとかで。お前は遅刻してきたから知らないんだよ」

 妙にトゲのある言い方だ。女子の人気が奴に傾いて面白くないのだろう。分かり易すぎる奴だ。それとも、俺が無視したのに腹を立てているのだろうか。

にしても、だ。


「今日、急遽編入……ねぇ」

 怪しい。ものすごい怪しい。ヨシダもヤマダも同じようなこと言って現れたし。

 何でみんな怪しいと思わないんだ?

 にしても、あいつらと同じように今日突然やってきたイシダとかいう奴。もしかして、ヤマダたちの仲間なのだろうか。


 俺はどうしても知りたくなってイシダのところへ向かった。

「おい、柳之助。どうした? 早くもイシダをシメるのか?」

 俺は一樹のくだらない発言を再び無視する。

「ちょっとまてよ、柳之助! シメるなら皆で! おい!!」




「イシダくん!」

「イシダく~んってばぁ~」

 イシダと呼ばれる男子生徒は、近付いて見れば顔立ちだけじゃなくて、すらっと長い手足でモデルのような体型だった。それから、いかにも賢そうな切れ長の目に細い線の顔。

 確かにこのクラスのブ男ばっかり見ている女子からすれば、余計に惹かれる対称だろう。悔しいが。


「ねぇ、ねぇ、イシダ君ってどこの高校から来たの? どこの出身?」

「イシダ君って、彼女いる?」

 取り巻く女子生徒たちがくだらない質問ばかりしている。

 会ったばかりの男の何を知りたいんだ。

「ははは……困ったなぁ……」

 イシダはまんざらでもない様子だ。余計ムカつく。



「……ん?」


 イシダは俺がいるのに気がついたらしい。まっすぐに俺を見ながら口角を吊り上げて嫌な笑みを浮かべ、口を開いた。

「そうだ、さっきの質問……。俺の出身地聞いてたよね。まぁ、宇宙の果ての惑星$δθжξ@*¥#(聞き取り不可能)とでも言っておこうかな」

「え~何言ってるの? わかんなーい。でも、イシダ君面白~い!」

 きゃはは……と笑っている女子たち。俺が何を言っても「カサザキウザイ」という言葉しか発しないくせに……なんということだ。

 イシダは俺を真顔で見ている。口だけが笑っていた。


 俺は思い切って声をかけてみた。

「イシダ君、はじめまして。俺は笠崎柳之助。遅刻して、さっき来たばっかりだからイシダくんのこと知らなくてさ」

 イシダはにっこり笑って言った。

「はじめまして、笠崎柳之助君。俺はイシダ。柳之助君のことはよく知ってる」

 イシダ、何かを企んでいるようないないような……からりとした口調でそう言った。

「……なんちゃって」

 イシダは「今言ったことが冗談だ」と周りにいる女子たちに言った。

「イシダくん、あのさ……」


 俺が続きの言葉を吐こうとした瞬間だった。

 教室のスピーカーから突然にチャイムの音が響いたのだ。



「って、なんなんだよ、この絶妙なタイミングは」

 それは、昼休み終了を告げるモノである。俺はがっくりと肩を落とした。


 しかし、負けじと顔を上げて俺は次の言葉を言おうとしたが、イシダは待ったと言わんばかりにパーにした手を俺の顔の前にやって、それを制止する。


「5時間目始まるから、放課後にでも、ね」

「え……」

「僕に聞きたいことがあるんじゃないの?」

 イシダは「ね?」と言いながら不敵な笑みを浮かべていた。席に戻った俺は、妙な胸騒ぎがした。あいつはヤマダとは違う、なんだか危険な感じがした。





「以上で、今日は終了。また、明日!」


 ホームルーム。

 担任の声がかかるとクラスメイトたちは一斉に動き出した。静かだった教室は放課後になった途端に、これでもかというほど騒がしい場所になる。

 一日のうちにたくさんのことがありすぎて俺はどっと疲れが出てきた。



―――本当は帰りたいけど……


 俺はそう思いながら、視線を後方の席に座る謎の転校生へと向けた。

 向こうも俺の視線に気付いたのか、ニコニコと笑顔を返してきた。



―――余裕って感じか?



 その笑顔を浮かべる奴の元へ向かおうとしたその時だった。再び、スピーカーからチャイムのとこが響いたのだ。一体何だというのだ。絶妙すぎる。



『2年生笠崎柳之助君。2年生笠崎柳之助君。大至急保健室まで来てください。』



 しかも、今度は呼び出し。俺の。

「何故保健室?!」


 あぁ、そうか。またヤマダか……。


「呼ばれてるね。柳之助君」

 視線の先にいたイシダが立っていた。少しばかり残念そうな表情だ。

「ああ……うん」

「まぁ、よろしくね。ヤマダ先生に」

 そう言うと、イシダはどこかへ行ってしまった。


 怪しい……。

 しかし、あの女に何をどうヨロシクすればいいのか、甚だ疑問だ。



 俺は、いやいやながらも保健室へ向かう。

 残念ながら、逃げ出しても無駄だと何となく思ったからだ。保健室に着くと、そこには当たり前のようにヤマダとヨシダの二人がいた。奴らは不自然なほどに顔に深刻な色を浮かべている。そして、俺が部屋に入ってきたのを見て、ヤマダが飛びついてきた。



「柳之助! お前、イシダに会ったのか?!」


「はぁ?」

 いきなりの質問に俺は回答に困る。しかし、何故イシダの話が。

「柳之助君。僕の……というか君のクラスに入ってきた新入生、どうやら宇宙人みたいなんだ」

「はぁ?」

 こいつらの、おそらく頭部にある致命的な病は当然ながら治っていないらしい。


 ヨシダは、話している内容とは裏腹にとても軽快な口調で言ったので、俺はどう反応すれば良いか困った。深刻な表情を浮かべながら軽い口調で話すなんて、難しい事を器用にこなすもんだ。理解しがたい。


「しかも、本部から送られてきた情報によると指名手配中の犯罪者らしい。星を1個破壊したとか」

 ヤマダが癖なのだろうか、また眼鏡を中指で抑えながらヨシダに続けて言った。

「巨視的です。博士」


「宇宙人? 指名手配中? 意味がわかんねーんだが……」

 俺はどうしようもなく大きな言葉に思考が停止した。何か意味無く叫びたい衝動に駆られる俺を置いて、二人はなにやら燃えている様子だ。



「というわけで、正義の味方笠崎柳之助の出番だな! 戦え、柳之助!」

「合目的的です。博士!」

 二人はつばが飛ぶほど顔を俺に近づけてきた。もう勘弁してください。

「なんで、俺が会ったばかりの転入生と戦わなきゃいけないんだよ!! つーか、俺には何もメリットがない!」

 しかし、ヤマダは一歩下がって俺を馬鹿にしたようにいった。


「何でってそりゃぁ、我々を動かす大いなる意思の下した命だからさ。というか、お前は自分がヒーローである自覚がないのか!?」

「お前! いきなり拘束されて脅迫みたいに押し付けられたのに、自覚も何もあるか!」


 俺は奴の理不尽な発言に頭に来る。


「そりゃ、まぁ。そうだよね……」

 ヨシダは俺の必死な発言に同調してくれたようだ。ヤマダに比べて比較的話せるとは思っていた。そのまま、隣の女をどうにかしてほしい。

「おい、ヨシダ! 何同意している!!」

 ヤマダはヨシダの発言にキレた様子で、ヨシダの胸倉を掴んで顔を自分の前に引き寄せた。二人の顔が物凄い近い。心なしか、ヨシダの頬が赤くなっている様子だ。


「ちょちょちょ……博士! 冗談ですよ、冗談!!」

「お前、こんな状態で冗談とか抜かしているとな、マジで消すぞ! 代わりのヨシダならいくらでもいるんだかな!!」

「博士~何言ってるんですか? 『代わりのヨシダ』じゃなくて『ヨシダの代わり』でしょ?」

 ヤマダは目で笑っていた。

 ヨシダはヤマダの意味深な表情に「えっ? えっ? えっ?」と額から汗をかきながら「何言っちゃってるんですか~」と彼女に言うも、ヤマダは無言だった。

 顔は近いが、全く色気も糞もない。

 アホか、こいつら。俺は二人のくだらない口論に飽き飽きした。



「おい、俺は帰るぞ」

 俺は立ち上がり、カバンを持って保健室のドアに手をかけた。

「あ! 柳之助!!」

 ヤマダが呼び止めたが、そんなこと知ったこっちゃない。



 俺は無駄に時間をつぶされた怒りをこめて勢いよくドアを開けた。

 ガララっと乾いた音が響いて滑るようにドアが開く。


「じゃぁな! もう俺に関わるんじゃねぇ!!」

 ヤマダとヨシダに声をかけ、部屋から出ようとした、時だった。



「こんにちは」


「え? え? ……イイイイイ……シダ!?」

 ドアの真ん前にイシダが立っていた。イシダは口元だけで笑っている。

 なんとも不気味な表情だ。

「イシダ……」

 ヤマダが驚いたようにイシダを見つめている。そしてはっと何かに気づいた。



「柳之助! そいつが犯罪者のイシダだ! 殺せ!!」

「可及的です。博士!!」

 二人は興奮状態だ。

 殺せだなんて、高校生に大人が吐く言葉じゃない。


「んな、無茶言うな!!」

「そうそう。相変わらず暴力的な発言しかしないね、あなたは」

 イシダはヤマダたちのことを知ったように話す。

 彼はゆっくりと歩きながら保健室の中に入ってきた。



「イシダ……お前何者なんだ? こいつらの仲間か?!」

 イシダは俺のほうを向いてにこっと笑っていった。


「さっきも挨拶したんだけどな。惑星$δθжξ@*¥#(聞き取り不可能)から来た宇宙人だよ」



―――――やっぱりですか!!!



「おまおまおま……お前も、う……宇宙人なのか?」

「いかにも。というか、俺から見れば君も宇宙人なんだけどね」

 そして、イシダはヤマダとヨシダを指差して言った。


「あの二人もそうだよ」


 その視線は知性の色を映し、彼らを睨みつける。彼の周りには殺気が満ちていた。

「おいおい、お前。それは言っちゃあ……」

「決定的です、博士!」

 ヤマダは「馬鹿、何言ってる!」とヨシダに言いながら後ずさりをした。


「へぇ……。まぁ、怪しいとは思っていたけど。マジか?」

 しかし、妙に納得がいく。イシダはさらに続けた。

「で? ヤマダ、俺の飛行艇から盗んだディバイダーはどうした?」

「ディバイダー……?」

 俺ははじめて聞く言葉に頭がついていかなかった。


「コンパスさ。アレが無いと帰れない。まぁ、君たちが盗んでくれたおかげでここが分かったんだけどね。笠崎君、こいつらはね、そうやって他の星の奴らの持ち物を盗んで、地球の奴らに売ることで生きてるゲスな奴らなんだよ」

 イシダは俺のほうへ向き直り、そう説明した。

 悪者はヤマダ達の方だったという事がはっきりとわかった。確かに本当に味方だったら、最初から誘拐まがい……否、俺を誘拐などするわけがない。



「まぁ、それを買ってこいつらに甘い汁吸わせてる地球の奴らも奴らだけど。笠崎君、君はヒーローにしてやるとか巧い事言われたみたいだけど、彼らの用心棒にされてしまうところだったんだよ。泥棒の片棒を担ぐところだったんだ」


 イシダは「危なかったね。一歩間違えたら大犯罪者だ」と俺の右肩を左手でポンポンと叩いた。


「ヒーローなんて、ワケ分からんことはやる気が全く無かったが、マジで……!?」

 俺の言葉にイシダは「マジマジ。大マジ」と何度も首を縦に振った。

 見れば、俺たちの会話を聞いていたらしいヤマダたちは冷や汗をだらだら流している。


「こっ、これは全てこの星のためだったんだ。この星の進歩に我々は手を貸してやっただけだ! お前こそ、犯罪者なんだろ!?」

 ヤマダは汗を流しつつも、強気な言葉で白衣のポケットに入っていたらしい紙を広げた。みれば、ど真ん中にデカデカとイシダの写真が載っていた。

 理解不能な文字がツラツラと並ぶが、おそらく『指名手配』とか何とか書いてあるに違いない。俺はヤマダが取り出した紙を見、すぐにイシダに視線を戻す。

 しかし、イシダは冷静なままにゆっくりと言葉を発した。



「君たちは勘違いしている」


 そう言いながら、ゆっくりとヤマダ達のほうへ向かって歩き出す。

「その情報は僕の正体に感づかれて君らが逃げないようにするため。指名手配なのは僕ではない」

 イシダが一歩踏み出すごとに、ヤマダとヨシダは一歩後ずさりする。完全にイシダのペースだ。しかし、俺はイシダが言うことの意味が理解できない。



「博士……そういえば、先ほどボスから新しい司令書が届いていて……」

 ヨシダが慌ててヤマダに何か渡した。

「馬鹿者! 早く渡さないかっっ。……って、これは」

 ヤマダは顔が真っ青になっていた。

「以下の者を宇宙平和法にのっとり、指名手配とするぅ……????」

「あっ。これ俺と博士の顔ですね」


 イシダはにこっと笑っていった。


「君らが言うボスねぇ、既に拘束しておいたよ。君たちのお仕事はもうここでおしまいさ。さぁ、俺についてきてもらうよ」

 イシダは手帳のような何かを取り出した。それをみたヤマダとヨシダは顔が青くなった。もしかして、警察手帳みたいなものか? ということはつまり……。


「逆って……」

「そう、指名手配されているのはお前らだ。ヤマダ、ヨシダ!!」

 イシダが指をヤマダとヨシダに向けると、それが合図であったのであろう、窓から、ドアから、何から、大勢の武装した人物がいきなり押し寄せてきた。



「どわぁぁぁ……!!」


 二人の悲鳴が保健室に響き渡った。

「生け捕りにするんだ! 殺すな!!」

 一瞬の出来事だった。気がつけばヤマダとヨシダは彼らによってお縄を頂戴していた。二人は手を後ろに縛られていた。

 俺と同じように。




 俺と同じように……?



「え……?」

 俺もヤマダとヨシダと同じように後ろ手に縛られていた。

「ちょっとまてぇい!! なんで俺までこんなことされているんだよ!」

 イシダは俺の肩に手を置き、笑顔で言った。

「君の行動はまるっと調べさせてもらったよ。少しとはいえヤマダヨシダと関わりをもってしまったからね。悪いが身柄は拘束させてもらうよ。ちょっとだけだから。色々聞きたいことがあるんだよなぁ」


 はぁ?


「ちょっと待て!! どう調べたらそういうことになるんだよ!! 俺は被害者だ!! 分かってんだろ!! てめぇら!! ちょっと……ちょちょちょちょっとっっ何処へ連れて行く!! うわぁぁ……」


 俺はのどがブチ切れてしまいそうなほどに叫び、わめき散らした。


「今更、そんなわめくな。男らしくないぞ、柳之助」

「運命的です、博士。そして柳之助君」

 ヤマダとヨシダは妙に冷静だ。


「お前ら!! 誰のせいだと思ってんだ!!」

 俺をまったく気遣う様子もなく、突入してきた武装隊とイシダは保健室を荒らしまくっていた。棚はひっくり返るし、消毒薬が入ったビンも割れてしまい、辺りにはアルコールの臭いが漂う。完全に病院の臭いだ。



「イシダ様、ディバイダーありました!」

「了解。引き上げるぞ。そいつらを連行しろ!」

「え……え……?? ちょっと……ちょっとぉぉ!! 待てやこら!!」

 俺はヤマダ、ヨシダと共に、何時の間にか保健室の窓にへばりつく様に空中に静止している妙な飛行物体に乗せられてしまった。

 窓際に座らせられ、飛行機が動き出す。俺の両隣には武装したイシダの仲間が座り、逃がさんとばかりに俺を睨みつける。

 

 俺は犯罪者か。




 上昇する浮遊感を感じながら、機体がどんどん地上から離れていくのが分かった。

 これからどうなってしまうのか……。というか、俺が何をしたって言うんだ。


 そして、この後ちゃんと帰してくれるのか? きっと明日の朝刊の見出しは『高校生 謎の失踪』で決まりだな。そんなことを考えられるだけ、まだこころにはゆとりがあるようだが……。俺はひたすら溜息を吐き続け、遠くを眺める。


 前方にはイシダと武装兵士が座る操縦席があった。もちろん窓がついている。


 

 その窓の遥かかなたに、青い地球らしき星が輝いていた。




 地球はやはり、青かった。





END


ヒーローとして扱われている奴らは絶対に嫌々戦っていると思う。そんな感じで作った話なのです。当初はバリバリ戦隊ものでも書こうかなぁ、とか考え、柳之助をイシダと戦わせようかと案を練っていました。


しかし、なんかギャグじゃなくてシリアスっぽい話になりそうで疲れると思ったのでやめました。笑



ご拝読ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] MAD Alien…気のオカシイ宇宙人はどっちのことやら、ということですね。ドタバタ騒々しい系ギャグで、テンポいいですね。個人的には「運命的です」のセリフがすきです。ぶっ飛んでる2人に腹立…
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