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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
3章 黒竜編

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男爵令嬢、新たな攻略ルートをスタートさせる

「私、前世はエステティシャンだったのよ」


 半裸の女性が施術されているということで、慌てて私はディランを追い出し改めてティアナに現状について説明してもらった。


「エステティシャン?」


「そうそう。アロマオイルを使ったタイプのエステサロンで働いていたの。これでもイギリスでしか取得できないアロマの資格持っているんだからね」


 自慢げにそういう彼女の手つきは確かにプロの技そのもので、ベッドで施術を受けている女性は深い眠りについているようにも見える。


「でも何故、ここで施術していますの?」


「最初はね、温泉に入っていたのよ。で、温泉から上がったらフローラルウォーターが売店で売ってたじゃない?久々にやってみようかな……って」


 温泉の入口にはタオルや石けん、下着など入浴に必要なものだけでなく、貧民街の工場で作られたフローラルウォーターなどもお土産として販売している。


「酒場でちょっとオイルを分けて貰ってね。マッサージオイルを作って自分で使っていたのよ」


 ベッドの横にはマッサージオイルらしき液体が置かれている。


「そしたら、この人がね、金貨一枚払うからマッサージしてくれないか、って言われてさ。借金も返さなきゃいけないし、お小遣い稼ぎにいいかなってマッサージしているわけ」


 ベッドで眠っている女性は、美容のために中心部から交通費を支払ってまで来てくれた令嬢の一人だ。エマの宣伝効果もあり、最近ではこうした上流階級の女性客の数も非常に増えてきている。


「マッサージオイルはフローラルウォーターとオイルで作れますの?」


「そうそう。フローラルウォーター40mlに対して、オイル10mlってところかしらね。精油があれば数滴垂らすともっと効果的よ」


 器に入ったマッサージオイルを手に取ると微かに薔薇の香りが漂ってくる。


「これは薔薇のフローラルウォーターを使ったの。薔薇はね女性ホルモンの調整にピッタリで、美容にも最適なのよ。精油にすると値段が高いのがデメリットだけど、フローラルウォーターだから安くて作れるのね。感心したわ」


 何気なく買い与えられていた精油だが、地方男爵令嬢の彼女からすると高価な買い物だったのだろう。


「ねぇ、ここでエステサロンを開いてみませんこと?」


 私の提案にティアナは明らかに嫌そうな表情を浮かべる。


「そりゃ――マッサージの仕事は好きよ?精油一つで効果が大きく変わったり、お客様が綺麗になったりするのは本当にやりがいがある仕事だったけど……」


 色々と裏がありそうなこともあり、ティアナについては常に警戒していた部分もあるが、精油やエステについて語る彼女の表情はこれまで見たことがない程綺麗だった。


「でもね……私はヒロインなの。頑張ればどんな男だって、振り向くのよ?それなのに前世みたいに働かなきゃいけないの?」


「前世の仕事はそんなに嫌でしたか?」


 グレイスとして転生して初めに思ったことが、元に戻れないか……ということだった。学費未納が原因で大学を卒業できないかもしれない絶望的な状況だったが、必死に面接を受けて勝ち取った就職先で働いてみたかった。勿論、数時間後にキースさんと出会い、その考えは全くなくなったのだが……。


「嫌じゃないけど……」


「私が言うのも何ですが、アルフレッド様が失踪されてからティアナ様の人生は悪化の一途をたどっていらっしゃりませんか?」


「そうよ!あんたの父親が死んでいれば、こんなことにはならなかったのに……。本当は城ホテルだってやりたくなかったのよ」


 ディランのいう城ホテルの経営が杜撰というのは、こんな彼女の心理状態を表しているのだろう。


「でも城ホテルを経営したら、イケメンセレブが来るかもしれないでしょ?そのために経営していたの」


 城ホテルに到着した時、彼女が一番に出迎えてくれた。手厚い歓迎だと感動したが、イケメンを決して逃さないようにするための経営努力だったのか……。とんでもない動機に思わず失笑しそうになる。だが表情筋を総動員して、真剣な表情を作る。


「私も誰かの妻になることで、何かを得たかったんです。『第二王子の妻』『医者の嫁』……素敵な肩書でしょ?」


 ティアナは私の言葉に力強く頷く。


「でもね……それよりも私個人として誰かに認めてもらう方が幸せになれるって分かったんです。自分の夢を誰かに託しちゃいけないんだ――って気付かされましたの」


「でも私一人じゃなにもできないわよ」

 

 そういったティアナは泣きそうな表情を浮かべていた。男爵令嬢とはいえ、平民と比べると裕福な生活を送っていたのだろう。その生活水準を保つには、並大抵の努力では不可能かもしれない。


「素晴らしいマッサージの技能をお持ちじゃないですか。勿論、ティアナ様が本当になさりたいことをするべきだとは思います。でも誰かをこんなに気持ちよさそうに眠らせるなんて……羨ましすぎますわ」


「サロンを開くなら、金を出すぞ」


 どこから話を聞いていたのだろうか……。扉の向こうからディランがそう言葉を投げかけた。


「でも城は……?」


「期日までに金が払われなかったからあれは俺のもんだ。でも、俺がそのサロンのオーナーなら、城も場所として提供してやる。美容に特化したホテル――儲かるぞ」


 扉の向こうの彼の表情は見えなかったが、例のごとく非常によい笑顔を浮かべているのだろう。ティアナは思わぬ形で新たなルートをスタートさせられたのかもしれない。


【御礼】

多数のブックマーク、評価をいただき本当にありがとうございます。


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