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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
3章 黒竜編

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黒竜の孵し方

6月19日に第75話『【キースのメモ】天然酵母の作り方』を追記いたしました。


 黒竜の卵を預けられて以来、私は毎日、夜になると砂風呂に通うようになった。エマのアドバイス通り、胎内の子供に向けるように卵に今日あったことなどを話して聞かせる。当初は子守唄を歌ってみたのだが、近くにいる人間が眠ってしまうという悪影響が発生したため子守唄は禁止された。大聖女の新たなる能力が発見された……という点では喜ぶべきなのかもしれないが。(きっと子育てをする際には『夜泣き』には困ることはないだろう)


「今日はね、冒険者のお客さんが多かったのよ」

「診療所は大変でね。お父さんはヘロヘロよ」


 勝手に自分をお母さん、キースさんをお父さんとして黒竜に話しかける。固有名詞が多く出てきてしまうときっと混乱するだろう――と配慮したのだ。決して願望ではない……多分。


「ニワトリの卵は20日で孵化するんですってね。商人から聞いたわよ」


 温泉宿を訪れる人にドラゴンの卵のかえし方を聞いてみたが、誰も明確な答えは与えてくれなかった。ただ中には「ニワトリの場合ならば……」と教えてくれる人がいたのだ。同じ卵だ。大きな違いはないだろう……とニワトリ方式を採用している。


 国語の教科書に載っていた物語か獣医漫画かは忘れたが、人工孵化させる時は卵を転がす……的なエピソードが登場した記憶ある。ドラゴンの卵にもそれが効果的かは若干疑問だったが、とりあえず何てこともない話をしながら時々卵をゆする。そして効果があるかは疑問だったが、回復魔法を使うように「元気な子がでてきますように――」と念じながら、卵に触れる。


 それは卵のために行っている言動だったが、その行為を通して何故か密かに癒されている自分も存在した。


「なんか楽しそうだね」


 その声と共にキースさんが砂風呂小屋の入口から入ってきた。


「意外に蒸し暑いんだね」


「閉め切っておりますと室温が上がりますから」


 私は座り直し、彼が座れるスペースを空ける。


「あれ? フェンリルは?」


「この暑さが苦手なんですって」


 私は小さく笑って、意外な事実を伝える。いつも冷静沈着で何事にも動じないような顔をしているフェンリルだが、サウナのような砂風呂小屋は苦手らしく近づこうとすらしない。フェンリルだけでなく、ほとんどの獣人は一度砂風呂小屋に足を踏み入れると二度と近づこうとはしなかった。おかげで貸し切り状態で砂風呂を楽しむことができるのだが……。


「確かに毛皮を着ているようなもんだもんな。でも人型になったら少しはましになるんじゃないか?」


「本当ですわね。コロも人型になれるんだから、フェンリルも人型……人型になれるですって?!」


 その段になり私は重大な事実にようやく気付いた。


「ということは、私、人型ではなかったとはいえ男性と毎晩添い寝していたことになるんですか?」


 フェンリルが一度も人型になったことがなかったから意識していなかったが、彼の胸に頭を預けて眠るが最近の就寝スタイルになりつつあった。


「どうか分からないけど、そうなるのかもね」


「じゃ、じゃあ……私、抱き着いたり撫でていたりしましたけど……それもそういうことに!?」


 撫でてくれというから当然のように撫でていたが、人間相手にしていたならば「セクハラ女」と言われても反論できない。


「そこらへんは獣人と人間では価値観が違うかもしれないよ」


 苦笑いをしながらそう言ってくれたキースさんだが、おそらく気休めに違いない。一度、コロと間違えて見知らぬダイアウルフに抱き着いた時、コロは烈火のごとく怒っていたが……そういうことだったのか。


「だけど個人的には、あんまり嬉しい状況ではないけどね」


 そう言ったキースさんの瞳が真剣だったことと、二人の距離が意外にも近かったことに驚かされる。「心配無用」と大見えを張っておいて、とんでもないことをしていたことにようやく気付かされた。


「怒っていらっしゃいます?」


 おそるおそる彼の表情を伺いながら、そう聞くとやはり笑顔でキースさんは「怒ってないよ」と優しく否定してくれる。


「君に触れることができる人間は俺だけであって欲しいと思うけど」

 

 キースさんは私の頬に手を当て、そのまま優しく唇を重ねた。それは触れるだけの優しい口づけだったが、私の胸は早鐘を打つように躍った。

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