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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
2章 精霊編

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鹿神様は死神だった件


「ねぇ、鹿の獣人っているの?」


 その日の夕方、森の端まで送ってもらうためコロの背中にしがみつきながら、そう質問した。本当は馬に乗るように優雅に横乗りしたいのだが、車のような速さで走る彼の上に乗るためにはしがみつくのが一番安全だった。いつもならば人目をはばかってできないコロのモフモフ感を楽しめる……というのも理由の一つだが。


『鹿?そんな奴いないぞ』


 あまり考える様子もなく、コロは即答する。


「今日ね、温泉で鹿の獣人の方を見たんだけど……」


『鹿の獣人?』


 そのワードに突如、コロの足が止まり振り落とされそうになる。


「うん。パウル達よりも少し小さいぐらいの女の子」


『白い服を着ていたか?』


「そうそう。白いひざ丈ぐらいのワンピース着ていたの。一人で温泉に入っていたからちょっと心配で……」


『心配なのはお前だ』


 コロはそう言うとクルリと身体を反転させ、来た道を引き返す。


「コロ、道が違うよ」


と私は叫ぶが、聞こえないのか一目散に鍾乳洞へと向かっていった。



「鹿神様をご覧になられただと?」


 コロの背中に乗り辿り着いたのは、診療所ではなく村長の部屋だった。コロの話を聞いた村長は、叫ぶようにして私を揺さぶる。


「鹿の角が着いた女の子が温泉に居まして……」


「あぁ……なんと言うことだ」


 村長は私の言葉にへたへたと地面に膝をつく。


「鹿神様は、死期が訪れた者の前にしか現れないんじゃ……」


 そんな村長の独白を聞いたコロは『クソっ』と小さく悪態をつく。


「どこか痛い場所、気分の悪い……というようなことはございませんか?」


「特に……そういう箇所はありませんけど……」


 改めて自分の現状を確認するが特に病に侵されている、といった様子はない。


「事故、ということもございます。キース殿をココにお連れしろ……」


『分かった』


 コロは悲しみを瞳いっぱいに浮かべてそう言うと、風のように部屋から飛び出ていく。


「むさ苦しい場所ですが、どうぞこちらでお休み下さい」


 そう言って案内されたのは真っ白なフェンリルのまえだった。おそるおそるその場に横たわると身体中をモフモフが覆う。特に体調が悪い訳では無いが一日の疲れがどっと溢れ出し、温かなフェンリルの体温と規則正しい鼓動が私を眠りに誘った。



「グレイス!グレイス!」


 キースさんの叫ぶような声と共に身体を揺すぶられ、私はうとうととしていた事に気付かされた。ふと周囲を見渡すとキースさんだけでなく獣人、魔物、リタ姉達が部屋に集まっている。至る所からすすり泣きも聞こえてきて、まるでお通夜のような雰囲気だ。


「どこか痛い?」


 私は首を横に振る。


「気分が悪い所は?」


 再び首を横に振る。むしろ定期的に温泉に入るようになってから調子がよいくらいだ。そんな私にキースさんは、うーーんと唸ると意を決したように顔を上げた。


「膨大な魔力を使いますので皆さん下がっていて下さい」


 キースさんの言葉に、私の布団代わりを務めてくれたフェンリルも渋々と言った様子でその場を立ち去る。部屋にキースさんと二人になるとキースさんは私を抱きしめた。


「体のどこが悪いか確認する魔法を使う。膨大な魔力を使うから俺が倒れるかもしれないけど、ちゃんと問題の箇所が何処なのかは伝えるから」


「キース様……」


「絶対、俺が治すから。死なせないから」



 その言葉通り、二十分後にはキースさんが地面に倒れていた。この世界では治癒魔法が多数存在するが、やみくもに使えばいいというものではない。使う場所、治癒する方法を選ばないといくら魔法をかけても効果は得られない。そのため何処の箇所が悪いかを検査する魔法が存在するのだ。


 診療の一環でキースさんがこの魔法を使うことは時々あるが、問題の箇所を絞って使うためこれ程魔力は消費しない。ただ大きな病院では専門の検査技師が存在するほど一定量以上の魔力を消費することでも知られている。日本で言うレントゲンのような魔法なのだろう。


「キース様、大丈夫ですか」


 私は慌てて彼を抱き起こすと彼は力なく微笑む。


「俺は……大丈夫。あと……グレイスの身体にも問題はなかったよ」


 力を振り絞るようにそう言うと、キースさんはそのまま意識を失った。

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