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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
1章 湯治編

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70/110

輝くもの手元に墜ち

 金と獣人の力は凄かった。当初、半年から一年が工期とされていた温泉宿の建設は二か月を待たずに完成することとなった。人並外れた腕力や体力がある獣人。正直、温泉宿で活用するのはもったいない程だ。


 この日、温泉宿の開店祝いを行う獣人らを私とディランは少し離れた場所から見守っていた。工場の時とは異なり、スポンサーは森の主。私達は末席で見学するのが筋だろう。


「ついに完成したな……」


 感無量といった様子のディランに私も頷き同意する。


「俺さ――夢だったんだよな」


 『夢』という意外な言葉に私はディランを見上げる。


「俺達商人はさ、本当に扱いが悪ぃんだ。それでもまだ俺はデカい商会にいるからいいけどさ……」


 貴族は別格の存在だが、平民の中でも小さな選民意識は存在する。その中でも商人の立ち位置は決して高いものではない。基本的に商品を転売することで利益を稼いでいるため、搾取されているイメージがついてしまうのだろう。それでも彼らから商品を購入しないと生活できないため、自然と当たりが強くなる。


 ゲームでは学園に出入りする商人として登場するディラン。やはり学園内でも自然と扱いは悪く多くの生徒に頭を下げる生活を強いられる(悪役令嬢時代のグレイスに至ってはディランの存在を無視していた)。ところが主人公・ティアナだけは対等に接するだけでなく、時には優しい言葉をかけていた。そんな彼女にディランは次第に惹かれていくのだ。


「だから他の連中の労働環境を改善してやりたい。ずっと思っていた」


「お金のためでないことぐらい私も分かっておりましたわ」


 この湯治場の料金は破格だ。入浴だけならば銅貨五枚(500円)、宿泊しても銀貨二枚(2000円)。勿論、宿泊施設といっても個室ではなく雑魚寝状態だが、長旅で疲れた身体を癒すには十分な環境ともいえる。


 一般的な王都内の宿泊施設の場合、一泊金貨一枚(10000円)程度だからその価格差は歴然だ。そしてこの価格設定を提案したのはディランだった。



「金を稼ぐのは大好きだ。頭を使って商品が売れた時は最高に気分がいい。だけど、お前と出会って誰かのために稼ぐってのも悪くねぇってことが分かった」


 彼の視線は相変わらず開店祝いを行っている獣人らにあったが、視線はさらにその先を見据えているようだ。


「なぁ――。俺と世界に行かねぇか?」


 そういった声はどこか震えている。やはり母が違うとはいえ兄弟なのだろうか。フレデリックの時もそうだったが、彼らは本当に優しい。見えないキースさんに対する罪悪感が、その言葉から伝わってくる。


「お前の力を王都内だけに留めておくのは勿体ねぇ。もっと多くの人を救えるし、俺と一緒なら世界だって変えられる」


「私は何もしておりませんわ」


 本当に私は何もしていない。資材を手配したのだって、アイディアを出したのだってディランだ。獣人らも手伝ってはいるが、設計し指示する職人を手配だってしている。梅肉エキスの時もそうだが、彼がいなかったらおそらく私は誰も救えなかっただろう。


「ディラン様は私よりももっと凄い力をお持ちでしてよ。きっとお一人でも大丈夫ですわ」


「無理か……」


 私の方へ振り返ながらそう言った彼は、どこか泣きそうな表情を浮かべている。


「私は王都内でディラン様のご活躍を応援しておりますわ」


 そんな表情に気付かないフリをして私が微笑んだ瞬間、腕が後方に引かれた。


「ちょっとグレイス、いい?」


 振り返るとそこにキースさんがいた。定期往診日ということもあり、仕事が終わったら駆けつけると言っていたのだ。


「勿論ですわ」


 という私の言葉を最後まで聞かずに、キースさんは珍しく手を強く握りながらグングンと鍾乳洞の方へ向かっていく。


「父に何かございましたか?」


 私の先を歩く彼の表情は見えないが、背中から漂う雰囲気はいつもの穏やかなそれとは異なっているのが分かる。


「ゴドウィン公爵は相変わらずお元気だったよ」


「では診療所で何か?」


「違う」


 返ってきた言葉があまりにも冷たかったので私は思わず首を傾げる。


「何か怒っていらっしゃいます?」


「怒ってない」


『怒っていない』というが確実に怒っているのが分かる。無言で足早に進む彼の背中を見ながら、その理由について思いを巡らせてみるが、特に思い当たる節はない。


「もしかして……ヤキモチを焼いていらっしゃいますの?」


 微かな希望を込めて、おそるおそる聞くとようやく彼の足が止まった。


「こんなこと言える立場じゃないのは分かっているけどさ」


 背中を向けたままの彼がどんな表情をしているかは分かりかねたが、私の予測は当たっていたようだ。不謹慎ながら思わず顔がにやける。


「俺以外の奴と仲良くして欲しくない」


 意外にも子供じみた願望に思わず私は吹き出してしまう。そんな私を睨むようにキースさんは勢いよく振り返った。


「なんだよ!」


「今も昔も私はキース様だけしか、見ておりませんわ」


 大丈夫、という代わりにつながれたキースさんの手に、もう一方の私の手を重ね微笑む。


「心配ご無用でございますわ」


 納得がいかないといった表情を浮かべているキースさんだったが、想いは伝わったらしい。先ほどまで感じられた不穏な空気が少しずつ薄まっていく気がした。


【御礼】

多数のブックマーク&評価、本当にありがとうございます。


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