梅干し作り~前編~
『梅干し』を手作りするというと「ハードルが高い」という人も多いだろうが、要点さえ押さえればさほど難しいものではない。物心ついた頃から祖母の梅干し作りを手伝っていた私はレシピを見なくても作れるようになっている。
・梅……2kg
・あら塩…360~400g
・焼酎…少量
材料はこれだけだ。材料が少ないという点も貧乏診療所にとっては非常に助かる。
「酒を造るには、酒の量が少なすぎる気がするんだが……」
「これは、梅干しを漬けるために使う道具を消毒するために使用します」
梅干し作りの大敵はなんといっても「カビ」だ。せっかくいい塩梅に漬かってもカビが発生してしまっては全てが台無しになる。
「梅自体を消毒する必要は?」
「梅は洗って、清潔な布で水気をふき取るだけで大丈夫です」
「なるほど。で、次は何をするんだ?」
何だかんだとメモをとり質問しながら、この梅干し作りをキースさんも楽しんでくれているようだ。ニコニコしながら私の指示に従って作業をしてくれている。
「梅の奥に残っているヘタ……この黒い部分ですね。これを取ります。梅に傷がつかないように注意してくださいませね」
「意外に難しいな」
「これだけたくさん梅がありますし、すぐに慣れますわ。私はこの作業が一番好きです」
前世の私は梅雨の時期に毎年、祖母と梅干作りをしていた。ヘタを取りながら、学校であったこと、昨日読んだ本のこと……そんな他愛もない話をし、祖母は「うんうん」と相槌を打ってくれていた。あの時はなんてことはない日常だったが、失った今かけがえのない時間だったことに気付かされる。
「公爵家ではこんなこともしていたのか……」
感心したように言われ、私は苦笑して何とかごまかす。キースさんはいい人だが、さすがに『前世』や『どきプリ2』の話をしても信じてもらえないだろう。
「来年もいたしますので、ぜひヘタ取りの技術は向上させてくださいませね」
少し感傷的な気分になったが、でも大丈夫だ。ここでもこうしてかけがえのない時間をスタートさせることができるのだから。
一時間ほどだろうか。山のようにある梅のヘタを取り終わり、キースさんも私も思わずため息をついていた。
「さすがに慣れたが、大変だな」
「あともう少しですわ!」
ヘタ取りが終わってしまえば、漬けるだけだ。容器の底に塩を一振り。次に梅を並べ、その上に塩を乗せる……というように梅と塩を交互に重ねて容器に入れる。
「塩の量が段々増えている気がするんだが」
「よくお気づきになられましたね。上にいくほど塩の量を増やすのがコツなんです。一番上は塩で梅がかくれるようにしたら、落し蓋を乗せ、重しを置いたら完了です」
「こんなに重い石を上に置いて梅は大丈夫なのか?」
心配そうな表情を浮かべながら、重しとなる石を置くキースさんに、私は笑顔で『大丈夫だ』と頷く。
「梅の重さの二倍が重しの理想的な重さと言われています。塩が間に入っているので、即潰れるということはありませんよ」
「これで、ようやく完成か」
「今日の作業はこれで終わりですが、一ヶ月後には天日干しをいたしますわ」
「“梅干し”作りって大変なんだな……」
私は笑顔でキースさんに手伝ってくれたことを感謝しながら、まだできていない梅干しを前に口の中に唾液があふれるのを感じた。
完結後にまとめますが、忘備録として…
【参考文献】
和味:梅干しの作り方(漬け方) (最終閲覧日:2019年4月23日)
http://www.nagomi-shop.jp/info/umeboshi.shtml
こだま食品株式会社:昔ながらの手作り梅の漬け方(最終閲覧日:2019年4月23日)
https://www.kodama-foods.co.jp/pickles-memo/pic-ume/u_shiso.html