獣人の少女が大人になるまで
パウラ達が工場の学校に通うようになったのは今から遡ること半年以上の前のこととなる。コロがパウラの父親であるクァール(ヒョウみたいな魔物)を連れてきたのがきっかけだった。
『うちの娘達をそちらの学校に通わせることはできないでしょうか』
彼は真剣な眼差しでそう訴えてきた。
「大したことはお教えできませんよ?字の読み書きと簡単な計算ぐらいですが……」
『えぇ、それで構いません。お願いします』
必死で頭を下げる彼が不思議で私は思わず首を傾げる。
『うちの子供達は獣人なんですが、魔物にはなれないんです』
コロは獣人だが、森の主を守るためにダイアウルフになることができるという。時と場合に合わせて獣人になったりもできるようだ。
『かくいう私も純粋な魔物で獣人にはなれないんですが……』
「こいつの嫁さんは獣人なんだけど、こいつは魔物だろ?だから子供はできたけど、普通の獣人みたいにはいかなかったみたいなんだよな」
なるほど……と感心しているとパウラ父は情けないと言った調子で首を垂れる。
『俺がいけないんです……。俺なんかが獣人の嫁さんを好きになったから……』
二人のラブロマンスが少し気になったが、それよりも大きなヒョウが小さくなるその姿には思わず同情してしまう。
「いや、あれはマリアも悪い。魔物のフリしてお前を誘惑したんだからさ。獣人かどうかなんて、正直獣人の格好をしていなきゃ分からねぇもん」
コロの口調から察するに、おそらく獣人と魔物のカップルが全く存在しないというわけではないのだろう。
「でも、そういう奴が森でも増えていてよ……」
「ちょっとよく分からないんだけど、魔物になれなかったら何か問題なの?勿論、割合は少ないけど王都内で普通に生活している獣人もいるよね?」
「そう、それなんだよ! 俺達は普通の獣人と違って、市民権がねぇんだ。昔に難民として避難してきた獣人が祖先でさ。ここの貧民街の奴らと同じだな」
各領地から農民を離さないために、商人や冒険者など一部の職業を除いて市民権がなければ王都自体に入ることすらできない。そして市民権がないと労働者として働くこともできないのだ。
「だから成人した獣人は森の主の護衛ってことで雇ってもらっているけど、魔物に変われない奴らは戦力にならねぇんだ」
そういって自慢げに胸を張るコロは、どうやら森の主の護衛として役に立っているという自信があるのだろう。むやみに足を踏み入れるべきではないといわれている森だが、意外に侵入者は多いのかもしれない。
「それで護衛以外の人生はないか……と模索していたわけね」
『そうなんです。私達両親が生きている間は、それでいいかもしれませんが、その後のことを考えると……』
「学校に通わせようとしたらしいんだけどよ、獣人は通えねぇんだよ」
「え?そうなの?」
初めて聞く事実に思わず耳を疑う。明らかに見た目が違う獣人だが、彼らは特別差別の対象となっているわけではない。勿論、その見た目の珍しさからエルフ同様奴隷として売買されることは多いが……。それでも学校に入学できないというのは初耳だった。
「金を払えば入れてくれんのかな~~って思ったんだけど、受験資格すらねぇって門前払いされちまった」
学園時代、国外からの留学生が同級生にいたが、獣人の姿を校舎内で見たことは一度もなかった。
「それで工場の学校に白羽の矢が立ったわけね」
『私達がいなくても、二人の娘が森の外でちゃんと生活していけるようにしたいんです。お願いします』
最初から学校に通ってもらうつもりだったが、そんな真摯な姿を見ると快諾する以外の選択肢は私には残されていなかった。
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