『おばあちゃんの知恵』で、貧乏診療所を立て直してみせます!
「グレイス、改めて紹介するよ。弟のオリバーだ」
昼時をかなり過ぎ、ようやく午前の診療が終わった頃、キースは二階のダイニングで彼をそう紹介した。
「弟さん……?」
弟にしては随分年齢が近いように見えるが。ゲイということを隠すための方便なのか。
「母親が違うんだ」
「異母兄弟ってやつでね。同い年なんだけど、微妙に数日俺の方が先に生まれたんだ」
憮然とした表情で呟いたオリバーの言葉をキースさんが優しく補う。
「そうでしたの……」
てっきり『ゲイの嫁』という肩書を手に入れたと思っていたが、あっさりとその期待は裏切られ、思わずがっくりと肩を落とす。赤茶毛のキースに対して黒髪のオリバーだが、確かにスッキリした目元など似ていないわけでもない。遺伝子の不思議だ……。
「で、どうしたんだ?こんな昼間に」
「あぁ……これを届けようと思ってな」
オリバーがそう言って机の上に置いたのは琥珀色の液体だった。
「あぁ、もうそんな時期か。俺、これが好きなんだよな~」
キースは嬉しそうにその瓶を手にして、カップにトロリと注ぐと華やかな香りがあたりに広がる。
「これはなんですの?」
「梅酒っていうちょっと珍しい果汁酒なんだ」
異世界だがベースとなるのは『どきプリ2』。梅なるものが、この世界に存在していたことに驚かされる。
「毎年、梅が取れる時期になると、去年の梅酒を持ってきてくれるんだ」
「梅が……とれるんですか?」
私は思わず乗り出していた。前世の記憶がなかったから当然かもしれないが、これまで“梅”というものをグレイスになってから口にしていない。
「うちの祖父の領地で大量に取れるが、あれは酒に漬けるしか能がない」
「そんなことありません!もしよかったら、少し譲っていただけませんか?勿論、対価はお支払いいたします」
「梅が欲しいのか?半分以上は毎回捨てているんだ。タダでくれてやるさ」
「ええ、とっても」
私は二日前から考えていた計画をこんなに早く実行に移せることに感動していた。
キースさんの診療所に来て最初に感じたのが、
衛生状態が非常に悪い
ということだ。ほぼ野戦病院並みの汚さ(見たことはないが)で、患者が平気で床に寝転がったり嘔吐したりとカオスだ。おそらく受付に人員を割けず、治療と受付を同時にキースさんが行っていたためだろう。
前世の私がよく利用していた近所の内科は驚くほど衛生的でゴミ一つ落ちていないし、いい香りが診療所内に漂っており、まるでサロンのような空間だった。さすがに、この診療所をそのレベルまで押し上げるのは物理的、金銭的にも難しそうだが『衛生的』にすることは難しくないはずだ。
それと同時に患者による二次感染を防ぎたかった。病院にちょっとした風邪で来院しても、院内でより強力な病原菌をもらって帰っている患者が一定数いるようだ。
そこで登場するのが
梅干し
だ。
奨学金を親が使い込んだことから分かるように前世の我が家は非常に貧乏だった。両親は共働きだったが、ギャンブルと酒のせいで常にカツカツの生活をしており、子供時代は大半の時間を祖母宅で生活していた。その祖母は必ず病院から帰ると
「いいかい、梅干しでうがいをするんだよ」
と梅干しを入れたお茶でうがいをさせた。正直、かなり不味かったし、専用の商品もあるのに……と思ったこともあるが、祖母は頑なに“梅うがい”をさせた。
他にも様々な効果がある梅干し。ぜひこの診療所にも導入したかったが、市場を回っても「梅」らしきものが販売されていなかった。 異世界だから仕方ないのかな……こうなったら自分で“梅”を交配してみるか?と思っていた矢先だったのだ。
今回紹介した『梅うがい』はあくまでも民間療法です。
タイトルにあるように『おばあちゃんの知恵』で、経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
作者も実践しており一定の効果を感じておりますが、個人の感想です。必ずしも効果を保証するものではありません。