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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
最終章

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猛スピードで『母』を卒業

「『梅干し』をご存知ですの?」


 床に打ち捨てられた梅干しを拾いながら、ふとある疑問にたどり着いた。梅肉エキスは既に王都下では有名になっており、至る場所で販売されている。一方梅干しは売れ行きが良くないことから私が愛用するに留めており流通には出していないのだ。そしてこの世界には『梅干し』は存在しない。


「もしかして貴女も転生してきたの?」


 私の疑問にティアナはハッとした表情を浮かべ、少しするとキッと私を睨む。


「なるほどね。あんたも転生者ってわけか……。だから梅干しが出てくるのね」


 先ほどまでの優雅な雰囲気は、どこかへ飛んで行ったようだ。心なしかフワフワしたピンクゴールドの髪の毛が逆立っているようにも見える。


「っていうかさ、じゃあなんで邪魔するわけよ?」


 素早く椅子を私の方へ近づけ、ティアナはそう言い寄る。


「邪魔しているわけじゃ……」


「しているでしょ?あんたのお父さん、何、婚約反対しちゃってくれてんの?確かに私はあんたの婚約者を略奪したけど、それがゲームでしょ?王道でしょ?」


 確かに彼女の言い分は最もだ。ゲームのメイン攻略対象である第二王子とヒロインが結婚するのはプレイヤーからすれば自然なことだ。だから私も文句も言わずに婚約破棄を受けいれた部分もある。


「しかもさ、あんたディラン、ユアン、フレデリックだけじゃ飽き足らず、キースにオリバーまで侍らせてるらしいじゃん。ほぼ逆ハーレムエンドでしょそれ」


「ちょっと待って……。『キースにオリバー』って、二人は攻略対象じゃないでしょ」


 私は慌てて彼女の指摘を訂正する。確かにイケメンだが、キースさんやオリバーは攻略対象だった記憶はない。もし攻略対象ならば、趣味、好きなお菓子、好きな服の傾向などを考慮して、もう少しうまく距離を縮められたはずだ。 


「あぁ~。あんたDSバージョンでしかプレイしてないでしょ。キース&オリバーはPSPバージョンで実装された攻略対象なのよ」


「え?! PSPバージョンって、そんな違いがあったの?!」


 単に遊ぶゲーム機が異なるだけだと思っていたが、攻略対象が増えていたことに驚愕させられる。キースさんが攻略できるのならPSPを新たに買うことだって、やぶさかではなかったはずだ。


「なんでもいいけど、私はさアルフレッドと幸せになって、あんたは他の攻略者と幸せになればいいでしょ?」


「大丈夫でございますか?」


 人が変わったようにまくし立てるティアナが心配になったのか、ディランがそう言って恐る恐る近づく。


「大丈夫大丈夫、放っておいて……ってイケメン店員かと思ったらディランじゃん!! ちょーーイケメン!! 王子一筋で攻略してきたから、見たことなかったんだよね」


 そう言ってティアナは興奮した様子でディランの顔をまじまじと覗き込む。もし彼女の手にスマホがあったならば、連写機能をフル活用して画像に収めていたに違いない。私も彼らを最初に見た時は静止画として何とか保存できないか頭を悩ませたものだ。


 ドスンッ。


 黄色い声を出しながらディランの周りをグルグルと回っていたティアナだが、その鈍い落下音にその場の空気が静まり返った。


「く、クッション?」


 エマの歓喜ともとれる言葉にティアナは、恐る恐る自分の足元に視線を落とす。そこには腹部に入れるにはちょうどいい大きさの布袋が落ちていた。ふとティアナの腹部を見てみると、先ほどのふくらみは消え嘘のように平らな状態に戻っている。


「きゃぁぁぁぁ!!!!」


 ティアナは泣き叫ぶようにして床に座り込むと、慌ててその布袋をスカートの下に隠し何やらゴソゴソと元に戻そうとし葛藤中だ。


「か、帰りましてよ!!!!」


 少しの間葛藤していたようだが、うまく戻せないことが分かると布袋をドレスごと抱えこむようにして持ち上げ、唖然としている取り巻き立ちを一喝し逃げ出すようにして店を後にした。



「すげーーな。あれ……」


 ティアナ達の姿が見えなくなるのを確認し、ディランは短いが的確な感想を口にした。

凄いアレと結婚する可能性もあったんだよ……と教えてあげたかったが勿論、口にしなかった。

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