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悪役令嬢、おばあちゃんの知恵で大聖女に?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜   作者: 小早川真寛
最終章

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たった一つの決して冴えないやり方

「ティアナ様が妊娠しているって噂なんです」


 この話をしたくて堪らなかったという表情でエマは語る。


「エマ……、このような所に来てまで、そのお話をなさいますの?」


 私は周囲を見回して小さくため息をつく。診療所が休みということもあり、今日はディランが新しく開いたというティーサロンを訪れていた。富裕層をターゲットにした店内の内装は重厚で、インテリアも高級品がずらりと並んでいる。店内の片隅では楽器を弾く奏者もおり、王宮のサロンを彷彿させるような落ち着いた時間が流れていた。


「だからですのよ。いち早くこの情報をお伝えしたくてお呼びしました」


 テーブルの上には紅茶、シャンパン、スコーン、ケーキ、フルーツが所狭しと並んでいる。これだけ揃えるには金貨一枚は下らないだろう……。久々に見た豪華なティータイムに免じて渋々エマの話に乗ることにした。


「でも妊娠されているようでしたら、何らかの形で婚約も進むのではございませんこと?」


 現在は王位継承権二位の第二王子。第一王子が子供を持たない場合、その子供は三位という立場になる。その生母が未婚のままというのは外聞が悪すぎるのだ。正妃という形が難しくても、側妃として迎えらえるに違いない。


「ですが、まだ婚約の話は進んでいない――と専ら噂になっています」


 私の言葉を『待っていた』と言わんばかりにエマは軽く身を乗り出す。


「ここだけの話、ティアナ様は妊娠されていない、という疑惑もあるんです」


「妊娠されていない?」


「えぇ、順調に腹部は大きくなられているんですが、日によって大きすぎたり小さくなったり……あれは妊娠しているお腹ではなく、クッションか何かを入れているんだと思います」


 エマはさらに立ち上がり


「こんな風にお腹が大きいのに簡単にしゃがんだりもされるんです。一度妊娠したことがある人間には直ぐ分かりました。普通はあんなことできませんよ」


と、いかにティアナの妊娠が不自然か力説する。


「後、公式の場所に登場する時は、絶対お腹を抱えて歩くんですよ」


 こうやってね、とお腹を両手で抱えるような仕草を見せる。


「おそらくクッションがずれ落ちることを心配して手が離せないんだと思うんですよね」


 彼女にとって『妊娠』は最大の切り札だ。クッションという可能性もあるのかもしれないが、おそらく妊娠していることをアピールしている気もする。


「でも妊娠を偽装しても実際に子供がお生まれにならなければ意味がないのに……どうなさるのかしら」


「結婚後、『流産した』ということにでも、なさるんじゃないですか?」


「浅はかですわね。偽装妊娠と発覚しましたら罪に問われ、一族にも迷惑がかかるのに……」


 エマは嬉しそうに、うんうんと頷く。彼女もおそらくティアナが最後まで偽装妊娠を隠し通せると思っていないのだろう。


「きっと偽装妊娠は発覚すると思うんです。その時こそ、グレイス様が王宮に戻られる時です」


 別に王宮に戻りたいわけではないのにな……と思いつつも、反論するのが面倒になりティーカップに口をつけた。口の中で広がる紅茶の豊潤な香りが私の心を落ち着かせてくれる。


 ふと視線をあげると店の奥から顔を出しているディランが嬉しそうに手をあげた。おそらくこの茶葉一つをとっても彼の選りすぐりなのだろう。返事をする代わりに『素敵な時間をありがとう』という意味をこめて微笑みを彼に返した瞬間


「あら、グレイス様にエマではございませんこと?」


と耳障りな声が背後から投げかけられた。噂をすれば何とやら……、振り返るとそこにはティアナとその取り巻きの姿があった。

 


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