スラム街の大聖女、魔法学校へ行く?!
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ジゼル様と親しくするキースさんにプリプリしながらも全速力でお茶の用意をし、階下へ降りようとしたところ、二人が談笑しながら階段を上がってくる。まるで夜会のワンシーンを見る程、優雅な二人に理由もなく腹が立った。
「お茶をお持ちしようと思ったんですが――」
「ありがとう。今日はちょっと早いけど、患者さんもいないし午前の診療は終わらせたよ」
キースさんは慣れた手つきでジゼル様に椅子を勧める。なんなの?この二人。
「ジゼル様に来てもらったのは、グレイスのためなんだ」
努めて怒りを顔に出さないようにしていたが私の異変を察したのか、ようやくキースさんがそう言って微笑む。
「ジゼル様は、オリバーの遠縁にあたるんだ」
だから開口一番に『オリバー』の名前が出て来たのか。オリバーの実家は大量の梅の実が収穫できるほどの敷地を有するわけだから、王族の親族といわれれば納得だ。
「それで君が医者になるための方法がないか、オリバーが相談してくれたんだ」
「でも神官学校に行かなければいけないと……」
神官学校は普通の学園以上に学費がかかる。年間金貨五百枚は下らないという噂も聞いたことがある。そのため一部の富裕層の子供か地方の神殿から推薦された優秀な生徒が集まる場所だ。
しかもトータルで十二年通わなければいけない。そんなお金も時間もどこにもない。
「一般的には十二年通わなければいけないけど、医療魔法の専門分野が始まるのは後半の六年間だけなんだ」
それでも六年は長すぎる。
「でもグレイス様は学園を卒業されていますでしょ?それにこの病院で医者見習いとしても活躍しているとオリバーから聞きましたわ。だから編入ができないか神官学校にかけあってみましたの」
ジゼルさんは何か幸せなものでも見るような笑顔を私に向けている。
「叔父様は随分、神官学校にも寄付をされていますので学園側は快諾してくださいましたわ。試験さえ合格されれば最後の三年間で医療魔法を使えるようになりましてよ」
私が学園に通っている間だけでも、学園敷地内に父の名前で建物や図書館が建てられた。神官学校にも多額の寄付をしていても不思議ではない。
「でも授業料が……」
「それなら大丈夫でしてよ。叔父様から持参金と手切れ金を預かってますわ。合計で金貨二万枚になりましてよ。何もご心配なさらなくても大丈夫ではなくて?」
「そ、そんな大金……」
「公衆の面前で婚約破棄されたら当然ですわ。それでも金貨一万枚では私は少なすぎると思いましてよ?」
公爵令嬢の持参金が金貨一万枚、手切れ金が一万枚(各約一億)。さらに三年で回復魔法が使えるようになるならば、非常に魅力的だ。
「それにね、ここから神官学校って直ぐなんだよ」
キースさんは喜々として窓の外を指さす。
「あそこに見える建物が神官学校なんだ。徒歩十分もかからないよ」
「神官学校だったんですのね」
彼の指さす先には神殿を模したような大きな白亜の建物が見える。なんとなく神殿関係の建物だとは思っていたが、あれが学校だったとはビックリだ。
「うん。学校の教室からここが見えるんだよ。だからここで働こうと思った」
「なかなかできることではありませんわ」
ジゼル様は愛おしそうにキースさんに微笑む。新たな未来が見えてきたのは嬉しいが、どうもこの二人の関係が釈然としない。
「それで今日、学部分けの試験が行われていますの。グレイス様、見学に行きません?ご一緒いたしますわ」
「試験って……何も準備しておりませんわ」
「大丈夫だよ。魔力がどれだけあって、医療魔法を使えるかどうか確認する試験だから。試しに受けてみてから編入するかどうか考えてみたら?」
珍しくキースさんに何かを勧められ、私はとりあえず頷くことにした。
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