ハーブの女王が不在…さすが異世界です
「アイディアは悪くないが、商人としては素人だな」
私の大発見をディランに自信たっぷりに披露すると、大きくため息をついて却下された。
「アルコールで衛生的になるのは誰でも知っている。なぁ?工場長」
「確かに冒険者時代、必ず酒を常備していました。勿論、回復薬やヒーラーがいるんですが、いざという時のためにですね。で、何事もなく依頼が終わったら、メンバーで全部飲み切るのがお決まりです」
公爵令嬢という身分が意外に役に立たないと感じるのがこういう時だ。世間を知らなすぎるのだ。
「誰もが簡単に作れるもんじゃ、商品になんねぇ。だってお前だって、自分で作れるもの、金払って買うか?まぁ、公爵令嬢様はどうだったか知らねぇが、少なくともこの界隈で買い物をするやつは買わないね」
おばあちゃんも、便利グッズを買ってくる母に「こんなもん、買わないでも作れるのに……」とよく愚痴をこぼしていた。
「でも、フローラルウォーターってのは名案だ。グレイスに言われて精油を作る道具を探したんだが、用意できることには用意できるが高すぎる。中古でも金貨五十枚って言われた。既に既存の商品が存在している以上、先行投資としては払えねぇ」
日本では一万円も払えば自宅用オイルメーカーを購入できたが、この世界では難しいのだろう。その点フローラルウォーターは、蓋つきの大きな鍋があれば作れるという点では非常に魅力的だ。
「人を増やさなきゃいけねぇな」
「それは大丈夫です。近所の人に声はかけてあるんで、働きたいって人は多いです」
その言葉を待っていたとばかりに工場長が顔を輝かせる。なんでも「早く働かせてくれ」と毎日のようにせっつかれていたらしい。
「よし、明日は材料を用意するから人を集めておけ。で、何の精油から作るんだ?その材料もいるだろ」
「ラベンダー一択ですわ!」
勢いよく私は提案する。
「ラベンダー?」
「精油には様々な効能がありますが、ラベンダーは万能精油といわれています。火傷やストレス解消にも効果的ですが、安眠効果なども期待できますわ」
「なるほどなるほど……で、ラベンダーってどんな植物なんだ?」
「ラベンダー……ないんですか?」
「一応探してみるけど……聞いたことねぇな。ユアンにも聞いてみるが、そんな万能薬みたいな花なら、俺が知らないワケないんだがな」
ハーブの女王といわれているラベンダー。ヨーロッパでは古くから使われていた植物なだけに、この世界に存在していないことに驚かされた。確かに精油ラインナップにラベンダーは存在していなかったが、「梅」同様に認知度が低いだけで存在しており、ディランに頼めば手に入るとばかり思っていた。
「そ、それではカモミールでお願いいたします。ラベンダー同様、使い勝手がよくて甘くてフルーティーな香りが特徴的ですわ」
カモミールも大好きな精油だが、ラベンダーが存在しない事実に私は少なからずショックを受けていた。
「ラベンダーって、どんな植物なの?私がよく行く森にたくさん、お花あるよ?」
落ち込む私を見て、リタが心配そうに見上げる。
「森……お花……たくさん?!」
微かな希望の光に私の心は踊る。
「明日、そこに連れて行ってくださいませ!!」
そうだ。なければ作ればいいし、探せばいいのだ。もしかしたら『ラベンダー』があるかもしれないし、それ以外にも便利な花や草が見つかる可能性だってある。




