ディランとユアンの深夜会議~大聖女の大誤算~
深夜の工場でその会議は静かに行われていた。
「で、デキが全然違うってのは、本当なのか?」
深刻そうな表情を浮かべるディランの言葉に、ユアンもやはり深刻そうにうなずく。
「見た目は全く一緒ですし、形状も味も寸分も違わないんですが……、全く別物としか言いようがありません」
ユアンはそう言って、ティースプーンに少しの梅肉エキスをすくい取り、ディランの手の甲に数滴垂らす。
「それがリタ達が作った梅肉エキスです」
「うん。不味いが、食べ過ぎてムカついていたが、爽やかな気分になるな」
その反応にユアンは満足げに頷く。工場で作られた物も決して手を抜いているわけではなく、質のいい商品であることには変わりないのだ。
「で、こちらがグレイス様の作った梅肉エキスです」
やはり同じように数滴甲に垂らした梅肉エキスを舐めた瞬間、ディランの表情が大きく変わる。
「なんだこれ……。爽やかになるってレベルじゃねぇぞ。胃がスッキリして食欲までわいてきやがった」
「使っている梅が違うのかと思いましたが、同じ梅でもリタ達が作った梅肉エキスにはこれ程の効能はないんです」
「何が違うんだ」
「私も不思議でしたので、グレイス様に目の前で作っていただいたのですが、特別変わった工程もありませんでした。どちらかというと工場長の方が慣れた手つきで作業していたぐらいです」
ユアンはその違いを見極めようと、グレイスだけでなく工場で行われている製造過程にも目を光らせたが大きな違いは発見できなかったようだ。
「このことは?」
「まだ誰にも……」
「とりあえずグレイスが作った商品は回収するしかねぇな」
「えぇ……この二つを同じ商品として販売しては、問題です」
ディランはグレイスの商品を高級商品として売り出すことも考えたが、グレイスが工場に毎日訪れて作らないかぎり、商品として数を用意することはできない。
「んだよ。使えんだか、使えねぇんだか」
「何にしろ、商品として販売経路にのせる前に発見できてよかったです。今後はグレイス様が製造にかかわらないように注意しておかなければいけませんね」
「知らせてくれて助かった。よし、目途がついたってことで、飲み直すか」
「え?! さっき、胃の調子を悪くするために、吐きそうになるぐらい飲んだり、食べたりしたじゃないですか」
そんな悲鳴に近い抗議の声を上げるユアンを無視して、ディランは逃がすまいと肩をガッと乱暴に抱く。
「胃がスッキリしたのはいいんだが、飲み足りなくなっちまった」
「ディラン――明日も私は仕事があるんですよ!!」
酔っ払い二人による深夜の極秘会議だったこともあり、その重大な事実は明るみにでることはなく、秘密裏に処理された。だが後に二人はこの時、この事実をグレイスに打ち明けていれば……と後悔することになる。
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