大不評は想定内…代替案も用意しております
「グレイス……大変言いづらいんだが、健康のためとはいえ、その梅干しを食べろ……というのは酷な話だと思うんだ」
訓練で疲れ果てているオリバーに梅干しを食べさせようとしていると、キースさんが申し訳なさそうに呟いた。
「いい薬とは、往々にして苦いものでしてよ?」
「うん。それは分かっている。薬師達が作る薬も大半が苦いものだ。でも……その梅干しは“苦い”では片付かない独特な味をしている気がするんだ」
確かに欧米の人に梅干しを食べろと言っても、簡単には口にしてくれないだろう。
「仕方ないですわね……。実は代替案も用意しておりますわ」
「「え?!」」
キースさんとオリバーが顔を見合わせるようにして、驚きの声を上げる。
「こちらが梅肉エキスですわ」
私はそう言って黒い液体が入った小さな小瓶を取り出す。食事目当てのリタとレオに手伝ってもらい、実は梅干し作りと並行して作っていたものだ。
「バイニクエキス……!?」
聞きなれない言葉に二人は首を傾げる。
「梅の果肉からとったエキスですの。作り方は梅干しより時間はかかりませんが、非常に手間暇はかかります」
既にメモを用意したキースさんを見て、私は簡単に作り方を説明した。
・梅干し作りのように梅を洗って水気を拭き取り、ヘタをとる。
・梅をおろし器ですりおろす。
・木綿の袋を二、三枚重ねてすりおろした梅を入れ、汁を絞り出す。
・絞った果汁を鍋に入れ、かき混ぜながら煮詰める。
この時注意したいのが使う道具だ。梅は強力な酸性なので、金属素材の道具を使用すると腐食しやすい。そのためおろし器は陶器(もしくはセラミック製)、鍋はホーロー鍋かガラス製、陶製のものを使うのがオススメだ。
「大体、四、五キロの梅から百グラム程度の梅肉エキスしかできないので、リタとレオには数日かけて梅をすりおろしてもらいましたの」
「あいつら……最近、俺の顔を見ると逃げるようになったのは、これのせいなのか……」
梅干し作りまでは喜んで手伝っていた二人だが、梅肉エキス作りの時には後半、目が死んでいたような気もする。ジューサーやミキサーがあれば、種を取り除き水を加えて撹拌すればいいのだが、残念ながらこの世界にはそんな便利な物は存在していない。
「梅干し特有の酸っぱさはありますが、固形物として摂取するよりも食べやすいかと思いますわ」
ティースプーンに三分の一ほど梅肉エキスをすくい、オリバーの紅茶が入ったカップの中に混ぜた。既に液体状になっているので、梅干しを使うよりも簡単に作れる。
「ささ、飲んでみてくださいませ」
梅番茶の時のようにオリバーは、やはり恐る恐る口をつけるが一口飲むとパッと顔を明るくする。
「これはいい!」
「ちょっと俺にも飲ませてくれ」
キースさんもティーカップを横から取り梅肉エキス入り紅茶を一口口にする。
「酸っぱさはあるけど、固形じゃないから摂取しやすいね」
「私も梅干し自体が受け入れられるとは思っておりませんでしたわ。でも、梅には殺菌効果があるので、梅うがいなど直接食べない方法でしたら使っていただけると思います。診療所の衛生環境を向上させるのにもピッタリでしてよ」
「なるほどね……。殺菌効果が期待できるから、梅干しを作ったのか」
「あら!? キース様、もしかして私が個人的に『食べたいから』作ったと思っていらっしゃいましたの?!」
「凄い嬉しそうに作っているから、てっきり君が一人で楽しむために造っているのかとばっかり……」
そのためにキースさんやリタらを巻き込んで梅干しを作っていた……と認識されていたのかと思うと恥ずかしさで顔が赤くなり、
「俺のためじゃないのか……」
と密かに呟いていたというオリバーの言葉さえも私の耳には届いていなかった。
【参考文献】
Meitan梅丹本舗:梅肉エキスの作り方(最終閲覧:2019年5月7日)
http://www.meitanhonpo.jp/cooking_bainikuekisu/
梅のある生活:作り方について質問集(最終閲覧:2019年5月11日)
https://minabe.net/umelife/ekis/qa_make.html
【注意】
今回紹介した『梅番茶』『梅肉エキス』による効能はあくまでも民間療法です。経験に基づいた知識であるため体質に合わない場合があります。体調に異変を感じた場合は、直ぐに使用を中止してください。
登場人物が一定の効果を感じておりますが個人の感想です。必ずしも効果を保証するものではありません。
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